プロフィール
吉倉 廣(よしくら・ひろし)
国立感染症研究所 名誉所員
東京大学医学部卒業。東京大学医科学研究所助手、助教授を経て、1981 年東京大学医学部教授。
1989年国立予防衛生研究所(現:国立感染症研究所)腸内ウィルス部長併任等を経て、1998年国立感染症研究所副所長。1999年国立国際医療センター研究所長。2001~2004年国立感染症研究所所長。2004年4月より、国立感染症研究所名誉所員。
講演要旨「遺伝子組換え食品の議論から眺めたリスクの議論」
事故後問題になっている放射線汚染、特に低線量汚染とその長期影響については、「良く分かっていないから不安だ」と云う理解から、食品の添加物、農薬あるいは遺伝子組換え食品などに似た状況があると思います。
放射線には閾値が無いとする考えがありますが、正常のバックグラウンド以上に照射線量が減る事はありませんので、自然環境暴露で起こるDNA損傷の量に相当する放射線量が閾値と考える事が出来るかも知れません。注意しなければならないのは、自然に起こるDNA損傷の数は莫大なもので、それを細胞は常時修復している事です。
食品中化学物質のリスク評価については一定の評価項目があり、通常摂取量の何倍もの量から順次希釈して投与し、効果を見ます。複数の評価項目の中で得られる最少毒性量の中で、最少値を最小毒性量とし、この値を通常100で割って摂取許容量(ADI)を出します。これは、実験値自体の安全見積もり枠(×10)、動物実験であることの安全見積もり枠(×10)として、「これならまあ安全だろう」とするある意味で目安値です。従ってADIは科学的な不確実性を見越した値です。コーデックスの許容放射線量も同様な考え方を適用し、且つ自然放射線暴露を考慮し決めた値であると考えるのが良いと思います。