1.エネルギー社会とヒートポンプの技術動向
資源・エネルギー問題に対する関心が世界で急速に高まっている。ロシアのサンクトペテルブルグで開催された2006年7月のG8サミットでも世界のエネルギー安全保障は中心的議題の1つであった。その背景にあるのが,原油価格の高騰であり,1バーレル70ドル台(2006年8月時点)へ上昇,この2年ほどでほぼ2倍になった。中東の政情不安に加え,中国やインドなど新興諸国において急伸するエネルギー需要がさらに上昇圧力をかけている。その結果,先進諸国においては,より安価で国際社会の動向に左右されない安定したエネルギーを求める動きが加速している。
エネルギー問題への関心が高まる理由にはもう1つ,二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出による地球温暖化を抑制するという課題である。1997年の第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)で議決された京都議定書は2006年2月に発効し,そこで示されたCO2削減水準を達成するには,これまで以上に化石燃料の使用を減らさなければならない。
それを実現する新しい代替エネルギーには既にいくつかの候補が挙がっている。供給サイドでは,風力,水力,太陽光発電,燃料電池,バイオマス,原子力などである。コスト面や技術面における技術革新とともに,これらを組み合わせることで化石燃料に依存しないエネルギー供給体制の構築が必要となっている。つまり,供給サイドにおいて非化石エネルギーの比率を高めて行くことである。
しかし,CO2削減やエネルギーセキュリティーにとってポイントとなるのは供給サイドだけではない。エネルギーを消費する需要サイドの対策も重要である。それらが両輪になって,実効性の高い効果が生まれる。特に民生部門では冷暖房・給湯など熱利用分野で多くのエネルギーが消費されている。この分野で昨今,脚光を浴びているのが空気などに存在する熱エネルギーを活用することである。空気の熱エネルギーはそのまま使うにはエネルギーの密度が低く,十分な効用を得ることができない。そこでこの空気の熱エネルギーを生活空間で利用できるように加工する技術が必要となる。それがヒートポンプ技術である。
このヒートポンプの原理は冷媒(熱媒)を圧縮することで空気の熱を凝縮し暖房・給湯に利用するものである。一方,冷房では冷媒が膨張する際に部屋の熱を吸い取る作用,例えば山に登ると気圧が下がり涼しくなる現象を利用するものである(図1)。
図1 ヒートポンプの原理
(図をクリックすると拡大します)
水を高いところに押し上げるポンプのように,空気の熱を汲み上げ移動させるシステムであることから,熱(ヒート)のポンプと呼ばれている。ヒートポンプは燃焼やヒーターなどのジュール加熱と異なり,熱サイクルを利用するため,投入するエネルギーを大幅に抑制できる特徴をもつ。
ヒートポンプの効率をあらわす指標としてCOP(coefficient of performance:成績係数)が一般的に用いられる。COPは投入したエネルギーに対して得られる熱エネルギーを比率であらわしたもので,COP=3とは投入エネルギーの3倍の熱エネルギーが得られることを意味する。日本ではヒートポンプのCOPがここ数年で大幅に向上した。その背景には技術改善を促すいくつかの要因があった。1つは社会的要因である。省エネルギー法に基づく「トップランナー方式」の浸透で機器開発が進んだことと,環境負荷の低減効果やCO2削減効果を消費者が機器選定時に評価するようになったことである。1999年に導入された「トップランナー方式」は,環境評価の判断材料として消費者に省エネルギー性能を明示する「ラベリング制度」を導入し,高効率機器の購入意識を高めてきた。環境負荷の低減効果やCO2削減効果,それにライフサイクルコストなども,購入価格と同様に判断材料として評価するようになった。その結果,価格が多少高くなっても効率の高い機器を選択する消費者も現れ,メーカー間でCOP向上を目指した開発競争が本格化した。
もう1つの要因は,日本の気候がヒートポンプの活用に適していたことである。温暖で湿潤な日本の気候は欧州に比べて暖かいため空気に含まれる熱エネルギーが多く,暖房の場合,より効率よく使うことができる。
