2026年1月

 皆様、新年あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

 近年、気候変動の影響からか、世界各地で大規模な山火事や大雨災害が多発しています。日本では、2025年2月に岩手県大船渡市で大規模火災が発生し、甚大な被害が広がりました。8月上旬には、日本列島の各地で大雨になりました。特に九州では、複数回にわたり線状降水帯が発生して、浸水や土砂災害、河川の氾濫など大雨災害に見舞われました。一方で、昨年は記録的な猛暑にも見舞われました。8月5日(火)は関東で記録的な高温となり、群馬県伊勢崎市で日本国内歴代最高気温となる41.8℃を観測しました。40℃以上を観測したアメダスは15時30分までに14地点となり、これは観測史上最も多い数字でした。また、8月の日本の平均気温は過去最高には届かなかったものの、基準値を大きく上回りました。IPCCの掲げる1.5℃目標に赤信号が点り始めたということなのかもしれません。カーボンニュートラルという目標に対して、今後の一層の真摯な対応が望まれるように思います。

 一方で、世界に目を向けますと、ウクライナ情勢は依然として膠着状態にあり、アメリカ合衆国のトランプ政権はパリ協定から離脱いたしましたし、中国・インド・ロシアも含めたCO2排出量1位から4位までの国における排出量抑制がこの先10年間ではなかなか見通せないことから、状況は混迷を続けるように思われます。これらの国際情勢に応じた柔軟な対応も必要かと思います。

 昨年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画では、我が国を取り巻くエネルギー情勢の変化を踏まえつつ、政府が新たに策定した2040年度温室効果ガス削減目標73%と整合する形で、エネルギー安定供給、経済成長、脱炭素の同時実現に取り組んでゆくとされています。特に、DX(デジタルトランフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)の進展により2040年の電力需要が増加するという見込みが示されました。そのため、徹底した省エネルギーや製造業の燃料転換などを進めるとともに、再生可能エネルギーや原子力など、エネルギー安全保障に寄与し、脱炭素効果の高い電源を最大限活用することがうたわれています。そういった意味で、昨年再稼働した中国電力島根原子力発電所2号機、東北電力女川原子力発電所2号機の2基のBWRに続き、1月に予定されている柏崎・刈羽原子力発電所6号機(BWR)の再稼働には非常に重要な意味があるものと思います。大きなトラブルなく、進めていただけるように期待しています。

 第6次からの状況の変化としては、水素・アンモニアはそのコストの高さから需要創出が遅れ、世界的には「水素バブル」というべきものがはじけた感がありますが、いわゆるhard to abate 分野を中心に水素・アンモニアはいずれ必須になると考えられることから、粘り強く研究開発を継続してゆく必要があると思われます。当エネルギー総合工学研究所は、カーボンニュートラルという言葉すらなかった1990年代から水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術(WE-NET)プロジェクトに参画し、世界各地に未利用のまま豊富に賦存する水力、太陽光、地熱等の再生可能エネルギーを用いた水の分解により水素を生成し、輸送・貯蔵して、発電・輸送用燃料・都市ガス等で利用するための国際的なクリーンエネルギーシステムの構築を目的として研究を行ってきました。現在はより広い視座から水素エネルギーグループで調査研究を行っておりますが、水素の製造コストをいかに下げられるかがカーボンニュートラルのためのキーになると考えられています。そこで、昨年12月のエネルギー総合工学シンポジウムでは「水素製造技術の新展開」をテーマに掲げ、所内外の専門家の方々による講演とパネルディスカッションを行ったところ、会場・オンラインを合わせて600名を超える方々のご参加をいただき、大変好評を博しました。

 第7次のエネルギー基本計画では、エネルギー需給見通しに関して複数のシナリオが示され、これまでの原則論からより現実的なオプションを示す方向を志向しているという印象を私は持っていますが、具体的な中身の議論はこれからだと思います。カーボンニュートラル2050という目標とエネルギー安全保障や経済安全保障を両立させながら、トランジションをどのような戦略で展開してゆくのかが極めて重要です。そして、我々エネルギー総合工学研究所の社会的な役割が、今後ますます重要になってくるものと理解しています。当研究所といたしましても、総合的な技術力をもとに、今後のエネルギーシステムの在り方についての提言ができればと考えています。

