プロフィール
谷口武俊(たにぐち・たけとし)
(財)電力中央研究所 研究参事、工学博士
東京大学大学院工学系研究科原子力専攻客員教授
特定非営利活動法人HSE リスク・シーキューブ代表理事。日本リスク研究学会理事、大阪大学大学院工学研究科特任教授を歴任。著書に『リスク意思決定論』(単著、大阪大学出版会)、『どうする日本の原子力-21世紀への提言』(共著、日刊工業新聞社)などがある。
講演要旨「技術リスクガバナンスを考える」
福島第一原子力発電所の過酷事故を考えると、あらゆるリスク領域がかつてないほど密接に関連し、システムの中の弱い部分が原因となってシステムの構成単位間の相互依存によって深刻化するというシステミックリスクが生じる時代に生きているという認識をもつことが必要です。
福島の事故以降、原子力に対して投げかけられている問いについては、リスクをもたらす活動の正当化までを含め、リスクガバナンスといった枠組みで考える必要があります。また、原子力が抱える問題の多くは、技術というより、むしろ社会的な仕組みを変更することにより解決できる可能性が高いと考えられます。
技術リスクガバナンスを構築していくためには、テクノロジーアセスメントの実施、社会的対話の場の設定と展開、多元主義の容認、認織共同体の形成が必要です。
巨大技術システムは複雑性、不確実性、暖昧性のレベルが総じて高く、リスクを制御可能であるという考え方から、回復能力を確保しつつリスクに適応、順応していくという考え方に変わらなければならないと思っています。