ヒートポンプを内蔵したエアコンに関しては,過去10年間でCOPが3〜6.5前後(2006年時点)まで向上している(図2)。
図2 ヒートポンプのCOPの向上
それは,革新的な技術の導入で達成されたのではなく,各部の性能が向上したことで相乗効果が働き,効率が大幅に改善した結果である。
ところで,環境への取り組みとして自然界に存在するエネルギーの活用がよく話題に上る。これら自然界に存在し使い尽くすことのないエネルギーを再生可能エネルギーと呼ぶが,一般に再生可能エネルギーは発電に結びつけられることが多い。しかし,民生需要では冷暖房・給湯などの熱エネルギーの利用が非常に多いため,そこに再生可能エネルギーが使えるのであれば効果が大きい。ヒートポンプは,太陽光によって暖められた最も身近な空気の熱エネルギーを冷暖房・給湯で活用可能にするため,再生可能エネルギーとみなすことが可能ではないかと考える。本稿ではヒートポンプを再生可能エネルギーとして考える上で参考とすべく欧州の取組みを調査したので紹介したい。
2.欧州気候変動プログラム(ECCP)や欧州連合指令(EU指令)での
ヒートポンプの取り扱い
欧州では,1970年代の2度の石油危機を契機に,化石燃料に代わるものとして,いち早くバイオマスなどの再生可能エネルギーの利用拡大が図られた。後述するように,国ごとに,再生可能エネルギーの利用拡大のための様々な政策が取られた。多くの国では,エネルギー効率化の1つの手段として,ヒートポンプ導入拡大の試みも行われた。
第二次石油ショック後のヒートポンプの導入が始まった当初は,機器の品質が悪く,据付技術も未熟であったことから,ヒートポンプは市場の信頼を失った。さらに,その後の石油価格の低下のため市場が縮小したことから,しばらくの間ヒートポンプ導入の低迷が続いた(これは,スウェーデン,オーストリア,スイス,ドイツといったヒートポンプの普及率が高い国に共通の事例であったが,それでもスウェーデンでは年間1万台のレベルをキープしていた)。その後,省エネルギーの進展にともない,新築住宅の断熱効率が高くなってきた(熱ロスが少なくなってきた)ことは,ヒートポンプの導入に有利に働いた。また,機器の性能向上による市場からの信頼回復も,ヒートポンプの導入拡大に役立った。れらのことから,1990年代初めより,各国共に,再びヒートポンプの導入が拡大基調となった。なお,競合相手であるボイラーの燃料である灯油価格の変動が大きいことと,電力価格が安定していたことはヒートポンプの導入拡大にとって有利となった。
1990年代後半には,地球温暖化対策を急ぐべきとの議論を背景に,1997年に欧州委員会(European Commission,EC)の再生可能エネルギー白書「欧州共同体(European Communities)の戦略及び行動計画」(1) が取り纏められた。欧州連合(EU)におけるこれ以降の再生可能エネルギー政策は,この白書に基づいている。白書において,欧州共同体における再生可能エネルギーのメインフレームワークとアクションプランが提示された。
この計画において,EU全体での域内エネルギー消費量に占める再生可能エネルギーの割合を,現状の6%から2010年までに2倍の12%にまでもっていくことが明記された。白書では,3つの主な再生可能エネルギー源を対象として,1995年時点での生産量と2010年における計画生産量が示されている。その詳細を表1に示す。
表1 欧州委員会の白書における主要再生可能エネルギーの熱利用計画(単位:Mtoe)
再生可能エネルギーによる熱の生産量の目標を1995年時点での38.7Mtoe (百万原油換算トン)から2010年には80Mtoeに引き上げると設定している。しかも,その主たるものがバイオマスで,全体の90%以上の割合を担う。ヒートポンプを含む地熱分は,増加分として0.6 Mtoeとしており,再生可能エネルギーの1%程度を占める。
白書においては,再生可能エネルギーを「化石燃料ではない再生可能なエネルギー源」と定義し,水力,バイオマスに加えて,地熱(ヒートポンプを使用するものを含む)も再生可能なエネルギーとしており,ヒートポンプ導入促進の必要性を強調している。
