「原子力の安全性を問う」第3回公開討論会 
 パネル討論概要(2011年11月12日(土)開催)  

コーディネータ: 松井 一秋((財)エネルギー総合工学研究所 理事)
パネリスト  : 長坂 俊成(防災科学技術研究所 プロジェクトディレクター)
  本間 俊充(原子力機構 安全研究センター センター長)
  中林 啓修(明治大学危機管理センター 研究員)

パネル討論概要

Q1-1.(松井)

 環境汚染に対してどのようなレベルを判断基準として対策するのか、また、本間先生が示したグラフの見方について会場より質問がありました。さらに、福島第一原子力発電所事故で何%の放出があったのかなどの質問も頂いています。

A1-1.(本間)

 平成15年に原子力安全委員会が安全目標の中間とりまとめをした際に、私の講演資料17頁の図の解析を行いました。社会的リスクが問題となりましたが、その判断となるベンチマークが社会になく、また、社会的リスクを評価すること自体が難しいとの側面もあり、時期尚早と判断されました。福島第一原子力発電所では、0.数%から6~7%の揮発性ヨウ素、セシウムが放出されたと評価されています。米国における安全目標の検討では、大規模放出の定義としてヨウ素131の放出量がインベントリの約0.1%が早期の影響をもたらすレベルとされています。

Q1-2.(松井)

 0.1%に収めるためには、ベントしてスクラブするといったことが検討されていると思いますが。

A1-2.(本間)

 ベントに関しては検討されていると思います。また、そういった放出を~以下といった確率として示し、社会がどう受け取るか、目標として持つことに意味があると思います。

Q2-1.(松井)

 外部コストについて、ご質問がありました。

A2-1.(長坂)

 企業活動を行った時に、外部不経済というか、社会にリスクを押しつけてしまうことがあり、その点でも規制、ガバナンスを考えることが必要になるということです。

A2-2.(本間)

 原子力やエネルギーに係る評価では、外部コストは90年代の始めから検討されています。原子力の外部性では、ウラン鉱山のミルテーリングや再処理からの炭素14のように定常的に放出される核種が主に議論され、シビアアクシデントに関しては、コストとしては大きいが確率が小さいので期待値は小さくなると評価されてきました。しかし、リスクが顕在化した現段階では全く話が違ってくるのではないと考えられます。

A2-3.(松井)

 発電システムの外部性には、石炭火力などでは粒子状物質(PM:particulate matter)の健康影響が大きく、CO2も入るかもしれません。

Q3-1 .(松井)

 長坂先生に対して「国際標準のシステムの具体的な例は?」とのご質問がございます。

A3-1.(長坂)

 位置情報を伴った種々のハザード等に関する情報をインターネットを介して相互に流通させ組合せて利用できるものがISOのいくつかの標準などで決まっています。しかし、現状では平常時でも行われていませんし、今回の大震災でも利用可能とはなっていませんでした。これを検証していかないと危機管理といっても対策が打てません。

Q3-2.(松井)

 色々な情報が出ているが、使える情報になっていなかったのではないでしょうか。情報の活用との観点から、いかがでしょうか。

A3-2.(中林)

 これは先進的なシステムだけでなく、例えば防災行政無線のシステムが違うといったこともその例です。また、情報は、統合された情報と言うより、統合可能な情報が必要といったことと思います。

Q3-3.(松井)

 情報は出してもらえるとしても、システム・制度に実行上の問題があったのでしょうか。

A3-3.(本間)

 情報の観点から今回の原子力事故をみると、まず、専門家の役割とルールが用意されていなかった。また、専門知を活用するツールもなかったのではないかと思います。SPEEDIの公開性が問題になりましたが、こういう計算システムを防護措置範囲決定の判断で標準的に扱うことは国際的には殆どありません。今回、チェルノブイリの影響から、各国が、定量性が無いにもかかわらずシミュレーション結果を次々と公表しましたが、ERSS-SPEEDIでのシミュレーション結果は一次情報であり専門家の判断に供するべきもので、また、ソースタームの予測は不確実さが大きくそもそも不可能であるので、そのまま公開することには疑問を持っています。

Q3-4.(松井)

 今朝も、文科省がセシウムの汚染分布を公開していたようですが、分かりやすい一方でそれでよいのかとの問題もあるように感じます。

A3-4.(本間)

 汚染分布データを文科省が精力的に公開していることは評価できますが、情報の持つ意味を考えることが重要です。

Q4-1.(松井)

 東北の津波でやられた情報は、中長期的にも利用されることを考えておられるのでは?

