当研究所の事業運営につきまして、日頃から格別のご支援、ご協力を賜り、厚くお礼申し上げます。
世界のエネルギー情勢は、新型コロナウィルス感染の影響など国際政治・社会における不透明感が増す中、構造的には新興国における経済成長に伴うエネルギー需要の拡大や電化の進展、世界規模での再生可能エネルギーの導入促進、米シェールオイル・ガスの生産、原子力の中国等での規模の拡大や小型モジュール炉をはじめとする次世代原子炉開発の動き等と相まって、大きく急速に変化しつつあります。 また、国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)におけるパリ協定実施のための詳細ルール策定作業の進展、持続可能な開発目標(SDGs)参画への動き等も踏まえ、我が国としては、これらの諸課題に的確に対応していくことが求められています。 一方、我が国のエネルギー情勢に関しては、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの導入が進む中、大量導入時の出力変動の吸収や火力発電の稼働率低下による調整力不足等が課題となっており、制度面での検討とともに蓄エネルギー技術やデジタル技術を用いた系統運用に係る技術開発等が進められております。
このような状況の中で、当研究所といたしましては、内外のエネルギー情勢や気候変動問題への対応の緊要性等を踏まえ、次世代電力ネットワーク、風力発電系統接続時の蓄電システム、太陽熱利用技術、蓄熱発電技術、カーボンリサイクル技術を中心としたCO2有効利用技術、水素の製造・輸送・需要等に関する調査研究を実施するとともに、原子力分野では、安全性向上に資するための技術開発、シビアアクシデント時の安全系機能に関する研究、原子力安全基準の動向調査、通常炉の廃止措置に係る標準の調査検討、人材育成の支援等を行ってまいりました。また、次世代電力ネットワークシステム、人為的カーボンサイクル技術、CO2フリー水素の普及シナリオ、原子力発電所の廃止措置に関する委員会等の企画や運営を行っております。さらには、調査研究の成果に加え、月例研究会、ニュースレター等を通じた情報発信により賛助会員様へのサービス提供、社会一般への貢献に努めております。
当研究所は、昭和53年4月の設立以来、「エネルギーの未来を開くのは技術である」との認識の下、時々のエネルギー情勢を踏まえつつ、俯瞰的、長期的、総合工学的な視座から、産学官の連携を図りながら、エネルギー環境技術に関する調査、研究、評価、普及に取り組んでまいりました。爾来、エネルギー情勢が変化しても、調査研究に取り組むにあたっての、この基本的な考え方が色褪せることはありません。
今後とも、エネルギー・環境をめぐる国内外の情勢は、第4次産業革命の進展、すなわちIoTやAI技術の発達とも相まって構造的に変化していきますし、新型コロナウィルス感染防止のためのニューノーマルの形成からも大きく影響を受けることが予想されます。また、そもそも絶えず変化する国際政治・経済の下では不確実性をもつものと考えられます。当研究所といたしましては、引き続き、当研究所の強みである、エネルギー・地球環境モデル、コストシミュレーション、調査研究アーカイブ等の研究基盤による分析・評価、国内外との人的・組織的ネットワーク、専門分野も含めた多様性の高い研究員構成等を生かしながら、調査研究及び事業活動を行ってまいります。
最後に、私といたしましては、調査研究の成果の着実な創出、賛助会員様をはじめとする関係機関へのサービスの充実強化等に尽力してまいります。そして、それらの積み重ねにより、これまで以上に社会から信頼され活用され社会に貢献できる研究所を目指します。関係の皆様方の引続きの力強いご指導とご支援を心よりお願い申し上げる次第です。