3 低品位炭利用の現状

 世界エネルギー会議資料(6) によると,世界の石炭生産量(1993年)を石炭品位別に見ると,高品位炭31.7億トンに対し,低品位炭13.0億トン(亜瀝青炭3.7億トン,褐炭9.3億トン)と低品位炭の生産量はその資源量の割には小さい。本章ではその中でも低品位炭の資源が豊富で,比較的消費量の大きい米国,ドイツ,豪州,インドネシアにおける低品位炭の利用状況を概説する。主要低品位炭産炭国の埋蔵量,生産量を表3−1に示す。

3.1 米国における低品位炭利用動向

 表3−1によれば,米国の石炭確認可採埋蔵量は約 2,400億トンと世界の石炭確認可採埋蔵量の約1/4を占めている。このうち亜瀝青炭が約 1,025億トン,褐炭が 315億トンと低品位炭の資源量が石炭資源量の約56%を占めるが,生産量に関しては,1991年の石炭生産量約9億トンのうち低品位炭は34%にすぎない。石炭生産量の約90%が国内で消費され,さらに国内消費の約90%が発電用燃料として使用された。

 亜瀝青炭埋蔵量の90%以上(露天堀による可採埋蔵量 545億トン(12))が,米国北西部のワイオミング州からモンタナ州にかけて約5万平方キロメートルにわたって広がるパウダーリバーベイスン(以下PRBと称す)に存在する(図3−1参照)。PRB炭の性状は3−2に示すように水分が多く,発熱量も 4,000〜5,500kcal/kg程度と低いが,低硫黄,低灰分,高揮発分の特徴を持つ。採炭は露天掘で炭層も比較的厚く採炭コストはトン当たり10ドル以下と安い。米国では,1990年の大気浄化法 (Clean Air Act)改正に伴い表3−3に示すように段階的に硫黄酸化物排出量を削減することが求められており,これまで近郊で産出する高硫黄の高品位炭を使用してきた東部の電力会社は,脱硫設備の設置,低硫黄炭への転換,排出権の購入等の硫黄酸化物排出対策が必要となり,設備改造をして低硫黄のPRB炭に燃料転換した電力会社もある。PRB炭の生産量は1990年 2.0億トンから1995年 2.8億 トンと大きな伸びを示しており,2000年の大気浄化法第2段階規制により,さらにその生産量は増えるものと予測されている。
ただし,PRB炭は亜瀝青炭であるため,
 
・水分が多く低発熱量
・砕けやすく粉じんが多い

という欠点の他にも
・灰中のカルシウム分が多く水分を含むと固まる
・灰融点が低いため,スラッギング * ,ファウリング**が問題になる

*ボイラ火炉内で溶融した石炭灰(スラグ)が火炉内の幅射伝熱面に付着し,冷却されて固化堆積する現象
**火炉後部の過熱器や再熱器などの対流伝熱面にガス状あるいは溶融状の石炭灰が凝着・付着し,堆積する現象

といったPRB炭特有の性質を持つため,既設の瀝青炭焚きボイラーにPRB炭を適用するためには大規模な設備改造が必要となる。設備改造なしで低硫黄の亜瀝青炭を既設ボイラーに適用可能にすることおよび石炭の大消費地である東部までの輸送コスト低減を目的として,各種低品位炭改質技術の開発が行われている(第4章参照)。

 一方,低品位炭の中でも水分が多く低発熱量の褐炭は輸送効率があまりにも低いため,その利用のほとんどが炭田近隣での生焚き発電となっている。米国褐炭の主な産地はガルフコースト地域とフォートユニオン地域であり,褐炭生産量(1991年) 8,650万トンの内訳は,ガルフコースト地域のテキサス州 5,350万トン,ルイジアナ州 315万トン,フォートユニオン地域のノースダコタ州 2,950万トン,モンタナ州30万トンとなっている。ガルフコースト地域の褐炭の一部はカーボンブラックや活性炭の製造,アルミ精練などに使われており,灰の一部はセメントフィラーや石油掘削時の添加剤として利用されている。