 昨年の石破政権退陣の後を受けて発足した高市政権では、日本の供給構造を抜本的に強化し、危機管理の観点から官民を挙げた重点投資を実施することを目的として、重点投資対象17項目が示されましたが、資源・エネルギー安全保障・GXと並んでフュージョンエネルギー(核融合)がとりあげられました。フュージョンエネルギーの研究開発については、国立研究機関のみならず、近年、さまざまなスタートアップが活動しており、そこへの投資は全世界で1兆円を超える規模となっています。各国政府による支援体制やパイロットプラントの計画も加速・強化されつつあります。こうした核融合開発の活発化は、カーボンニュートラル実現の見通しが厳しい中での将来的な切り札としての核融合への期待が高まっていることの現れだと思います。我々エネルギー総合工学研究所としては、できるだけ客観的にこの動きをとらえ、技術的な観点から、現状と今後の展望についての理解を深め、そしてそれを外部へ発信してゆくことが重要だと考えています。

 当エネルギー総合工学研究所は、地球環境、新エネルギー・電力システム、炭素循環、水素、原子力の5つの分野で、各技術分野課題の調査研究、季報やNewsletterの発行、月例研究会やエネルギー総合工学シンポジウム、賛助会員会議の開催などの活動を行ってきておりますが、2020年から継続して、「図解でわかるシリーズ」ほか、カーボンニュートラルに関する解説書を出版してきています。昨年は、新エネルギーグループが中心となり、「図解でわかる熱エネルギー」を技術評論社から出版いたしました。世界全体の最終エネルギー消費のうちの半分は熱として消費されており、その多くは化石燃料に依存しています。カーボンニュートラルを実現するためには、再エネ熱源の利用とゼロエミ電力による熱源の電化が有効です。その他、熱の有効活用も極めて重要であると考えられます。本書はそのような熱利用分野の現状や動向の全体像を俯瞰しつつ今後の取り組むべき方策について取りまとめたものです。是非ご一読をお願いいたします。当研究所としては、引き続き、新しいテーマへも積極的に取り組んでゆきたいと思います。

 なお、当研究所研究員やお招きする外部講師により、調査研究成果や政策動向を含むエネルギー技術に関する最新情報をテーマとして毎月開催している「月例研究会」は、本年より賛助会員限定とさせていただきました。賛助会員企業の方々には、これまで通り、無料でご視聴いただけますが、賛助会員企業以外の方のために新たに月例会員制度を設け、研究会終了後1週間の間、録画を視聴できるようにいたしました。

 さらには、各グループ内に設置された個別研究会も活発に活動しています。次世代電力ネットワーク(APNET)研究会では、東京大学先端電力エネルギー・環境技術教育研究アライアンス(APET)との共催で、昨年12月に「電力システムのレジリエンス」をメインテーマとしてシンポシウムを開催いたしました。その他、人為的炭素循環(ACC)技術研究会太陽熱・蓄熱技術(STE)研究会等の個別分野研究会が、プラットホーム的な機能を担うべく、その活動内容を一層充実させるとともに、会員数の増加に取組んできております。

 コンプライアンス関係では、不祥事以降、しっかりと実施してきた再発防止に関するこれまでの経験と実績を踏まえ、再発防止からコンプライアンスへの展開、さらにはそれを超えて、社会的責任と企業倫理の実践を目指しています。コンプライアンスファーストを引き続いて徹底するとともに、より高度な企業価値の実現を目指して活動してゆきたいと思います。不祥事の原因を決して忘れることなく、これを常に意識に留めながら、しかし同時に前向きのマインドをもって、さらに一歩を進めることを心がけたいと思います。また、財務状況につきましては、収支均衡まであと一歩というところまで来ています。賛助会員の皆様におかれましては、引き続きのご支援を、どうぞよろしくお願い申し上げます。

 ご存じのように今年は午年(うまどし)です。特に今年は丙午(ひのえうま)ということで、丙(ひのえ)は甲乙丙丁の丙(へい)で、陰陽五行説では「火」の兄(陽)にあたり、燃え盛る太陽のような強いエネルギーを象徴します。また午(うま)は 十二支でも「火」の属性を持ち、季節でいえばもっとも陽気が盛んな「真夏」を表すとされています。また、1日の時刻でいえば、太陽が南中する、まさに文字通りの正午です。つまり、丙午(ひのえうま)という年は、「火×火」が重なる、非常にエネルギーが強く、情熱的でスピード感あふれる年ということになります。皆様方のご協力を得て、当研究所が、情熱的に強いエネルギーを持って、いろいろなことに取り組み、さらに発展してゆけることを強く願うとともに、私も含め研究所員一同、精一杯働きたいと思っております。引き続きのご指導ご支援のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。

 最後になりましたが、本年が皆様方にとって良い年になりますことを祈念いたしまして、新年のご挨拶とさせていただきます。それでは、改めまして、本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。