新エネルギーの展望
非在来型天然ガス
(メタンハイドレート編)
1998年3月
財団法人 エネルギー総合工学研究所−The Institute of Applied Energy
まえがき
新エネルギーはクリーンな石油代替エネルギーとして,エネルギーの安定供給および地球環境保全の観点から極めて重要であり,その研究・開発は石油危機を契機として国の内外で極めて活発に展開されてきている。
特に,地球環境問題に対する社会の関心は,昨年12月我が国で開催されたCOP3(気候変動枠組み条約第3回締約国会議)の決定もあり,世界的に急速な高まりを見せており,今後はエネルギーの供給と利用分野において,同問題への具体的な取り組みが益々求められる時代になってきた。
一方,エネルギーの需要に関しては,アジア地域における最近の経済停滞を反映してその需要見通しは従来予測よりも下方修正される傾向が見られるものの,将来的には依然アジア地域が牽引となって世界のエネルギー需要とりわけ地球環境面で優れた特性を有す天然ガスの需要は,今後益々増大するものと見られている。
その増大が予想される天然ガス(在来型天然ガス)に対しては,資源量的には当面問題ないと見られるものの,いずれその供給が間にあわなくなる事態が来ることが想定される。
その場合の候補として挙げられるのが「非在来型天然ガス」であり,中でも「メタンハイドレート」は,その資源量が在来型の資源量と同等かそれを上回る可能性がある,またその分布は世界的な広がりを持つと同時に日本近海にも相当量の規模で存在することが予想される等の特徴を有し,また1995年の国際深海掘削プロジェクト(ODP164)等の顕著な成果もあり,最近海外はもとより国内でも注目されるようになってきた。
今般,当研究所として,時のテーマである「メタンハイドレート」について解説を試みたが,本書が読者各位のご理解の一助となることを願ってやまない。
なお,本書編集にあたっては,当研究所の兼子弘主管研究員の協力を得て,エネルギー技術情報センター(センター長 小川紀一郎)において執筆したものである。
終わりに,このシリーズの刊行は,7電力中央研究所からの委託業務「エネルギー技術情報体系化法の開発」の一環をなすものであり,同研究所に対して深く謝意を表する。
1998年3月
財団法人 エネルギー総合工学研究所
理事長 秋 山 守
新エネルギーの展望
非在来型天然ガス
目次
はじめに
2.メタンハイドレートが注目される理由
2.1 非在来型天然ガスとは
2.2 メタンハイドレートが今注目される理由
3.メタンハイドレートとは
3.1 メタンハイドレートの構造
3.2 メタンハイドレートの生成メカニズム
3.3 資源としてのメタンおよびメタンハイドレートの生成原因
4.メタンハイドレートの分布
4.1 メタンハイドレート研究の歴史概要
4.2 国際深海掘削計画(ODP)
4.3 メタンハイドレートの探査法
4.4 ODP Leg164の成果
4.5 メタンハイドレートの資源量および分布
5.メタンハイドレートの掘削技術
5.1 メタンハイドレートの掘削技術の特殊性
5.2 メタンハイドレート層における掘削事例
5.3 メタンハイドレート実用化計画
はじめに
天然ガスは,化石燃料の中でも抜群のクリーン性と実用性さらに経済性も兼ね備えているため,特に大都市近辺のエネルギー源として重宝されてきたが,最近,地球温暖化面でも優れた特性をもっていることも評価され,最近ますますその需要が増大する傾向が見られる。
その天然ガスの供給面であるが,現在その量が確認されている「確認可採埋蔵量(144兆m3)」を現在の年間生産量(1996年2兆3,400億m3)で単純に割った「可採年数」は,約62年とされているが(1),「究極可採資源量」が約260〜330兆m3と推定されること,さらに「確認可採埋蔵量」は年々の調査・開発により増加する性質のものであること等を勘案すると,上記のように需要増加はあっても当面その供給に関しては問題ないと考えられる。しかしながら,長期的には需給の逼迫,特にわが国の場合,脆弱なエネルギーセキュリティー構造の安定化を考えると,現在利用している天然ガス(在来型天然ガス)を補完或いは代替しうるクリーンな燃料の開発ニーズはますます重要になってきている。
