新エネルギーの展望

石炭ガス化複合発電技術

1999年3月

財団法人 エネルギー総合工学研究所−The Institute of Applied Energy


まえがき

 1997年12月の気候変動枠組み条約締約国会議(COP3)において,わが国は2008〜2012年において1990年対比で温室効果ガスを6%削減することを約束した。またそれを受けて1998年6月通商産業大臣の諮問機関である「総合エネルギー調査会需給部門」により「長期エネルギー需給見通し」改定案が取りまとめられ,同年9月「総合エネルギー対策推進閣僚会議」にて正式に改定された。同見通しは,わが国エネルギー政策の基本方針である3E(エネルギーの安定供給,環境保全,経済成長)の近年における情勢変化を見据えつつまとめられたもので,それによれば需要構造,供給構造両面における変革を前提とした環境調和型エネルギー需給構造構築の重要性が強調されている。

 その中で「化石エネルギーについては,環境負荷が比較的少ない天然ガスの導入促進等によりベストミックスを実現する」とする対応の方向性が示された。

 石炭は,そのまま燃焼すると炭酸ガス及び燃焼灰の量が他の化石燃料より多い。そのため,その埋蔵量の豊富なこと,あるいは賦存域が広いことなどの特徴を有しながらも,その有する課題のために今後の利用拡大に制約がある。

 石炭ガス化複合発電技術(IGCC)は,従来型方式である微粉炭火力より高効率化による燃料使用量の減少により炭酸ガス発生量が約2割も減少し,また石炭灰の発生量もそれに応じて減少するとともに溶融状態で排出されるため,地球温暖化面と環境面で優れた特性を有した技術である。

 したがって同技術が完成するとわが国での石炭利用拡大の道が開かれることになると考えられる。同技術は既に欧米では実用規模での実証または商用運転に入ったところではあるが,我が国でも平成11年度より30万kW級の実証プラントの検討が進められることとなった。

 本書は,この時の技術であるIGCCにつき特にガス化炉を中心として,主要技術の開発状況を整理し,その展望に触れ,関係者の御参考に供せんとしたものである。

 なお,本編作成にあたっては,当研究所の田宮久史主任研究員の協力を得て,エネルギー技術情報センター(センター長 小川紀一郎)において編集した。

 終わりに,このシリーズの刊行は,(財)電力中央研究所からの委託業務「エネルギー技術情報に関する調査」の一環をなすものであり,同研究所に対して深く謝意を表する。


1999年3月

財団法人 エネルギー総合工学研究所
理事長 秋 山 守


新エネルギーの展望
石炭ガス化複合発電技術

目次

 

はじめに

1 石炭ガス化技術開発の位置付けと意義

2 石炭ガス化の歴史

3 石炭ガス化技術の種類と原理
3.1 石炭ガス化の原理
3.2 石炭ガス化炉の種類

4 石炭ガス化複合発電システムとガス化炉技術
4.1 システムフロー
4.2 代表的な石炭ガス化技術の概要
 4.2.1 固定床方式
 4.2.2 流動床方式
 4.2.3 噴流床方式

5 海外の石炭ガス化複合発電技術の開発状況
5.1 初期のIGCC実証プラント
5.2 近年のIGCC実証プラントおよび商用プラント

6 国内の石炭ガス化複合発電技術の開発状況
6.1 200 t/日噴流床石炭ガス化発電パイロットプラント
6.2 HYCOL組合 50 t/日パイロットプラント
6.3 CPC 25 t/日パイロットプラント
6.4 その他(IHI/東芝による開発)

7 将来展望

あとがき

参考文献


はじめに



 1973年の石油危機を契機として,脱石油化に向けた各種代替エネルギーの一つとして石炭が再び脚光をあびた。それと同時に,かっての石炭を大量に使用した時代とは異なり,現代の環境条件に適合する新しい利用技術の開発あるいは導入が必要とされた。とりわけ石炭から可燃性ガスを得る石炭のガス化技術は,発電分野,都市ガス分野等における新しい利用に関する有力候補と見られ,そのための技術の検討,開発が,世界的な規模で始まった。石炭のガス化技術自体は,古くは200年も前から,近代においては戦前あるいは戦後にかけて完成したものがあり,例えば,ルルギ炉(固定床),コッパース炉(常圧噴流床)あるいはウインクラ炉(流動床)に見られるように当時既に広く実用規模で採用されているものがあった。

 しかし,それらの従来技術は,大型化の制約が多い,効率が低い,生成ガス中のタール分が多い,炭種の制約大等の基本的問題を抱え,特に,発電用としての適用には問題が多いことが指摘された。

 同時に,すでにその頃から新しい発電用としての利用形態は,ガスタービンと組み合せるいわゆる石炭ガス化複合発電技術(Integrated Coal Gasification Combined Cycle,IGCC)が最有力利用形態として提案された。

