季報 エネルギー総合工学Vol29 No.1(2006. 4) >寄稿

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icon 季報 エネルギー総合工学Vol29 No.1(2006. 4)

太田 健一郎 氏〔寄稿]

燃料電池の開発動向

  太田 健一郎
    (横浜国立大学大学院工学研究院
     機能の創生部門 過程の機能と安全分野 教授)
   

*本稿は,2005年12月16日の当所月例研究会(第241回)における講演を本誌掲載用にテープ起こししたものです。

はじめに

地球温暖化問題解決の切り札−燃料電池

 私は,環境問題と資源問題との両面を持つ地球温暖化問題を解決し,人類が持続型成長を狙うには,水素エネルギー社会は必須であり,その中核である燃料電池の研究開発に取り組んでいます。
 その水素の源はやはり水しかないでしょう。その時,太陽光など,再生可能エネルギーで水素製造を行って初めて水素エネルギーの本当の意義が出てきます。人類社会で水素を燃せば水と熱が出てきます。ここで問題の熱を宇宙へ捨てることができれば,図1のように「水の循環」がうまく利用されていると思います。

図1 水の循環と水素エネルギー社会
図1 水の循環と水素エネルギー社会

このあたりのことを,少し定量的に計算した結果が表1です。

表1 環境負荷係数でみる水素の優位
表1 環境負荷係数でみる水素の優位

環境負荷係数1というのは,バランスしているということではなく,ほぼ同じ数値だということです。全地球レベルでは0.036,日本の平均が0.88ですから,日本では自然に循環している量と同じぐらいの炭素系燃料を使っているということです。東京都区部の環境負荷係数は3万5,000で,いかに多くの炭素系燃料を使っているかが分かります。この炭素系燃料を全部水素に替えたら,環境負荷係数は地球全体で0.0001,日本だと0.006,東京都区部で0.12(炭素燃料の時の30万分の1)になります。環境への負荷は水素では圧倒的に小さいと言えます。水素エネルギー社会の到来が望まれる所以はこの辺りにあると思います。
 水素エネルギー社会のキーテクノロジーは何になるか。再生可能エネルギーを使った水素製造法もそうかも知れません。しかし,システム全体を考えた時,燃料電池の実用化がなされないと,理想的な水素エネルギーシステムはできないと認識しています。

燃料電池の原理

原理と特徴

 燃料電池は図2のような電池反応で発電します。

図2 燃料電池の発電原理
図2 燃料電池の発電原理
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乾電池と異なり,電池容量の制約がなく,エネルギー源となる燃料,酸化剤を外部から連続供給すれば半永久的に電気エネルギーを取り出すことができます。密閉型の乾電池が電気エネルギーを蓄える装置だとすると,燃料電池は電気エネルギーを得るエネルギー変換装置(発電機)と考えることができます。
 このような燃料電池は,使う電解質によって色々な種類に分けられますが,全般的には表2のような特徴があります。

表2 燃料電池の全般的な特徴
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表2 燃料電池の全般的な特徴

発電能力と効率

 燃料電池は,図3に示すように,水1モル当たり286kJのエネルギー(ΔH)を取り出すことができます。

図3 水生成反応のエネルギー変化(25℃)
図3 水生成反応のエネルギー変化(25℃)

このエネルギーは,仕事(ΔG)と熱(TΔS)に分けられます(熱力学の第一法則)が,ΔGは237kJです。もし,ΔGが機械的な仕事をせず専ら電気だけを取り出すとΔGが全て電気エネルギー(237kJ)となり,全エネルギーに対する比率は0.83になります。25℃で効率83%で電気が取れるシステムは燃料電池以外にはありません。
 水生成反応は発熱反応ですから,温度によってどう効率が変わるか見てみます。理論ベースの話ですが,25℃で酸素と水素を入れ,温度を変えると,図4および図5のように温度が上がるほど燃料電池の理論効率(εF )は下がっていきます。

図4 水生成反応の温度依存性
図4 水生成反応の温度依存性

図5 燃料電池理論効率の温度依存性
図5 燃料電池理論効率の温度依存性

一方,内燃機関の効率が温度の上昇とともに上がることになります。カルノー効率(εC )は,25℃ではゼロですが,温度が1,000K(約700℃)でちょうど理論効率とクロスします。ですから,700℃以上の温度で燃料電池を動かす時には,カルノー効率の方が高いのです。
 高温型の燃料電池については,ハイブリッドにして熱機関を動かすという考えがあります。それが燃料電池複合発電の理論効率(εM )になります。反応速度は考慮しなければいけませんが,燃料電池複合発電はほとんど温度に依存しないということになります。