また,欧州はエネルギー供給の50%を輸入に依存しており,地域で突発的な事態が起これば,社会と経済の健全性が危ぶまれていた。それにもかかわらず,反対運動により原子力発電の拡大にも暗雲が漂う中,エネルギー輸入への依存度はより一層高まっていた。このような背景から,2001年には欧州委員会では「欧州のエネルギー供給に関する安全保障政策に向けてのグリーンペーパー」 という青書を発行した。青書の主な内容は表2のとおりである。
表2 青書の主な内容

平行して,欧州委員会は,2001年にスタートした「欧州気候変動プログラム(ECCP)」(3) の中で,主たる政策である排出枠取引制度の策定・実施以外に,再生可能エネルギーの利用促進,そしてバイオマスを燃料として利用する熱電併給コージェネレーションシステム(CHP)促進,さらには建物の省エネルギー促進等を大きなテーマとして掲げた。実際に,2001年から2002年にかけて再生可能エネルギー源の電力利用指令(RES-E指令)および建物エネルギー効率(性能)指令(建物指令)が制定された。また,2004年には,様々な奨励策が含まれた熱電併給コ・ジェネレーションシステム指令(CHP指令)が制定された。これらの指令は,再生可能エネルギーの熱利用を促進する環境を醸成すると同時に省エネルギーを促進するものである。
ECCPの第1フェーズにおいて,フレキシブルメカニズムを検討するワーキンググループ(WG)1,エネルギー供給を検討するWG2,エネルギー需要を検討するWG3,輸送分野での対策を検討するWG4,産業分野での対策を検討するWG5,そのほかに調査や農業に関するWGも設置され,2001年6月に報告書が発行された(4) 。ECCPにおいて,RES-E指令,建物指令,CHP指令に加え,再生可能エネルギー源の熱利用を促進するための単独の指令(RES-H 指令)も検討され,RES-H指令に関する調査報告書も公表されている。
ECCPにおいて策定中のRES-H指令の影響を検討するために,欧州委員会はオランダのVHK社に委託して調査を行った。その報告書(再生可能エネルギー指令実施状況報告)(5)には再生可能エネルギーの熱利用の状況がCHP指令やRES-E指令の実施状況を含めて記載されている。
本報告書よれば,RES-E指令で再生可能エネルギーの対象となっていない熱源である「周辺熱(ambient heat)」も,RES-Hでは再生可能エネルギーの対象となると考えられている。「周辺熱」には地熱のほか,空気(排気も含む)や水(地下水や地表水)から得られる熱も含まれる。ヒートポンプの利用によって,この周辺熱も暖房や給湯に利用できるレベルの温度まで引き上げることができる。従って,熱源として現実的に利用可能な再生可能エネルギー源は主に,バイオマス,ソーラー,地熱(ヒートポンプ利用による周辺熱を含む)とされている。
しかしながら,RES-H指令案については,利害関係者の一部から反発を受けたため,他の既存の政策や計画中の政策や措置との妥当性を調整して,内容を修正する必要が生じている。(2006年8月中旬現在RES-H指令は発効していない)
ヒートポンプは,熱利用効率の向上によって省エネルギーを図るものであるため,再生可能エネルギー源の熱利用を促進するための単独の指令(RES-H 指令)によってカバーされることになるが,同時にRES-E指令,CHP指令,建物指令の影響を受けるものと考えられる。そこで,これら3つのEU指令について紹介する。
1) RES-E指令 (6)
RES-E指令はECCPの第1フェーズで提案され,2001年9月27日制定された。正式には「域内電力市場での再生可能エネルギー源から生産された電力の促進に関する欧州議会及び理事会指令2001/77/EC」(RES-E指令)と言われるように,再生可能エネルギー源の電力利用を狙いとしたものである。RES-E指令において,「化石燃料ではない再生可能なエネルギー源で,風力,ソーラー,地熱,波,潮流,水力,バイオマス,埋立地ガス,下水処理プラントガス,及びバイオガス」を再生可能エネルギー源と定義している。
2) 建物指令 (7)
EUにおけるエネルギー消費の40%以上は非産業用建物部門によるもので,そのほとんどが冷暖房,給湯および照明に用いられている。このような建物部門による省エネルギーを強化するため,建物の断熱性能を向上させるための法的整備が行われ,2002年12月に正式には「建物エネルギー効率(性能)指令」と言われる建物指令が制定された。