 IGCCが最有力と考えられた最大の理由に,その発電効率が高いことが挙げられる。IGCCと常に対比される微粉炭火力は,石油危機以降初の大型海外炭利用発電プラントして注目を浴びた電源開発(株)松島火力発電所(単機出力500MW,1980年完成)以降,日本各地において,続々と大型プラントが建設され,最近では従来の蒸気条件を越える超超臨界圧蒸気条件を採用したプラントも建設され経済性も含めその実用性および技術の完成度は非常に高い。しかし,同技術では蒸気条件の更なる上昇があったとしても,その発電効率(送電端)は,実用上約41〜42%が限度と考えられる。

 一方,IGCCは,固体の石炭をガスタービン用に適用させるために石炭のガス化というプロセスを前段階においた複合発電技術であり,ガスタービンの燃焼温度の高温化とともに高効率が得られる石炭利用発電プラントということもできる。したがって,そのモデルは現在の高効率火力発電プラントの代表格である天然ガス焚き複合発電技術(コンバインドサイクル)と見ることができる。現在我が国で主流とされるコンバインドサイクルプラント(廃熱回収方式)の実用プラント第1号となったのは,1985年完成の東北電力(株)東新潟3号系列(発電総出力1,090MW,ガスタービン温度1,150℃級,発電効率(高位基準)43.7%)であるが,その後,続々と同技術が建設され,現在は,ガスタービン温度1,500℃級,発電効率50数%にものぼる高効率プラントが製作されるようになってきた。IGCCの場合の効率は,石炭をガス化する過程での損失が発生するため同コンバイドサイクルよりもその値は低くなるが,実用規模の検討結果では,高温ガスタービンとの組み合わせにおいて発電効率(送電端)が,50%近くの値も予想されている(詳細 7章)。

 地球温暖化の最大の原因とされるCO2排出量は,燃料使用量に比例し,燃料使用量は発電効率に逆比例するので,より高い発電効率が得られることはCO2排出の視点から極めて魅力的である。

 IGCCが最有力と考えられるもう一つの理由が,石炭燃焼時の環境面での最大の問題といわれる排出灰の特性である。

 石炭の灰(石炭灰)の処分,特に埋立て地の確保は,今や発電所建設時の最大の問題となりつつある。その点,IGCCより排出される石炭灰は微粉炭火力の灰に比べて緻密な組織となり,その蒿比重の大きな点あるいは水中への有害物溶出が少ないという面で優れた特性を有している。我が国における現在(1995年度ベース)の石炭灰発生量は,年間約710万tであり,2010年にはその倍近い年間1,283万tになるものと予測されている。また,電気事業用としての石炭灰の発生量は1996年度現在のデータによれば,約530万tで,そのうち400万トンが有効利用されているが,今後その有効利用量が大幅に増大する見込みは立っていないようである。将来の有効利用量の増大がないことは,必然的に埋立処理を必要とする量が増大していくことを意味する。

 我が国のような狭わいな国土においては,これは大きな問題である。その点,IGCCの灰,特に噴流床ガス化炉からの灰は溶融固化灰であり,その見掛比重は1.4〜1.8t/m3で,通常のフライアッシュ(見掛比重0.7〜0.9t/m3)あるいは,ボイラ炉底灰(見掛比重約1.0t/m3)に比べ大きい。そのため単に処分するとしても埋め立て地のスペース面で有利である。

 また,溶融固化されたことにより灰中有害物質の溶出が少なく,環境面の汚染が少ない。

 さらに,IGCCの高効率化にともない灰の発生量が減少するというメリットもある。

 このようにIGCCは,発電プラント全体として高効率化と環境面での優れた可能性を有するが,実用化の段階では他の発電方式と同等の経済性も兼ね備えた技術であることが要求される。したがって,ガス化システムは経済性をも重視したシステム選定,機器構成が必要である。このため発生ガスの品質は都市ガス用を指向するような高カロリー化あるいは極度の不純物除去は必要でなく,ガスタービンに受け入れられるだけのガス発熱量すなわち低・中カロリーガスと生成ガスの清浄度(精製度)で充分である。ただし,生成ガス中に石炭分解時の油質分すなわちタール等未分解成分が残っていると多くのトラブルの原因となるので,ガス化炉は基本的にはタール発生のない方式が前提とされる。

 現在,我が国で開発されているガス化炉の主流が低・中カロリーガス化で,同時に高温でタールを分解するとともに灰をスラグ化するいわゆる噴流床ガス化方式(3章で詳述)となっているのも背景はその点にある。

 しかし,そのようにシンプルな機器構成を目指してはいるものの,実際にはガス化炉,ガス精製装置,およびガスタービンの他,プラント起動時の極低カロリーガスの処理装置,石炭の供給と加圧化するための石炭供給・加圧装置,空気または酸素製造・供給装置など多くの付属装置が必要となる。

 このために,IGCCは,一見複雑であるという印象をまぬかれないが,地球温暖化を防ぎつつ石炭の利用拡大をはかるためにはIGCCの開発,実用化はぜひ必要なものであるといわれる。まえがきでも触れたが,我が国では平成11年度より30万kW級のIGCC実証プラントの検討が進められることになった。このような時でもあり,同技術に対して一層の理解と協力が必要と考えられる。

 そのような意味で,本書がIGCCの理解を深めていただく際のいささかなりともお役に立てば幸いである。