A4-1.(長坂)

 税金を使って集めたデータは公開するのが原則と思います。ただし、データの持つ意味を説明することが必要です。
 一般の人が、その他の情報と組合せて総合的な判断ができないからデータを出さないと言うことは信頼を失うこととなります。 今回の課題は、的確な専門家の意見を用いて、政府が説明責任を果たせたのかという点ではないかと思います。避難生活時の間接死が多かったのですが、当初は「ボランティアを来させない」キャンペーンをやっており、自然災害の面でも、政府、専門家のメッセージ、メディアに大きな課題があったと思います。

Q5-1.(松井)

 国際的な反応を見ると、現場で働いている人々に対する賞賛の一方、日本の危機管理はどうなっているのかという不信がありました。今回、自然災害対応と原子力災害対応が分断されているような印象もありますが、今後、危機管理のあり方はどうしていけばよいのかとの観点でご意見を伺いたいと思います。

A5-1.(中林)

 そもそも原子力は国がイニシアティブをとって推進してきたものであるので、国が中心になって対応せざるを得ない部分があります。国と自治体との分断が起きていた部分は確かにあったようです。
 今後どうすべきかを考える際に、自治体の現場で課題はなかったのかという所から始める必要があります。オフサイトセンターには市町村からも人が派遣されることとなっていたが、実際に派遣できたところは限られていました。現場が、今ある法律制度の中でどんな対応できていたのか検証が必要です。中央では、危機管理の根幹を踏まえて、屋上屋を重ねた体制を見直す必要があります。

Q5-2.(松井)

 対策法の改定でといったことでしょうか、本間先生のご意見は如何でしょうか。

A5-2.(本間)

 原子力防災の専門家ではありませんが、各国の状況を見ると、原子力の専門性が強調されて他の防災とリンクしていません。もう少し自然災害とリンクさせるべきと思います。
 原子力災害においては、地方には、行うことが求められているモニタリングを実際に実行していく資源が足りません。米国では、モニタリングはエネルギー省がやっています。餅は餅屋に任せるシステムを作ることが必要です。また、原子力の防災センターでは、少人数でも、意思決定者に正確な情報を提供する専門家グループが必要と考えます。

Q6-1.(松井)

 防災関係も含め、原子力安全・保安院を他省へ移すということで話が進んでいますが、米国ではNRCが安全規制を担い、一方、FEMAなど危機対応組織があります。
 規制と防災は本来どういう姿であるべきか、ご意見をお願いします。

A6-1.(本間)

 NRCは規制機関として重要な役割を担っていますが、NRCは、Adviceをする立場で、責任を持つのは事業者であり、住民保護なとの役割は州政府等となっています。今後発足することとなる原子力安全庁と他の機関の責務分担は、十分に検討が必要と思います。

A6-2.(中林)

 今は移管の話が主になっていますが、より重要なことは強化をどのよう図るかです。技術支援機関も含めて、強化を図ることを検討しなければなりません。

A6-3.(長坂)

 制度論よりも、どのように運用するかが重要で、災害対策法は基本的にボトムアップですがトップダウンで使えない訳ではありません。情報提供する技術情報の分量が膨大であるなど、地方自治法がネックとも考えられます。また、予算獲得の面などから国と地方自治体の役割分担を必要以上に意識し、地方自治体への必要な情報提供に意識が働いていないのではないかとも考えられます。
 原子力防災の点では、危機管理のフレームワークにおいて「事業者の責任」という考え方に違和感があります。また、オフサイトセンターは、現場での情報集約と調整といった役割を考えれば、場所はこだわる必要はありません。

A6-4.(本間)

 同感です。米国では、原子力も含む全ての災害に対するオペレーションセンターがあり、プロが常駐し、原子力災害が起きた際には、NRCのリエゾンが来ることになっています。
 原子力災害も対象とするセンターが有能であると言われており、私が訪問した時、センターの原子力の専門家が、原子力緊急事態への備えが一生の仕事と認識していると言っていたのが印象的でした。
 わが国でも、そういうシステムが必要なのではないかと思います。

A6-5.(中林)