(注,通常「埋蔵量」という場合は,その存在が信頼すべき手法によって確認されたものを示し,「資源量」はそれ以外の推測値として使い分けられている。詳細は,第4章にて述べる。)
一方,「非在来型天然ガス」は,海底下の地層中に封じ込められたメタンハイドレート,石炭層中に封じ込められたコールベッドメタンなど「在来型天然ガス」とはその起源および存在場所を異にする天然ガスの総称であるが,近年特にメタンハイドレートを中心としてその存在場所,資源量等に関する調査・研究が進み,エネルギー資源としての実用性が期待できる新たな成果が得られてきた。
特に,1995年,国際的科学技術プロジェクトである国際深海掘削プロジェクト(ODP164)による米国東海岸沖合約300kmのブレーク海嶺における掘削では,ガスハイドレート層を突き抜ける掘削としては始めての試みがなされ,懸念されたガス暴噴などの問題も発生せず,その成果はメタンハイドレート研究上画期的なものであった。
なお,その詳細は,後章(第4章)にて紹介されるが,主要な成果を要約すると次のとおりである。
@ 心配されたメタンハイドレート下層ガスからの暴噴はなかった。
A 海底面下のメタンハイドレートの下層に大量のフリーガス(ガス状メタン)の大量存在が確認された。
B 従来よりメタンハイドレート存在の指標として用いられた弾性波の反射による海底疑似反射面(BSR)は,メタンハイドレートとフリーガスの境界面に相当することが確認された。
等である。
メタンハイドレートが最近世界的な研究テーマとして注目されるようになった大きな理由としてその資源量が「在来型天然ガス」の原始資源量と匹敵する量の資源量が見込まれること,さらにその分布が世界的に比較的偏りなく存在することなどが大きな特徴として挙げられるが,我が国の場合特に大きな意味をもつものと期待される。それは,これ迄の調査結果から,我が国の近海200海里内にも我が国年間消費量(1995年消費量ベース,約540億m3)の137年分にも相当するような多量のメタンハイドレートが存在する,すなわち資源のない我が国にとって国産エネルギーとしての可能性が期待されることである。
以上の背景もあってか,最近メタンハイドレートに関する研究成果或いは紹介に関する文献の数が顕著に増加している。
例えば,JICST文献検索によれば,1978年(JICST検索が公開された年)から1997年迄の期間における「非在来型天然ガス」関連の登録文献総数183件中1位はメタンハドレートの116件(63%),2位がコールべッドの33件(18%),3位が非在来型展望全般の22件(12%),4位が深層天然ガスの12件(7%)であった。
さらに1990年から1997年迄の最近のものから日本語版に限定した場合,文献総数57件中1位のメタンハイドレートが52件(91%),2位は非在来型全般で4件(7%),3位はコールベッドで1件(2%)で深層天然ガスはゼロであった。このことからもいかにメタンハイドレートが最近注目されてきているかの一端を伺い知れる。
ただし,メタンハイドレートは,その存在が確認され現在注目されてきたといっても,経済的な掘削技術の確立,海底下のメタン放出に伴う地質学的,環境面での影響等実用化に際して未だ残された課題は多い。
なお,本冊子シリーズにおいて,1993年に「非在来型天然ガス」をとりあげ,その中で深層メタン,コールドッドメタン,メタンハイドレート他非在来型に分類されるものの状況を解説したが,上述のようにその後1995年にメタンハイドレートの新たな観測を契機として,その研究・開発が大きな進展を見せたので,本書ではメタンハイドレートに特化した形で,最近の研究成果を紹介する次第である。
本書が,「非在来型天然ガス」の位置付けとその将来についてお考え頂く際の一助になれば幸である。