建物指令により,建物の断熱性能が向上し(熱ロスが少なくなり),ヒートポンプを暖房や給湯に利用できるようになった。このため,EUの多くの国々で,再生可能エネルギー源にヒートポンプ利用による熱を含めるようになってきている。
3) CHP指令 (8)
「EU域内エネルギー市場における熱需要に基づくコージェネレーションの促進に関する欧州議会及び理事会指令2004/8/EC」,いわゆる一般に「コージェネ(CHP)指令」と言われるもので,熱供給の促進による再生可能エネルギーの利用効率を向上が期待される。2004年2月11日に制定され,2月21日にEU官報(Official Journal)で告示された。
これにより加盟国は,公布されてから2年以内に国内法化を完了し,3年以内に最初の報告を行い,以降4年ごとに進捗状況などを報告する義務を負う。
CHPにおける熱供給とヒートポンプによる熱供給は,推進に際しての技術的課題や行政手続など,ほとんどが共通事項であり,CHP指令の実施の推移について注目する必要がある。
3.EU諸国における再生可能エネルギーとしてのピートポンプ
欧州では地域暖房に占めるCHPの割合は比較的高い (9) 。地中海沿岸諸国を除き,一般に気候が寒冷であるために地域暖房が広く普及している。1970年代の2度の石油危機を契機に,CHPの燃料に天然ガスやバイオマスが広く導入されるようになった。電源構成に占める化石燃料比率が低い国々では,石油価格が上昇すれば電力価格が相対的に割安になるため,地域暖房へのヒートポンプの導入も促進された。ただし,近年,バイオマス燃料CHPの比率が上昇する傾向にあるため,地域暖房用ヒートポンプの比率が徐々に低下してきている。しかし,最近の石油価格上昇にともない,再び,地域暖房へのヒートポンプの導入が進むことが期待されている。
欧州における地熱の導入量およびヒートポンプの導入例が前述のVHKレポート (5) に示されている。200MWth以上地熱を利用している国の中で,地熱を利用したヒートポンプが導入されているのは,スウェーデン,オーストリア,スイス,ドイツ,フランスの5カ国である。アイスランドは地熱の温度が高く,地熱発電や地熱CHPが大部分で,ヒートポンプはほとんど導入されていない。表3に人口千人当たりのヒートポンプ導入台数とエネルギー消費量を示す。
表3 人口千人当たりのヒートポンプ導入台数とエネルギー消費量
(表をクリックすると拡大します)
なお,欧州の戸建住宅では,わが国と異なり,部屋毎にヒートポンプを設置するのではなく,セントラルヒーティングタイプのヒートポンプを設置するのが主流となっているため,その分設置台数は少なくなるが,それを考慮しても,わが国より桁違いに少ないヒートポンプの導入量となっている。
化石燃料を使用したCHPの代替として未利用エネルギー(地中熱)を用いたヒートポンプを使用している国として,デンマーク,フランス,ドイツ,ポーランド,トルコ,イギリス等がある。未利用エネルギーを用いたヒートポンプによって地域暖房を行っていると報告されているのは,スウェーデンとノルウェーの2カ国で,それ以外の国についての詳細報告はない。
さて,再生可能エネルギーとしてのヒートポンプの取り扱いについては,国によって多少異なる。表4にそれらを取り纏めて示す。
表4 再生可能エネルギーとしてのヒートポンプの取り扱い
(表をクリックすると拡大します)
スウェーデン,デンマークのように,再生可能エネルギー以外のものが電源構成に含まれるために,ヒートポンプを再生可能エネルギーに含めるとの明言を避けながらも,ヒートポンプによる省エネルギーにより地球温暖化ガスの削減に効果があるため,ヒートポンプの導入促進を図るべきとしている国がある。一方,フランス,イギリス,スイス,ノルウェーのように,それぞれの国の白書等でヒートポンプを再生可能エネルギーに含めると明言している国も多い。
[ドイツ]
ドイツでは,連邦政府環境省が発行する再生可能エネルギーの将来というレポート(10) には,ヒートポンプについての記載は無く,地熱についてコメントしているだけである。一方,環境政策というレポート(11) では,本文中にはヒートポンプについての記載は無いものの,図表中でヒートポンプを再生可能エネルギーに含めている。しかしながら,ヒートポンプが地球温暖化ガスの削減に効果があるため,政府の助成策が地方ごとに異なるシステムで採用され,ヒートポンプの導入拡大に貢献している。