燃料電池の種類

 燃料電池には,表3のように使う電解質によって色々な種類があります。リン酸形でかなり成績の良いものが出ています。

表3 燃料電池の種類
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表3 燃料電池の種類

溶融炭酸塩形は私が非常に注目しているものです。固体酸化物形は動作温度1,000℃と書いてありますが,最近は800℃かも知れません。アルカリ形はスペースシャトルに使われている燃料電池です。残念ながら,空気中には炭酸ガスがあるので,アルカリ形では純水素と純酸素の組み合わせでないと使えません。直接形メタノールは,これは一時期は自動車用も考えられましたが,現在は,「マイクロ燃料電池」という形で主にパソコン用が考えられています。ヒドラジン燃料電池は,燃料にヒドラジンという活性燃料と酸素を使います。特殊用途で,民生用には向いてないという気がします。
 表4で4つの燃料電池を比較して見ました。

表4 各種燃料電池の比較
表4 各種燃料電池の比較

常温から高温まで作動温度の順に並べてあります。理論効率は低温で高いのですが,化学反応による発電なので,反応速度は高温のほうが速くなります。反応速度を高めるために,温度が低いところでは白金(Pt)触媒を使います。500℃を境にしてPtは使わなくて済むだろうと思います。
 燃料電池の大きな課題は耐久性です。特に酸性である固体高分子形(PEFC),リン酸形(PAFC)では,金属系の材料は酸化されますから非常に使いにくいので,構造材として炭素系材料を使うことになります。それを耐久性の高い金属系にするための技術開発が行われていますが,やはり難しいです。
 基本的には,低温の方が耐久性の向上を図り易いということから,500℃〜600℃で作動する燃料電池が良いと思われます。500℃を超えないと反応速度が上がらないし,600℃以下なら鉄系の安い材料が使える可能性が高いからです。ところが,今度はいい電解質がないのです。私はこれに近い溶融炭酸塩形(MCFC)が有望だと思っています。

燃料電池開発

開発の方向性−発電効率の向上

 現在,コージェネレーションで使われているように,「燃料電池は発電装置だ」という位置づけで,電気をいかに多く取るかという工夫を徹底的にやっていかなければいけません。複合ガスタービンの51%くらいよりも高い効率が望めるはずです。このガスタービンももちろん発展もします。
 図6で示しますが,我々の研究室のターゲットはセル電圧0.85Vの燃料電池の開発です。

図6 発電効率とセル電圧の関係
図6 発電効率とセル電圧の関係

0.85Vは,今のいい燃料電池よりも0.15Vぐらい上げることに相当します。勿論,Ptを大量に使えば達成できますが,純水素でもできます。セル電圧が0.85V以上のものが出てくるとCO2削減に大きく寄与できると思っています。
 図7では各種発電装置の容量と発電効率を示しています。

図7 各種発電装置の容量と発電効率の関係
図7 各種発電装置の容量と発電効率の関係
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1MW当りまでの発電出力なら,燃料電池はマイクロガスタービンとかなり良い勝負ができます。溶融炭酸塩形,固体酸化物形は,温度が変わってもガスタービンなどに結びつけることで効率が50%を超える可能性が十分あります。

開発成果の事例


 (1)溶融炭酸塩形(MCFC)の研究開発

[MCFC開発の歩み]

 MCFCでは,電解質に溶融炭酸塩を使います。図8のように,リチウムやナトリウムが基本仕様ですが,塩ですから500℃ぐらいで融け出します。

図8 溶融炭酸塩形燃料電池の仕組み
図8 溶融炭酸塩形燃料電池の仕組み
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融点以上でこの燃料電池を作動させると,電解質相の中で炭酸イオンが動きます。そうすると,カソード側からアノード側にCO2が移動することになります。これをリサイクルしなければいけないというのが溶融炭酸塩形の欠点でもあるのですが,うまく使うとCO2の濃縮ができます。こういうシステムを使うと,セル電圧0.85Vという理想に近い燃料電池になると考えています。
 図9は10kWの燃料電池の運転試験結果です。

図9 溶融炭酸塩型燃料電池(10kW)の運転試験結果
図9 溶融炭酸塩型燃料電池(10kW)の運転試験結果

1990年では2,000時間の手前で寿命が尽きていましたが,リチウム,カリウム系で95年までには6,000時間の手前まで,98年になるとリチウム,ナトリウム系でセル電圧0.9Vを実現し,寿命も1万時間以上を達成しています。10kWですが,実用条件でセル電圧0.9Vが出る電池が既にあることを認識しておいて下さい。

[愛知万博での実績]

 MCFCは,日本の技術の結晶として愛知万博(2005年3月25日〜9月25日)に出されました。日本政府館の電源に使われたのです。特に,この時は,木材チップをガス化した燃料と食堂の残渣でメタン発酵をした燃料で電池を動かしましたが,そういう燃料を使って開催期間中無事に動いたということは画期的なことだったと思っています。

