3 石炭ガス化技術の種類と原理


3.1 石炭ガス化の原理

(1) 石炭ガス化とは (2)(3)

 石炭は,太古の植物が水底または土砂中に埋没し,天然の炭化作用を受けたものの総称であり,その炭化度(または炭素の割合)により炭化度の低いものから,高いものに順に,泥炭,亜炭,褐炭,瀝青炭,および無煙炭に分類される。

 石炭ガス化の対象となる石炭は,一部外国では褐炭が使用されているところもあるが,一般には瀝青炭が対象とされる。なお,瀝青炭の組成上の特色は,元素分析(無水無灰ベース)で,炭素は約70〜90%,水素は4〜7%,酸素は5〜20%でこの三元素が大半を占め,残りは,窒素,硫黄等である。その様な点もあり,炭素,水素,酸素を三元素と呼びそれによって瀝青炭を分類する手法も取られている(3)。

 また,石炭に付着した水分,および灰分を含む石炭受入れ時の実態に即した性状を示すものとして工業分析による値が利用されることがある。瀝青炭は同分析値によれば石炭中の固定炭素と揮発分の比である燃料比で1〜4の範囲に分類される(2)。

 図3−1に,その分類の概要を示す。

 以下石炭と言う場合は,ここでは瀝青炭を意味するものとする。

 さて,その石炭は上述の三元素の他,灰分,水分,窒素,硫黄,他微量成分から構成され,その構造はベンゼン核を主体にメチル基(−CH4),水酸基(−OH)等が複雑に化学結合したものである。石炭のガス化は,その化学結合により固体状態下にある炭素,水素,及び酸素等の元素をいかに分離してガスとして取り出すかと言うことである。

 安定した化学結合状態下にある各元素を分離するのには分離のためのエネルギーが必要であり,そのために酸素または空気と石炭とを反応させてその際生じた熱(エネルギー)で,上述のガスを分離するのがガス化である。ただし,酸素や空気を化学等量以上の量を供給すると,反応により発生したガス(生成ガス)は炭酸ガスや水蒸気などいわゆる燃焼ガスとなるので,ガス化に際しては,等量より少ない酸素または空気で石炭中の炭素,水素を分離させ,水素,一酸化炭素等の可燃性ガスを作り出すことである。

 その生成ガスを作る基本となる石炭と酸素(空気)の反応の仕方において,石炭の粒径,混合方法,反応(滞留)時間,ガス化剤の種類(酸素または空気),石炭の供給方法などを如何に選択し組み合わせるかによって多くのガス化方式が提案されている。

 またガス化においては,上述の反応面の他に,特に石炭灰の性状(溶融状態で流れ出る時の指標である融点又は流動点,高温度伝熱面への灰の付着の度合いを示すスラギング性,あるいは,中温度伝熱面への灰の付着の度合いを示すファウリング性など)と粘結性などの物性面の特徴が,ガス化炉特性,特に機能面,運転面の性能に大きな影響を及ぼす。

 したがって上述の各種ガス化方式採用に際しては,それらの点も十分検討される必要がある。

(2) 石炭ガス化の反応(4)

 石炭ガス化反応の過程は,まず石炭の熱分解が起こり,メタンや低級炭化水素ガスを発生しチャーが得られる。続いて次の諸式に示されるようなチャーまたは石炭にガス化剤である水蒸気や空気,酸素及び水素などが反応するとともに,発生したガス相互間のガス化反応,さらにガス化が行われる時の温度,圧力,滞留時間等の反応条件によっても異なる組成のガスが得られる(4)。

 (注,チャーは,非粘結炭を乾留した時に得られる残留の固形分。一般に形状はほとんど原形のままであるが,多少の亀裂を生じて膨張または収縮したくだけやすい性質となっている。成分的には,炭素分と灰分よりなる。なお,粘結炭を乾留して得られるものはコークスと呼ばれる(4)。)

 一般的な,ガス化の基本反応式を次に示す。

1)熱分解
 石炭→メタン等ガス成分+タール等重質油成分+チャー(C) [1]

2)酸素との反応
 C + O2 → CO2 [2]
 C + 1/2O2 → CO [3]
 C + CO2 → 2CO (発生炉ガス反応) [4]

3)水蒸気との反応
 C + H2O → CO + H2 (水性ガス反応) [5]
 C +2H2O → CO2+ 2H2 [6]
 CO + H2O → CO2 + H2 (シフト反応) [7]

4)水素との反応
 C + 2H2 → CH4 (メタン反応) [8]
 CO + 3H2 →CH4 + H2O [9]