[フランス]
フランスでは,経済・財政・産業省のエネルギー・一次資源局が公表している再生可能エネルギー電熱源量に,ヒートポンプを再生可能エネルギーに含めて公表している(12)。フランス政府は,「2003年度財政法」の中で,ヒートポンプを含む再生可能エネルギーを利用した設備に対する優遇税制について規定している。また,フランス電力公社(EDF)は,家庭用ヒートポンプ設備を普及させるサービスを導入している。さらに,住宅改善庁(ANAH)は,ヒートポンプ導入の助成金を提示している(13)。
[スウェーデン]
スウェーデンのエネルギー白書(14)では,ヒートポンプを再生可能エネルギーとして規定してはいないものの,ヒートポンプによる省エネルギー効果に関する記述は多い。1981年〜1991年には政府の補助金による助成策が取られ,ヒートポンプの普及が進んだ。現在では,スウェーデンのヒートポンプ市場はすでに自立可能な状況にあり,政府の補助政策は必ずしも必要不可欠な状況ではない。
[イギリス]
イギリスでは,エネルギー白書(15)の中でヒートポンプを再生可能エネルギーに含めている。地中熱,河川水,下水,空気を熱源として,ヒートポンプによって水や空気を加熱することが再生可能エネルギーであるとしている。
[デンマーク]
デンマークの取り組みは早く,1976年には「国家エネルギー計画」を策定し,その中で熱電併給コジェネレーションシステム(CHP)の普及促進,石油暖房の代替としての天然ガスやバイオマス利用の地域暖房等の省エネ・プログラムの導入をうたっていた。デンマークでは,気候変動対策案(16)の中で,地域暖房のエネルギー源を石油燃料のボイラーからヒートポンプに変更する事による炭酸ガス削減効果を計上している。
[ノルウェー]
ノルウェーでは,エネルギー政策のレポート(17)の中で,ヒートポンプを含む再生可能エネルギー利用技術を改善することが,長期的に見てエネルギー問題の解決になると明言している。ノルウェーは豊富な水力資源があり,電源構成に占める再生可能エネルギー比率が99%以上を占め,ヒートポンプを再生可能エネルギーとして規定しても問題がないものと思われる。
[スイス]
スイスでは,ヒートポンプ導入促進計画が国のエネルギー政策「energie2000」に組み入れられた。スイスヒートポンプ促進協会の設立,ヒートポンプの品質と性能の改善,ヒートポンプを設置する消費者に対する補助金という3つのプログラムが推進された。また,2010年のターゲット(18)において,ヒートポンプを再生可能エネルギーに含めて提示した。
以上のように,ヒートポンプ設置数の多いスウェーデン,オーストリア,ドイツ,スイスでは,ヒートポンプを再生可能エネルギーとして規定しない場合であっても,戸建住宅向けのヒートポンプに対する政府助成策とともに,建物の断熱性能を向上させるべく建物基準の改定が行われ,ヒートポンプの導入促進が図られた。それぞれの政府が,ヒートポンプは地球温暖化ガスの抑制に効果的であると判断したためであろう。
4.日本の現況
(1)ヒートポンプの位置づけ
以上のように,統一的な方針は出ていないものの,欧州では多くの国で従来の地中熱利用のみならず,大気熱利用まで対象範囲を広げてヒートポンプを熱利用分野の再生可能エネルギーとして進めていることが判った。また,スウェーデンのように既に国際エネルギー機関(IEA)へ再生可能エネルギーの普及実績として空気熱利用のヒートポンプを計上している国もある。
一方,日本ではヒートポンプを京都議定書目標達成計画において民生部門の給湯,空調分野で高い省エネルギー効果があることから普及促進等の必要性を明記しており,省エネルギーの重点施策として位置づけている。
また,現行の「新エネルギー利用等の促進に関する法律」(新エネ法,1997年施行)では,河川水,海水,下水などの熱エネルギーを利用する温度差エネルギーが定義されているが,これらのエネルギーもヒートポンプがなければ利用できないようなエネルギーである。
(2)「再生可能エネルギー」と「新エネルギー」の概念整理
