2025年1月
皆様、新年あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。昨年の年はじめは能登半島地震や日航機と海保機の衝突事故が起こり、大変悲しく、またあわただしいお正月でしたが、今年はさほど大きなトラブルもなく、比較的落ち着いたお正月だったのではないかと思います。しかしながら、能登半島におきましては、震災からの復興がなかなか進まない中、9月の集中豪雨で、奥能登地域を中心に河川の氾濫、土砂災害が多発し、多くの方々が被害を受けられました。また、能登半島地震の復旧工事においても土砂崩れや仮設材の流出・破損などが生じ、工事に従事していた作業員の方が亡くなられたり、仮設住宅が床上浸水するなどの被害も発生しました。被害を受けられた方々にお見舞いを申し上げるとともに、一日も早い復興をお祈り申し上げるものでございます。
気象に関する大規模災害の発生は地球温暖化の影響であるとの見方がますます強くなってきておりますが、近年、地球の平均気温が大幅に増加し、昨年の世界の平均気温が産業革命時に比べて1.5℃を超えたという報道がございました。これは単年度のことですので、直ちに壊滅的な状況になるということを意味するものではございませんが、IPCCの掲げる1.5℃目標に赤信号が点り始めたということかと思います。カーボンニュートラルという目標に対して、今後の一層の真摯な対応が望まれるように思います。
その一方で、世界に目を向けますと、ウクライナ情勢は依然として膠着状態にあり、このことが、引き続き世界のエネルギー情勢や我が国のエネルギー安全保障に大きな影響を与える可能性がございます。また、本年はアメリカ合衆国がトランプ政権に代わりますが、パリ協定からの離脱が想定されており、中国・インド・ロシアも含めたCO2排出量1位から4位までの国における排出量抑制がこの先10年間ではなかなか見通せないことから、状況は混迷を続けるように思われます。これらの国際情勢に応じた柔軟な対応が必要であるようにも思います。
11月にアゼルバイジャンのバクーで開催されたCOP29では、気候資金に関する新規合同数値目標(NCQG)について、「2035年までに少なくとも年間3,000億ドル」の途上国支援目標(MDBによる支援、途上国による支援を含む)が決定されました。また、国際的に協力して削減・除去対策を実施するパリ協定第6条(市場メカニズム)の詳細ルールが決定され、完全運用化されることになりました。これにつきましては、わが国でもすでに排出量取引制度に関する検討が進められているところです。
現在、第7次エネルギー基本計画の議論が進められていますが、そこでは、2040年のエネルギー需給の見通しが提示されるとともに、電力需要や電源構成に関する一部見直しがおこなわれています。特に、前者では、DX(デジタルトランフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)の進展により2040年の電力需要が増加するという見込みが示され、脱炭素効果の高い再生可能エネルギーと原子力を最大限活用することが重要であるとうたわれています。私は、これまでの原則論からより現実的な解を求める方向にシフトしたものという印象を持っていますが、具体的な中身の議論はこれからです。カーボンニュートラル2050という目標とエネルギー安全保障・経済成長を鼎立させながら、トランジションをどのような戦略で展開してゆくのかが極めて重要であり、我々エネルギー総合工学研究所の社会的な役割が、今後ますます重要になってくるものと理解しています。当研究所といたしましても、総合的な技術力をもとに、今後のエネルギーシステムの在り方についての提言ができればと考えています。
さて、当エネルギー総合工学研究所は、地球環境、新エネルギー・電力システム、炭素循環、水素、原子力の5つの分野で、各技術分野課題の調査研究、月例研究会の実施、季報やNewsletterの発行、エネルギー総合工学シンポジウムや賛助会員会議の開催などの活動を行ってきておりますが、昨年もいくつか重要な進展がございました。1つ目は、4月に当研究所のこれまでの研究組織をカーボンニュートラル技術センターと原子力技術センターの2つに改組したことです。従来から、当研究所では、カーボンニュートラルを1つの大きな目標として研究を行ってきましたが、今回の改組は、当研究所がカーボンニュートラルに対して真正面から取り組む姿勢をより明確に示すものです。引き続き、今後の当研究所の取り組みにご期待いただきたいと存じます。
