「原子力の安全を問う」シリーズセミナー とりまとめ

添付資料3.各論点の解説

(1) 安全確保の考え方

現在の原子力の安全を守る構造、考え方に基づきモグラたたき的にシステムを改善していくのではなく、最悪のケースも想定し、そのリスクを社会的に合理的と判断されるレベルまで低減させるよう取り組むべきではないでしょうか。

 安全に関する大前提は、「絶対安全」は存在しないということです。現在の安全を守る構造や考え方の延長線上でモグラ叩き的に対応するのではなく、想定の論理と技法を再吟味した上で、最悪のケースを想定し対応を考えることが必要です。
許容可能なリスクは社会の価値観に基づいて判断され、残留リスクなど「想定外」の事象は、いかに確率が小さくても発生確率はゼロではないことを認識し、そのリスクを社会的に合理的と判断されるレベルにまで低減させるよう取り組むべきと考えます。
 食品安全分野では、事業者に安全に関し第一義的責任を持たせるとともに消費者に対し正確かつ適切な情報提供を行う義務を課しています。国は、事業者と消費者の間でリスク管理を行いますが、消費者の「安心」には信頼が不可欠ですので、政策決定の過程を透明化し、関係者の意見を聴きながら実施するリクスコミュニケーションが重要です。

第1回シンポジウムにおける向殿先生の講演を基に作成
(出所)第1回シンポジウムにおける向殿先生の講演を基に作成


第1回公開討論会における唐木先生の講演を基に作成
(出所)第1回公開討論会における唐木先生の講演を基に作成


(2) 5層の深層防護

原子力施設の安全確保のためには、従来の「異常発生の防止、異常拡大の防止、
異常影響の緩和」という3層に加え、過酷事故対策、防災も含めて一体的に運用する
「5層の深層防護」に基づき、工学的安全施設(ハード)と避難等(ソフト)を総合して、「人と土地、水などの環境」を守る全体システムを再構築するべきではないでしょうか。

新しい安全確保の枠組みとしては、リスクはゼロでないという考え方に立ち、①想定を超えるリスクを含め全体のリスクを十分に低減させること、②事故が起きても過酷事故(シビアアクシデント)に至らせないこと、③苛酷事故を緩和するシビアアクシデント対策を行うことが必要です。
 今後は、「5層の深層防護」の考え方に基づき、工学的安全施設(ハード)と避難等(ソフト)を総合して、「人と土地、水などの環境を守る」全体システムを再構築していくことが要請されます。安全目標として、単に死亡確率だけではなく、放射性物質の放出に伴う避難が実質的に不要なことや土地汚染がないことも含まれるべきと考えられます。
 継続的な安全確保努力により安全を担保する仕組みをつくっていくことが重要で、Safety Culture and SAHARA (Safety as high as reasonably achievable)の視点に立ち、合理的に達成可能な安全を目指していくことが必要です。

第1回シンポジウムにおける向殿先生の講演を基に作成
(出所)第1回公開討論会の岡本先生の講演、第4回公開討論会の河田先生の講演等を基に作成


(3) 安全文化による継続的な改善

安全確保は、保安基盤と安全文化が基本であり、想像力と創造力を駆使しつつ
継続的に改善していくべきです。安全文化の向上には、従事者の努力とともに
トップマネジメントの関与が重要です。

安全の実現のためには、安全理念の確立、安全知識基盤・安全工学手法の整備、それらの活用による人・組織の安全実現システムの整備、そして、適切な安全教育・啓発推進の体系的プログラムの構築が必要です。
安全確保は、保安基盤と安全文化からなる「保安力」が基本であり、想像力と創造力を駆使しつつ継続的に改善を行う安全文化が重要です。
今後、さらにリスクを下げていくためには、安全文化の徹底が必要で、安全文化の向上には、従事者の努力とともにトップマネジメントの関与、さらに広範の教育が重要です。

第1回シンポジウムにおける向殿先生の講演を基に作成
(出所)第2回公開討論会における田村先生の講演資料から引用


(4) 国際的な視点~事故・事象の教訓に学ぶ姿勢

 原子力安全の考え方やシステムの再構築は、国際的な視点から、その経験や
議論も踏まえ、今後の世界的な平和的利用の発展に貢献するようになされる
べきでないでしょうか。

 原子力の歴史の中で発生した苛酷事故や予想外の事象は、学習され、得られた教訓や知見は安全レベル向上に活かされ、全ての想定されるハザード(危険源)に対して、3つの基本的な安全機能(反応度制御、崩壊熱除去、放射性物質の閉じ込め)、また、安全機能システム防護が原子力安全上必要であることが、国際的に確認されてきました。
 原子力安全は、原子力を取り扱う高いレベルの個人の技能、良好な組織の管理、安全性文化の重視が必要です。規制当局も含め、決して十分に安全であるとは結論せず、常に“如何にすれば我々のプラントをより安全にできるか”を求めなければなりません。

第1回シンポジウムにおける向殿先生の講演を基に作成
(出所)第2回シンポジウムにおけるラクソネン氏の講演を基に作成


(5) 安全とリスクの考え方

人間社会では絶対の安全や「ゼロリスク」はあり得ないとの認識の下、安全か危険かの2項対立から、原子力安全に関し幅広くリスク論などを参考に議論していくべきではないでしょうか。

「安全・安心」は日本生まれの情緒的で曖昧な概念で、グローバル・スタンダード的に定義できない。「安全」はリスクが低いことの言換えに過ぎず、「安心」は直接該当する外国語が存在しません。今後は、それに代わり「リスク」の概念の導入が要請されます。
「リスク」の概念は、「リスク=危険」と誤訳され、日本では、なかなか受け入れません。しかしながら、巨大技術の安全性を考えるには、「安全か危険か」の二項対立の発想ではなく、「リスク」という起こりやすさを加えた発想を導入することが必要です。その上で、人文・社会系も含めた「開いた世界」の中で、安全を議論していくことが重要です。

第1回シンポジウムにおける向殿先生の講演を基に作成
(出所)第1回シンポジウムにおける木下先生の講演を基に作成


(6) リスクガバナンスの推進

巨大システムでは、複雑化、不確実化、曖昧さが増大するので、当事者の努力と
説明責任の上に、市民を含む利害関係者が協働できる場を作るとともに、科学的な
支援と専門性と公正さを有する第3者が関与する仕組みを作り、リスク低減を図ることが必要ではないでしょうか。このような努力の積み重ねにより、リスク低減を図るリスク
ガバナンスの推進が可能となります。

福島第一原子力発電所事故を踏まえると、あらゆるリスクが密接に関連し、システムの中の弱い部分が原因となり、システム構成単位間の相互依存によって事態が深刻化するリスクがあるという認識をもつことが必要です。
原子力に係る問題の多くは、技術というより、むしろ社会的な仕組みを変更することにより解決できる可能性が高く、リスクガバナンスの枠組みで考える必要があります。
巨大技術システムは、複雑性、不確実性、暖昧性が高く、最悪シナリオを作りリスクに取り組むためには、利害関係者が協働できる場を作るともに、関係者間に存在する、真に実践につなぐ “最後の1マイル”をいかに埋めるかと意識し、想像力と創造力を駆使して解を見出していく努力を行うことが要請されます。その際、コミュニケーションと熟議のシステムの構築と、科学的な支援と専門性と公正さを有する第3者が関与する仕組みを作ることが必要です。

第1回シンポジウムにおける向殿先生の講演を基に作成
(出所)第1回シンポジウムにおける木下先生の講演を基に作成


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