現行新エネ法でいう「新エネルギー」とは「技術的に実用化段階に達しつつあるが,経済性の面での制約から普及が十分でないもので,石油代替エネルギーの導入を図るために特に必要なもの」であり,石油代替という概念に基づいている(図3)。
 |
| (出所:「平成17年度エネルギーに関する年次報告」(エネルギー白書2006)」 |
図3 現行新エネ法における新エネルギー
(図をクリックすると拡大します)
他方,「再生可能エネルギー」の定義について,国際機関や諸外国で統一的なものはない。しかし,例えば,IEAは「絶えず補充される自然のプロセス由来のエネルギー」と定義し,太陽,風力,バイオマス,地熱,水力,海洋資源から生成されるエネルギーを含むとしている。一方,日本では「再生可能エネルギー」を「『供給サイドの新エネルギー』に水力(揚水式を除く)および地熱を合計したもの」としてきている(「新エネルギー部会報告書」(平成13年6月))(19)。
また,「再生可能エネルギー」が供給サイドのエネルギーを意味する一方で,現行新エネ法における「新エネルギー」には,エネルギーの製造や利用といった「需要サイドのエネルギー」が含まれている。
ここにきて日本政府は,「再生可能エネルギー」の導入拡大に向けたスタンスを明確化するために,
| 1) |
再生可能エネルギーの導入拡大 |
| 2) |
革新的なエネルギー技術の開発・利用の促進 |
の2つをこれまでの新エネルギー政策に代わる新たな政策の基軸とすべきであるとし,再生可能エネルギーに関する国際的な用語の使用との整合性を持たせるため「新エネルギー」の概念の範囲を図4のように整理した(「第18回新エネルギー部会中間報告(案)」(平成18年5月))(20)。
 |
| (出所:資源エネルギー庁「新エネルギー部会報告書骨子(案)」、2006年5月11日) |
図4 新エネルギーと再生可能エネルギーの概念整理
(図をクリックすると拡大します)
新基軸のうち1)については,再生可能エネルギーの国際的整合性を図ったものだか,注目すべきは新たに設けられた2)である。これは「革新的エネルギー技術開発利用」と呼称し,現時点では「再生可能エネルギーの普及に資する新規技術」,「エネルギー効率の飛躍的向上に資する新規技術」,「エネルギー源の多様化に資する新規技術」を対象としている。
今回の「中間報告(案)」では,現行新エネ法で明記されていなかったヒートポンプがハイブリッド自動車などとともに「エネルギー効率の飛躍的向上に資する新規技術」として分類されることとなった。今後は新エネルギー政策の中でもヒートポンプの普及促進を目指すことになるだろう。
(3)風力,太陽光の3倍にも上るエネルギーの利用量
日本では太陽光・風力エネルギー供給量は原油換算で65万キロリットル※1である。しかし,ヒートポンプによる空気熱エネルギー利用量を原油換算すると,そのおよそ3倍の172万キロリットル※2に相当する。日本の石油輸入量は2004年度で2億4,200万キロリットル※1。資源の乏しい日本にとっては,「空気熱エネルギーとはCO2を出さず,政情不安などの影響を受けない国産のエネルギー」とも言える。最終エネルギー消費に占める割合は燃焼方式に比べまだ少ないものの,すでにヒートポンプ給湯機(エコキュート)48万台,ヒートポンプエアコンが1億台普及しており,空気熱利用という点で日本は世界でも最も進んだ再生可能エネルギー利用国家と言えるだろう。
さらに,日本のヒートポンプ技術は世界の先端を行く。新興国・欧州なども民生部門で空調・給湯需要によって化石燃料が多く消費されているため,ここに適用されれば海外での環境改善にも寄与するものである。従って,エネルギー政策に限らず環境技術での世界貢献は経済産業政策においても,ヒートポンプ技術が重要な要素となるものと考えている。国際的に不安定なエネルギー需給の状況下で需要側対策としてヒートポンプが果たす役割は少なくないはずである。官民一体となり,国際的な視野のもと,技術開発から施策までを有機的に連携し,地球規模での普及促進に繋がるように日本が導いていくことを期待したい。
※1 日本エネルギー経済研究所計量分析ユニット編「2006年版 エネルギー・経済統計要覧」,(財)省エネルギーセンター,2006年2月。
※2 (財)ヒートポンプ・蓄熱センター調べ
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