図10 愛知万博における燃料電池
図10 愛知万博における燃料電池

 もう1つの成果は,マイクロガスタービンをつなげて発電したことです。これは史上初だと思います。300kWで推定効率が51%ぐらいになっていますが,今の技術で既にそこまで達成しているのは素晴らしいことだと思います。

 (2)固体高分子形(PEFC)の研究開発

[PEFCの特徴]

 固体高分子形は一番注目されていると言っていい燃料電池です。他の燃料電池と違い,電解質にビニールみたいな固体高分子電解質を使います。PEFCの特徴の1つは出力密度の高さです。かさばるMCFCと違って,自動車の床下に積めます。室温で作動し,電解質がビニール状の高分子なため電池の形状を自由に変えることができます。こうなれば,他の燃料電池と違って縦置きにできます。これは液体の燃料電池では絶対できないことですから面白いと思います。
主な用途として,

1) 携帯用電源(パソコン用,携帯電話用,移動用小型電源)
2) 家庭用のコージェネレーション(家庭用,分散型発電)
3) 自動車用(乗用車,バス)

が考えられています。

 1)携帯用電源としてのPEFC開発動向

 メタノールを燃料にする直接形メタノール(DMFC)燃料電池ということで開発されています。非常に小さな燃料電池で,メタノールの替りに水素系燃料を使うという話も出ています。
 燃料の電気エネルギー密度を見ると,表5に示すように,メタノール(CH3OH)系はリチウム(Li)系に比べて密度が高くありません。

表5 燃料の電気化学エネルギー密度
表5 燃料の電気化学エネルギー密度

ですから,メタノールにしたからといってコンパクトになるわけではありません。ただ,リチウム系と違い,メタノール系では充電の必要がなく,カートリッジ交換だけで使えるという利点があります。
 小型化に向けた問題点としては,まず,燃料や空気の送りこみ方があります。普通の燃料電池だと,ポンプで強制的に送り込むのですが,20Wぐらいの発電に,ブロアで5〜10Wの電力を消費しては意味がありません。効率的な燃料や空気の供給方式に,機器を使わない方式(パッシブ型)と使う方式(アクティブ型)とがありますが,今のところ,パッシブ方式での開発が進んでいます。
 効率が非常に悪いため,熱が出てくるのでうまく冷却する必要もあります。そして,メタノールには毒性があるので,できればエタノールにした方が面白いと思います。例えば,図11のように,焼酎を燃料にしても発電可能であることが分かっています。

図11 焼酎を燃料に利用する燃料電池
図11 焼酎を燃料に利用する燃料電池
2)家庭用PEFCの開発動向

 ガス,灯油,LPGの3種類の燃料を使って、国が平成17年度から「定置用燃料電池大規模実証事業」を行っています。図12のように燃料電池を据え付けて,熱と電気と両方を使うシステムです。

図12 家庭用燃料電池システムのイメージ
図12 家庭用燃料電池システムのイメージ
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技術課題としては,コストダウン,耐久性の向上,電池効率の向上を挙げることができます。コストダウンは大量生産で解決すると思います。自動車と違って,例えば,システムとして30万〜50万円という値段であればかなり普及してくるでしょう。耐久性については,家電製品と同じように10年を目標に開発を行っています。最終的には,もっと発電効率を上げなければいけないと思います。
 図13は,家庭用燃料電池の仕様です。

図13 家庭用燃料電池の仕様
図13 家庭用燃料電池の仕様
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発電効率は31〜33%ですが,ここを平均的な火力発電の効率を超えるレベル(37%)まで上げて,熱は余禄だというスタンスで開発できればというところです。
 図14は,私の家の庭に据え付けて運転している燃料電池の写真と運転データです。

図14 家庭でのPEFC運転の状況(2005年8月25日)
図14 家庭でのPEFC運転の状況(2005年8月25日)
(図をクリックすると拡大します)

日中は燃料電池で発電していますが,夜中は発電していません。熱のデータが出ていませんが,この日でも使ったお湯の90%は燃料電池のお湯です。1日に必ず1回ストップしてスタートするし,窒素パージもせず,ちゃんと動いています。燃料電池はほとんど問題ないということです。

  3)自動車用PEFCの開発動向

 世界で有名な自動車会社で燃料電池の研究開発を行っていないところはまずないと思います。自動車用燃料電池を開発するきっかけを作ったのも1990年頃のトヨタ自動車とメルセデスベンツ社(現ダイムラー・クライスラー社)でした。当時,トヨタがハイブリッド車を出し,それに対抗する技術として,メルセデスベンツ社が燃料電池自動車という旗を挙げました。我々もびっくりしたのですが,素晴らしい発想だったと思います。メルセデスベンツ社が当時設計した試作車には,既に燃料電池を入れるスペースが入っていました。

図15 開発中の燃料電池自動車
図15 開発中の燃料電池自動車
(図をクリックすると拡大します)
 