3.2 ドイツにおける低品位炭利用動向

 表3−1によれば,ドイツの石炭確認可採埋蔵量 673億トンのうち68%に相当する 433億トンが褐炭で残りが瀝青炭となっている。このことからドイツにおける褐炭がエネルギー需給上大きな役割を占めると同時に,低品位炭利用技術の研究・開発の歴史も古く,技術的蓄積も大きい。表3−1によれば,褐炭生産量は瀝青炭6,400 万トンに対し,2億 2,000万トンと世界最大の褐炭生産・消費国となっている。瀝青炭が補助金を受けて採炭されているのに対し,褐炭は唯一の国産エネルギーであり政府の補助金や保護政策なしに,国際的に競争力のある価格で発電に利用され,長期的にも採算性の高い条件で利用できるものと予測されている。褐炭はドイツの一次エネルギー需要の13%を供給し,電力消費の30%をまかなっている。

 ドイツの主要褐炭田の位置図を図3−2に,概要を表3−4に示す。用途は,図3−2に示すとおり約3/4が公共発電用であるが,残り1/4が産業用熱供給や発電の他に,ブリケット燃料(粉炭を圧縮・成型し,塊状にしたもの)等に改質され家庭用,工業用の燃料として使用されている(表3−5参照)。また,次世代のプラントは炭酸ガス排出量の削減に貢献できるものでなければならないとの考えから,RWEエナジー社(ドイツ最大の電力会社)はライン褐炭を利用した褐炭ガス化複合発電 (KoBra)の開発を進めている。その際,褐炭の処理法としては採炭された生褐炭を選炭後,ラインブラウン社が開発したWTA法(内部廃熱を利用した流動床乾燥法)により乾燥する。石炭のガス化は同じくラインブラウン社が開発したHTW法(高温 Winkler法)で行われる。ドイツの利用技術は,それぞれが利用する褐炭の正常に即した技術が採用されてきた。褐炭ガス化技術もその一つである。RWEエナジー社とラインブラウン社(両者ともRWEコンツェルン(特殊会社の)傘下にある)は,1990年 kobra計画をスタートさせたが,1994年経済的リスクがまだ残っているとの理由により.実証プラント建設の3年間の延期が決定している。

3.3 豪州における低品位炭利用動向

 豪州は世界最大の石炭輸出国であり,日本が輸入している海外炭の約60%は豪州炭である。表3−1によれば,豪州の石炭確認可採埋蔵量は瀝青炭 453億トン,亜瀝青炭37億トン,褐炭419 億トンであり,低品位炭が約1/2を占めるが,生産量に関しては,瀝青炭1億 5,800万トン,亜瀝青炭 1,800万トン,褐炭 4,800万トンと低品位炭は30%にすぎない。豪州の石炭資源分布を図3−3に示す。日本が輸入している石炭は東部のニューサウスウェールズ州,クイーンランド州で産出する高品質の瀝青炭であり,低品位炭は輸入対象にはなっていない。1989年における豪州の褐炭生産量はビクトリア州で4900万トン,サウスオーストラリア州で 160万トンであり,その他の州ではほとんど生産されていない。ビクトリア褐炭の97%以上はラトローブバレー地区で生産されており,1994年には4,500 万トンが露天掘炭田での生焚き発電に,200 万トンがブリケット製造に用いられた。5ヶ所のラトローブバレーの褐炭生焚き発電所19ユニットの発電容量は 622万kWに達し,ビクトリア州の電力の75%を供給している。現在,生焚き発電での褐炭の乾燥は図3−4に示すように燃焼ガスによるフラッシュ乾燥を行なっているが,燃焼熱の25%ものエネルギーが褐炭の乾燥に使われていることになる。この対策として,蒸気流動床乾燥技術の開発が行われている。この技術は図3−5に示すとおり流動床で乾燥蒸発させた蒸気を蒸気コンプレッサーを経由して再利用することにより,蒸発エネルギーの低減をねらったものであるが,経済性の問題のため,本格的な利用は進んでいない。現在ラトローブバレーのロイヤング発電所近郊に乾炭ベースで15万トン/年の実証プラントを設置して運転を行なっている。製品の乾燥炭はロイヤングB発電所(50万kW×2)のスタートアップ用の燃料として利用されている。