 式[2]は,完全酸化あるいは燃焼,式[3]は部分燃焼あるいは不完全燃焼と呼ばれる式で両式とも熱を発生する発熱反応である。これらの発生熱が,石炭ガス化における発生炉ガス反応,水性ガス反応を主とする吸熱反応に対する熱を供給する。式[4]は発生炉ガス反応(Boudouard反応とも呼ばれる),式[5]は水性ガス反応で,ともに吸熱反応であり石炭ガス化の主反応ともいわれる。式[6]は,式[5]に付随して起こる反応である。

 式[7]は発熱反応でありシフト反応と言われ特に高温(900℃以上)で反応は早く(平衡に達する時間が短く)ガス化炉出口組成を決定する重要な式の一つである。

 式[8]は,メタン化反応と呼ばれメタンを生成する反応である。式[9]は一酸化炭素と水素からメタンを合成する反応である。いずれも,発熱反応でしかも分子数を減少させる反応であるから常圧のガス化では余り問題とされないが,加圧下で比較的低温度領域で進行する。

3.2 石炭ガス化炉の種類

 石炭ガス化炉の代表的な種類としては,固定床,流動床,噴流床および溶融床がある。

 表3−1はそれぞれの概要を示したものである。

(1) 固定床ガス化炉

 固定床ガス化炉は,火格子の上に置かれた石炭を長時間かけてガス化する方式である。一般に石炭は火格子上部より供給し,酸素または空気(以下ガス化剤と称す)は,炉底部から供給して,火格子の上に推積している間にガス化するもので,ガス化反応温度は400℃〜1100℃で,ガス化時間(石炭が投入されてガス化が完了するまでの時間)は,1時間前後と長い。

 供給される石炭は3〜50oの塊炭で,それより小さすぎると石炭粒子が未反応のままで飛び出すので,粒径によりガス化効率が左右される。(注,未反応のまま飛び出した石炭粒子(チャー)は,ガス中に同伴され,集じん機により回収されるが,それを再び固定床部に投入しても同様の飛び出しが起こるので,いったん回収した同粒子を何らかの方法で粒を大きくする(造粒)工夫が必要である。)

 火格子上方より投入された石炭は,熱ガスで予熱,脱揮発(乾留)され,石炭層の下部で最終的にガス化され,灰は下方より取り出される。

 本形式の長所の第1は,石炭供給は上から,酸素,空気のガス化剤は下から供給され,石炭とガス化剤が対向流で接触するため石炭の加温とガス化までの反応が効率よくなされ,また生成ガスの温度も炉出口で低く押さえられることである。

 長所の第2は,同原理に類似した家庭用石炭ストーブなどにも採用されているように,操作が容易で石炭の粉砕などの必要がなくかなり古くから実用に供されてきたことである。

 長所の第3は,反応温度が比較的低いため高圧力条件で反応させるとメタンの生成量が多いことである。その特長を生かした代表的な実用プラントが南アフリカのサソールプロジェクトであり,石炭から合成ガソリンを製造するプロセスのキーテクノロジーとして活用されている。

 本形式を発電用として考えた場合は,次の諸点が問題点として挙げられている。

 その第1は,固定床によるガス化反応のため反応温度が低く,タールの発生が多いことである。そのため,後流に,タール除去あるいはタール処理装置が必要となる。

 第2は,前述の通り,細かな石炭は利用しにくいことである。このため石炭の利用効率は低い。

 第3は,石炭を塊状でガス化するため,粘結性のある石炭(粘結炭)は,脱揮発過程において膨出或いは粘結し閉塞の原因となりやすい。

 第4は,反応速度が低いため単位面積当たりの処理量が小さく,一炉あたりの処理量の制約が大きいことである。

 またガス化剤として酸素を使用した場合,水蒸気の使用量が多いことを問題として指摘されることもある。

 本形式を代表するガス化炉としては,世界的にはルルギ炉が多数採用されている。同形式においては,一炉あたりの最大規模は約1000t/日規模と言われる。

 なお,これらの問題,特に小さい粒子の利用困難,水蒸気の使用量が多い点を解決できる固定床の改良型技術としてスラギング炉がある。これは火格子を取り除き層状に積み重ねられた石炭層の最下部を酸素を利用して高温化し,灰をスラグ状として取り出す技術で,BGCルルギ炉として開発が進められてきた。