 箱物を作っただけではダメということは同感ですが、一定の要件を備えたハードを整備し、一箇所に人、情報を集めようとすること自体は全て否定されるものではありません。
 また、原子炉は炉毎に特性の違いもあり、それ相当のノウハウが必要になると考えられますので、事業者の責任という考えは必要ではないかと考えます。

A6-6.(長坂)

 オフサイトセンターは箱物を作る立地対策でしかありません。今回の津波で役所の庁舎まで消失した例を考えると、設備の要件を明示して、必要な設備を、例えば自衛隊が運んで行くことの方が現実的と思います。立派な通信設備を整備しても現実には使われません。

A6-5.(中林)

 それらも同様に使えませんでしたが、何故、使えなかったかの解明が必要です。

A6-7.(長坂)

 安い、高いではなく、自治体と国とが必要な情報を共有するためには、何が必要かとの観点で考えるべきと思います。

Q6-2.(松井)

 JCO事故の後、これで対策を取ったという形を示したとの側面もあったと思います。

A6-8.(長坂)

 リスクの分析がきちんと行われず、対策を講じていますとのポーズとして作られている実態を国民は知らないのではないかと思います。倒れないとの前提で作られた湾口防波堤防も今回倒れ、働きませんでした。ハードが一律に悪いのではなく、それぞれのリスク評価と求めている要素、エンドポイントが社会的に共有されていないことが問題と考えます。

Q7-1.(松井)

 対策を検討する際の想定については、如何ですか。

A7-1.(長坂)

 自然災害の対策は、基本的にハードによるハザードコントロールで考えられてきました。結果としてソフトを考えなければならないという素地がなかった。リスクの評価結果として想定が行われてきたのではないということが問題と考えます。

A7-2.(本間)

 今までの原子力防災は、格納容器が壊れないことを前提としてきましたが、それを超えるものがあることに対して対策をとるのが防災です。私は、想定事故を特定するのでは破綻するので、想定はスペクトルで考えるしかないと思います。
 EPZの範囲に関しては、各地方特有の状況があるので、一律に設定できるものでないので、地方自治体が住民も巻き込んで検討を行うべきと思います。

Q7-2.(松井)

 防災対策と設計とのリンクもあるのではないかと思います。

A7-3.(本間)

 立地を考える上で、防護施設との関係で離隔を、安全施設との関係で防災を考えることとなります。先進的原子炉でevacuation freeと言いますが、evacuation freeとまで行かなくともrelocation freeを目指し、その上で防災を考えるべきと思います。


【質疑応答】

Q1.(フロア)

 JNESで防災もやっていた経験から、今までのオフサイトセンターは役に立たないとの考えをもっていましたが、箱物が悪いのではなくて中身が悪いと思います。しっかりとした教育を受けた、クライシスのマネジメントをやる人が権限を持ち、情報も集中させることが必要と思います。仏では、マネジメントする権限にある人に専門スタッフが配され、シナリオなしの訓練をしています。日本でもシナリオなしの訓練をすべきと思います。
訓練され、全体を取り仕切る権限と能力を持った人が重要です。人材があらゆる防災の根源と思います。

A1-1. (中林)

 ご指摘のとおり人材が重要です。役所は人事がローテーションですので、複数の人材を同時に訓練すること、また、教育は組織の設計とセットで考えることが必要と思います。

A1-2.(長坂)

 具体的な対策の中身は、災害の種類によって変るにせよ、危機管理のフレームワークは、種々の災害に対し基本的には同じもので対応可能と思います。マネジメントの全体像を描くことが重要ですが、現状ではできていません。
 自治体にマネジメント能力を求めるには無理があります。この際、制度、組織、人材育成、情報をセットで検討して、改革していく必要があると考えています。


Q8.(松井)

 これまでの議論を踏まえ、補足なり、改めて強調しておきたい点があればお願いします。

Q8-1.(本間)

 地震・津波に起因する複合災害は、起こってみれば自然な現象と思います。長坂さんがご指摘のように、防災を共有のプラットフォームで見ないと対応できないのではないかと思います。その中で少数の原子力の専門家が意思決定者を支援する仕組みが必要です。
 訓練については、種々の訓練を行い最終的にシナリオレスを行うことが良いと思います。

Q8-2.(中林)

 リーダーシップは発揮するものであると同時に、認めるものでもあります。リーダーを育てていくということも考える必要があります。今の制度で出来たはずのことは何か検証すると、新しくしなければならない点が見えてくると思います。
 また、想定を超えた訓練を柔軟に行えるような制度が必要と思います。