 また,日本のサンシャイン計画のひとつとしてNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)−NBCL(日本褐炭液化(株))が,ビクトリア褐炭の最適液化プロセスを確立することを目的に,1981年から1990年にかけてラトローブバレーに石炭処理量50トン/日(乾炭ベース)の褐炭液化パイロットプラントを設置し,ビクトリア褐炭液化技術の開発を行なった経緯がある。高液化油条件で実質 1,700時間の連続運転を達成し,全系統安定総合運転技術を取得するとともに,液化油収率の向上,スケールアップのための各種エンジニアリングデータの取得,効率化技術の確立を目指し,延べ10,500時間の運転試験を行なった。NBCLの褐炭液化プロセスフローを図3−6に示す。

3.4 インドネシアにおける低品位炭利用動向

 アジア地域では,域内の石油生産量が頭打ちの状況であり,石油の域外依存度が高まりつつあるが,石炭資源は豊富であり,アジア地域における一次エネルギー消費量の45%を石炭が占める。中でも中国は 1,145億トン(うち亜瀝青炭 337億トン,褐炭 186億トン)もの石炭確認可採埋蔵量を有し,一次エネルギーの75%を石炭に依存する世界最大の石炭生産・消費国である。中国の石炭生産量は1994年ベースで12.1億トンで世界の27%を占めるが,その約95%にあたる11.5億トンは高品位炭である。ちなみに消費量は12.3億トンと純石炭輸入国に転じている。インドは,アジアでは中国に次ぐ石炭生産・消費国であり,石炭確認可採埋蔵量の97%が高品位炭である。硫黄分も 0.6%程度と低いものの,灰分が多いため発熱量の低い炭が大部分を占めている。ちなみに褐炭の生産量は 1,700万トンとなっている。

 インドネシアは亜瀝青炭,褐炭の埋蔵量が多いが,近年急激に石炭の生産・消費量を増加させている。

 インドネシアの石炭埋蔵量は 340億トン(鉱山省石炭局,1992)といわれ,スマトラに 250億トン,カリマンタンに90億トンが賦存している(図3−7参照)。炭種別では瀝青炭が14%,亜瀝青炭が19%,褐炭が67%と低品位炭が大部分(86%)を占める。ただし,生産量においては1993年ベースで高品位炭 1,060万トン,亜瀝青炭 890万トン,褐炭 760万トンと低品位炭は60%にとどまる。インドネシア炭は,その主要炭であるカルティムプリマ,アルトミン(セナキン,サツイ),およびアダロ炭に見られるように,一般的には発熱量は低いが,低硫黄,低灰分(表3−6参照)で知られ,各国から注目されており,1995年の石炭輸出量は約 3,160万トンとなっている。また,採炭条件にも比較的恵まれており,95%以上の石炭は露天堀で採炭されている。

 インドネシアはアジア地域第3位の産炭国であると同時に大きな産油国でもあるが,産油量の伸び率の低下と国内需要の増加のために,遠からず石油の輸入国になると予測されるようになってきた。政府としてもかなり以前から,天然ガス利用の拡大と,発電設備を原油から石炭へと転換する等の政策を続ける一方で,豊富な石炭資源の開発を急いできた。アジア地域の石炭需要の大幅な伸びが予測される中で,高品質のインドネシア炭の輸出力に期待がよせられているが,国内電力需要が毎年10%以上伸びるものと予想されており,将来輸出余力を持つかは不透明なものがある。

 インドネシアでは,家庭用,小規模工業用燃料として主に灯油が利用されているが,インドネシア産の原油は灯油の精製には適当ではなく,アラブの石油が使用されている。これには60%以上の政府の補助金が支払われており,この補助金の削減と,国産の豊富な石炭資源の有効利用を目的に,PTBA(Tambang Batubara Buket Asam,政府が 100%株式を保有している準国営石炭会社)が1993年2月に国内ではじめて,南スマトラのAir Laya鉱山の亜瀝青炭から年間3万トンのブリケット燃料を製造するプラントを建設した。成型機は中国製のダブルローラー型でバインダーにはスターチを使用している。家庭用燃料としては揮発分は煙と悪臭のもとになるため,炭化工程により,揮発分を30%から10〜15%程度に減らしている。1996年には日本のクリーンコールテクノロジーモデル事業の一つとして,年間1万トンの脱硫剤を混入したブリケット燃料を製造するための流動床による炭化・ブリケット製造設備が建設された。