 イギリスにあるブリティッシュガス社(British Gas Corp.)での試験装置により研究開発が進められ,従来型ルルギ炉の欠点がかなり改善されたと言われる。

(2) 流動床

 流動床炉は,1920年代にドイツのWinklerが活性炭を製造する技術として利用したとされ,その歴史は古い。

 流動床炉は,0.04〜1mm中のいわゆる細粒子状の石炭粒子を下方からの空気で流動状態となっている砂など(流動媒体)で形成される層中に投入し,粒子の活発な混合接触状態の中で石炭をガス化する方式である。固定床方式に比べガス化温度は850℃〜1100℃と高く,炉内容積あたりの処理量も大きい(2)。そのため固定床に比べより大型のガス化炉が可能である。また,炉内の温度分布が均一であるため,ガス化反応が安定するという長所がある。

 また,層内の石炭保有量が大きいため,短時間の給炭切れがあっても,層内で反応が継続するので,(酸素が局部的に高くなる懸念は少なく)安全性が高いという長所もある。

 流動床方式の問題点の第1は,反応温度と反応時間がタールを完全に分解するには不十分であり,生成ガス中にタールが存在する可能性が高いことである。

 第2は,流動床内に蓄積される石炭灰は,一般的に流動媒体とともに下部に抜き出されるが,同時に流動層内に含まれる未燃炭素の一部も排出されることである。

 第3は,流動層を形成する必要上,灰が融解する温度以上には上げられないので抜き出した灰は溶融スラグ状ではないことである。

 ただし,第2と第3の問題点を補う方法として,灰取り出し部の一部を高温状態とし部分的に融けた灰として取り出す技術(造粒技術)も研究されてきている。

 同方式は,古い歴史を持っているが,造粒技術による改良もあり後述の噴流床方式と並んで,近代的ガス化炉としても位置づけられている。

 本方式の中で,上述のウインクラ(常圧型)の改良型ともいえるものが,ドイツのラインブラウン社(Rheinbraun AG)が開発を進めてきた高温ウインクラ炉ともいわれるHTWプロセスがある。同炉は,流動床上部(フリーボード)に空気を入れて高温雰囲気にしタールを分解し,さらに複合発電にも適用できるよう加圧化したものである。

 また,造粒技術の適用を計ったものにWH(Westinghouse)方式(現在のKRWプロセス)あるいはIGT−Uガスプロセスが挙げられる。

 日本が1970代後半より石炭技術研究所夕張試験場で開発を進めていた技術も原理的には同一方式であるが,流動床部を上下二段にし下部には理論空気量に近い空気を入れて比較的高温の反応を行わせ,同燃焼ガスで上段に投入される石炭をガス化している。これにより空気でのガス化が可能,タールの生成が少ないなどの特長が挙げられている。

(3) 噴流床ガス化炉

 噴流床ガス化炉は,微粉(1mm以下)化した石炭を空気などの気流搬送により炉内に供給し,1200℃以上の高温下で短時間(秒オーダ)で反応させる方式である。本方式の特長は,灰の融点を超える高い温度で運転されるため,石炭灰は溶融スラグ状態で取り出される。高温でガス化するためタール分の生成がない,排出灰中の未燃炭素分が少ない,炭種の適用幅が広い,ガス化炉容積あたりの石炭処理量が大きく,大型化が容易などがある。

 一方,本形式では石炭はガス化剤(または高温燃焼ガス)の流れに乗って高温部の炉内を滞留する間の極めて短時間で反応が行われるが,一方同気流中に搬送されるチャーも高温状態のまま炉出口に搬送され,そこに狭溢部あるいは熱交換器等があれば,チャー中の灰分による付着・閉塞(スラギング)をおこし易いという本質的問題を抱える。

 このため,炉出口の冷却とスラギング防止が本形式採用時の大きな課題である。

 現在特に発電用として開発中のガス化炉,あるいは実用化されたガス化炉の大部分は噴流床方式が多いが,それは,噴流床の持つ上記の特長を生かしながら,同時に高温であるための本質的問題に対して各社各様の工夫をこらした対策が行われている。噴流床方式ですでに実用化された第1世代ガス化炉の代表的システムは,既に多くの実績を持つものにコッパースプロセスがある。同炉は常圧炉であるが酸素で高温ガス化するため一酸化炭素と水素主体のガスでメタンが少ないため,アンモニア合成に適しているといわれる。実際アンモニア合成ガス製造用としての実績が多い。

 本方式は近年になり特に大規模の発電用としてその特徴が評価され,第2世代ガス化炉として開発実用化が進められてきた。

 それらの中にはテキサコプロセス,シエルプロセスなどのように既に商用規模で運転に入ったものもある。なお,我が国で現在発電用として開発が進められているガス化炉も同方式が多い。