プロフィール
本間 俊充(ほんま・としみつ)
(独)日本原子力研究開発機構 安全研究センター長
東京工業大学総合理工学研究科修士課程修了。旧原研に入所以来、原子力施設に起因する公衆のリスク評価に関する研究を行う。
2005 年原子力機構研究主席、リスク評価・防災研究グループリーダー兼務。2011 年10 月より安全研究センター長。現在、原子力安全委員会専門委員、ICRP 第4 委員会委員。
講演要旨「原子力緊急事態への備えと対応-福島事故から学ぶこと-」
TMI事故後、防災指針が策定され、JCO事故を契機に制定された原災法により我が国の原子力防災は一応の整備がされましたが、防護措置の意思決定が計算予測システムに過度に依存していたり、一時移転等の長期防護措置や解除の判断基準が欠落しているという課題がありました。
緊急事態への対応は、(1)予防的緊急防護措置(避難、屋内避難)から(2)緊急防護措置(飲食物に関する制限)を経て(3)早期防護措置(一時移転の準備)へと移行していきます。我が国の防災訓練では、避難や屋内退避の設定は計算予測システムのリアルタイム線量予測結果に基づいて実施しますが、線量予測は不確実さが大きいため、国際的には、施設の状態に基づく防護措置の開始トリガーを予め準備しておきます。重篤な確定的影響を防止するため、予防的緊急防護措置をまずとり、その後、モニタリング結果に基づいて、防護措置を拡大します。
飲食物に対する防護戦略では、ヨウ素の直接的被ばくの回避は即断すべきで、測定結果を待つのは遅すぎます。中長期的には、飲食物摂取制限レベルは、防護措置全体の最適化プロセスの中で検討すべきです。計画的避難についてはICRPの提言を参考にしましたが、緊急時から現存被ばく状況への移行では、利害関係者との十分なコミュニケーションが不可欠です。
IAEAの考え方は、チェルノブイリ事故等の経験の反映で、福島の場合も、それで対応可能だったのですが、わが国の緊急時対応措置は、炉の違いが強調されたため大きな影響を受けませんでした。福島の緊急時対応の失敗は、そのような緊急事態は起こりえないとして、準備段階での検討が十分でなかったことです。シビアアクシデントでも、人の健康被害は適切な防護措置によって回避可能かも知れませんが、土地汚染は生活・社会の基盤を損ないます。