2つ目は当研究所のエネルギー総合工学シンポジウムで初めて「核融合」を取り上げたことです。核融合については、近年特に海外を中心にさまざまなスタートアップが活動しており、各国政府による支援体制や原型炉の計画も加速・強化されつつあります。こうした核融合開発の動きの活発化は、カーボンニュートラルの実現の見通しが厳しい中、将来的な切り札としての核融合への期待が高まっていることの現れだと思います。我々エネルギー総合工学研究所としては、あくまでも客観的にこの動きをとらえ、技術的な観点から、多くの専門家の方々とのパネル討論を通して、現状と今後の展望についての理解を深め、そしてそれを外部へ発信してゆくことが重要だと考えました。会場やインターネットでご視聴いただいた方々からは、大変なご好評をいただくことができ、当研究所の新たな分野での技術力を示すことができたものと思っています。当研究所としては、引き続き、新しいテーマへも積極的に取り組んでゆきたいと思います。
3つ目は、前年度に開催したエネルギー中長期ビジョンとトランジションのあり方を議論するエネルギー総合工学シンポシウム「カーボンニュートラル2050ビジョン」の成果を本として出版したことです。ここにはエネルギー総合工学研究所の総合力が遺憾なく発揮されているものと自負しており、こちらも多くの方々からご好評をいただいております。これは、2050年カーボンニュートラルを前提にしたシミュレーションによるエネルギー需給構造を提示し、その実現のための技術課題を展望するとともに、カーボンニュートラルに至るトランジションの絵姿について「IAEエネルギー中長期ビジョン」としてまとめる一方、専門家の委員の方々からのご意見も含めて出版したものです。現在、第7次エネルギー基本計画の議論がヤマ場を迎えておりますが、当研究所といたしましても、それらの議論を踏まえて、ビジョンの見直しを行ってゆく必要があるものと考えています。
また、当研究所研究員や外部講師をお招きして、調査研究成果や政策動向を含むエネルギー技術に関する最新情報をテーマとして毎月開催している「月例研究会」は、コロナ禍の時期からオンライン配信(現在は一部ハイブリッドでも実施)に切り替えましたが、毎回数百名の方々にご視聴いただいております。
さらには、各グループ内に設置された個別研究会も活発に活動しています。次世代電力ネットワーク(APNet)研究会では、東大先端電力エネルギー・環境技術教育研究アライアンス(APET)との共催で、同じく昨年11月に「2040年の電力システムの構築に向けた課題と展望」をメインテーマとしてシンポシウムを開催いたしました。その他、人為的炭素循環(ACC)技術研究会、太陽熱・蓄熱技術(STE)研究会等の個別分野研究会が、プラットホーム的な機能を担うべく、その活動内容を一層充実させるとともに、会員数の増加に取組んできております。
賛助会員の皆様方とスタートアップ企業をつなぐためのオープンイノベーションフォーラムという事業を、一昨年度、昨年度に引き続き、9月に(株)ケーエスピー社との共催によりハイブリッド形式で実施いたしました。今年度も、経済産業省関東経済産業局、神奈川県、川崎市からのご後援をいただき、これまでと同様、多数のマッチングの実現を見ております。このような取組みも、賛助会員をはじめ、ご関係の皆様からのご理解とご支援の賜物であると理解しており、改めて御礼を申し上げます。
研究所内の活動では、これまでの「再発防止策実施委員会」を「コンプライアンス委員会」と改め、また、毎年策定してきた「アクションプラン」をより普遍的な意味を持つ「コンプライアンスアクションプラン」と名称変更いたしました。これは、再発防止に関するこれまでの経験と実績を踏まえ、再発防止からコンプライアンスへの転換、さらにはそれを超えて、社会責任と企業倫理の実践を目指そうとするものです。これに基づき、コンプライアンスファーストを引き続いて徹底するとともに、より高度な企業価値の実現を目指して行動してゆきたいと思います。
ご存じのように今年は巳年(みどし)です。蛇は脱皮をすることでより大きく成長してゆきます。皆様方のご指導とご協力を頂いて、当研究所が、さらに脱皮して、いろいろな意味で一回り大きな組織となることを強く願っております。
最後になりましたが、本年が皆様方にとって良い年になりますことを祈念いたしまして、新年のご挨拶とさせていただきます。それでは、改めまして、本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。