「原子力の安全を問う」シンポジウム

~新安全基準(設計基準、シビアアクシデント対策)骨子案を巡る論点~結果概要

 

(一社)日本原子力学会
(財)エネルギー総合工学研究所
 
標記のシンポジウム(主催:(一社)日本原子力学会、(財)エネルギー総合工学研究所、協賛:(一社)日本機械学会)は、2月17日(日)13時から17時半に、約200名の参加を得て、国際文化会館において開催され、新安全基準(設計基準、シビアアクシデント対策)骨子案を巡り、原子力規制委員会委員を含めた専門家間で、有意義な意見交換が行われた。
 

第一部:原子力安全と新安全基準

   講演を内容とする第一部では、先ず原子力規制委員会更田委員から新安全基準骨子案の内容について個人的な見解も交えた説明があった。新安全規制は本年7月18日までに施行することとなっているため、4月半ばまでに条文化する必要があり、現在、骨子案が2月7日~2月28日の期間でパブリックコメントにかけられていること、新安全基準は福島第一原発事故を踏まえて、シビアアクシデント対策を考慮した安全規制へ転換していくためのものであることが示された。この観点で事業者に原子力施設の安全性に関する総合的な評価の実施(いわゆる最終安全解析報告書(FSAR)の作成)を求めていくことが説明された。
 続いて原子力学会の専門家二人が、原子力安全の確保のための考え方と骨子案の論点について講演を行った。自然現象に対する防護レベル設定の困難さに対応した柔軟性を持った対策が必要であること、関係者の意識改革を促す安全基準が必要であり、そのために産学官から広く意見を集め最新の知見を集約する場として学会の役割が重要であることが示された。また、東京電力福島第一原発事故の原因と対策を分析するとともに、それを踏まえた国内の対策や、それ以前から行われていた欧米における安全対策の事例も紹介された。シビアアクシデント対策のリスク低減効果の定量的評価例も示された。

第二部:パネルディスカッション「新安全基準骨子案を巡る論点」

   第二部では、座長を含めて8名の専門家(うち3名は第一部の講演者)によって、新安全基準骨子案を巡り、「達成すべき安全のレベル」、「体系的な安全確保対策」及び「性能規定と仕様規定との関係」の3つの論点に絞って、パネルディスカッション形式で議論が交わされた。
 なお、限られた時間で議論を深めるため、以下の基本方針の下にディスカッションを行った。

  • 地震・津波基準(活断層問題を含む)は対象外とする。
  • 安全確保のための科学的・技術的な視点から議論を行い、エネルギー供給、経済性などの視点は含まない。
  • 議論が抽象論で終わらないよう具体的な事例を示す。一方、詳細な個別の議論とならないように留意し、個別の対策に言及する場合は、総論の中での位置付けを明確にする。

 第1の論点「達成すべき安全のレベル」では、国民にとって安全をレベルで議論すること自体が受け入れがたいという問題もあるとの指摘があった。しかしながら、いくら対策を施してもリスクは残るということを示し続けることは安全神話の復活を許さないことにつながるとの考えが示され、専門家が継続して原子力の諸活動が人や環境に及ぼすリスクを議論していくことが重要であるとされた。

 第2の論点「体系的な安全確保対策」では、先ず深層防護の考え方が取り上げられた。深層防護は、これまで内的事象に起因する事故を念頭に構築されてきたきらいがあり、外的事象を起因とする事故への対策を考える上では改めて検討が必要であること、深層防護のコンセプトは安全を守るための戦略であり柔軟に考えて行くべきこと、また、シビアアクシデントに対応した柔軟な対策を議論するうえで「前段否定」や「後段否定」の強調は時機を選んではどうか、などの指摘があった。
 シビアアクシデント基準と設計基準の関係については、全体としての性能が担保されていることが重要であり、両者を仕分けすることは本質ではないとの考えが示された。一方、そのような議論を拙速に行うと混乱を招く恐れがあり、先ず従来の設計基準の考え方を踏まえつつ、シビアアクシデント対策を考えるアプローチが必要との考えも示された。また、設計裕度を確保しつつ、クリフエッジの存在を考慮し、それに対応する柔軟性のある対策を検討しておくべきとの考え方も提示された。
 実効性のあるシビアアクシデント対策は、設備だけではなくマネジメントが重要となるため、規制委員会として、電気事業者と一緒に各サイトの弱点を探し出し、その対策を検討する一種の訓練のようなことも考えている旨、紹介があった。

 第3の論点「性能規定と仕様規定との関係」では、民間でやるべきことと国がやるべきことの仕分けが必要であり、安全目標、性能要求、機能要求と仕様規定といった体系化を早く実施し、詳細な技術的部分については民間の自主性に任せるべきとの指摘があった。これに対して、規制委員会が目指すものは性能規定化による新技術の導入を促すことであり、事業者が競って自主的な提案をしてくるような安全文化が醸成されていることが前提となること、技術的部分に大きな抜けがあっては困ることなどといった認識が示された。また、安全性を高めた事業者を正当に評価する仕組みが必要であるとの指摘があったが、規制委員会でもインセンティブを与える仕組みについて議論をしてところであり、民間から望ましい制度を提案してほしいとの要望があった。
 学会の規格・基準の活用など、原子力の安全性を高めるためには、産学官がそれぞれの特長を活かして協力していくことが重要との考えが示された。このためには、ステークホルダー間の信頼醸成が重要であり、海外の例も参考としつつ、例えば、民間の規格・基準の策定段階から規制機関が入って議論することが望ましいとの指摘もあった。

 会場との意見交換においては、格納容器フィルタードベントに対するPWRとBWRとの違いが問われ、シビアアクシデント時の時間的余裕などを考慮した基準を考えていることが示された。また、有効なシビアアクシデント対策を実施するうえで、耐震設計要求が妨げになるのではないかとの疑問が出されたが、規制委員会においても耐震設計要求とディーゼル発電機、バッテリーなどの設備要求との整合性の問題は認識しており検討している旨説明があった。
以上

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