 自動車用燃料電池の技術開発で最も進歩したのは,体積密度や出力密度です。固体高分子形燃料電池が格段に進み,「マイクロ燃料電池」と言われるところまで見通しが立ってきたというのは,自動車メーカーの開発競争が大きく寄与していると思っています。例えば,ダイムラー・クライスラー社の新しいタイプの燃料電池は非常にコンパクトです。5人乗りの燃料電池車が出てきました。バスにしてもそこそこの人数が乗れるということです。
 技術課題として残っているのは,まず,コストの格段の削減です。米エネルギー省(DOE)のターゲットは30ドル/kWと言われています。2005年夏の会議では,15ドル/kWが可能かどうか真剣な議論も始まっています。ゼネラルモータース(GM)社は100ドル/kWは完全に見えていると言っています。実際に,どの程度の車ができるか私もよく分かりませんが,当初は1台1000万円ぐらいの車になるでしょう。そこで使える燃料電池が200万〜300万円となると目標を達成できるかも知れません。
 次の課題は耐久性です。自動車の耐久性は5,000時間と言われていますから,走行距離は10万kmになります。燃料電池の耐久性向上では,燃料電池本体の中で触媒を支えるためのカーボンが使われていますが,自動車の運転モードでは,そのカーボンが酸化消耗しますし,条件によってはPt触媒が大量に溶解することも分かってきました。さらに,Ptは埋蔵量(2001年時点で2万8,000トン)の問題もあります。Ptを燃料電池車用(100g/台)に使うとして,3億台分だと言われています。今,自動車は世界で8億台あるわけですから決して燃料電池車は主流になれないということになります。そこで,自動車用は,Ptに代わる材料の開発が必要です。
 それから,効率の向上も課題として残っています。化石燃料をベースにすると2004年までの燃料電池車では,まだディーゼルベースの効率には勝てません。技術が進めば,勝負できる余地が大分あるだろうと思いますが,現状ではまだ難しいかも知れません。

横浜国立大学の研究

Ptとカーボンを使わない燃料電池の開発

 私どもは,Ptやカーボンを使わずにうまく発電できるPEFCの研究を続けています。
 PEFCの基本構造を図16に示しますが,カーボンの上に触媒としてPtブラック(細かくしたPt)が乗っています。

図16 PEFCの構造
図16 PEFCの構造

問題は,触媒のPtが乗る辺りのカーボンが非常に腐食しやすく減耗することです。温度を上げると問題が悪化します。さらに,Ptも安定でなく溶け出すことが分かってきました。

 (1)カーボンに変わるPt触媒のベース材料  

そこで,まず,カーボンに替わってPtのベースになる材料として,酸化錫(SnO2),酸化エルビウム(Er2O3),タンタルオキサイド(Ta2O5),酸化セリウム(CeO2)を比較検討してみました。
 図17にカソード側でのPt/Vulcan(カーボン),Pt/SnO2,Pt/Er2O3,Pt/Ta2O5,Pt/CeO2の比活性と質量活性を示しました。

図17 Pt/金属酸化物の比活性と質量活性〜溶液法(酸素雰囲気,5mV/s)
図17 Pt/金属酸化物の比活性と質量活性〜溶液法(酸素雰囲気,5mV/s)
(図をクリックすると拡大します)

比活性というのは実面積当たり,質量活性とは質量当たりの活性を意味します。右上に行けば行くほど,また,右下がりの傾きが緩やかであるほど,活性が良いということになります。
 Ta2O5は,比活性では他の検討対象材料と遜色がなく,質量活性ではPt/Vulcan(カーボン)よりも活性が高いです。つまり,Pt触媒のベースとしてカーボンの替わりになるということです。ただ,安定性が問題になるので,硫酸に溶かして飽和溶解度を比較して見ました。まず,Er2O3は溶けて駄目ですが,セリア,タンタル,錫はより安定的で,導電性も少しあるのでPt触媒のベース材料として使えそうです。

 (2)Pt/カーボンに替わる電極材料  

 Pt/カーボンに替わる材料として,タンタルオキシナイトライド(TaOxNy)の特性を見てみると,図18のように,組み合わせる窒素量によって酸素還元触媒能が大きく変わります。

図18 タンタルオキシナイトライドの酸素還元の電流密度(30℃,5mV/s)
図18 タンタルオキシナイトライドの酸素還元の電流密度(30℃,5mV/s)

適正な組成を見つければ触媒能が上がる可能性もあります。溶解度が小さい,安定的であることは強みです。
 酸化ジルコニウム(ZrO2)は,タンタルオキシナイトライドよりもポピュラーな材料ですが,表6に見るように,硫酸に対する溶解度が0.32ppmです。

表6 金属酸化物の安定性評価
表6 金属酸化物の安定性評価

Ptブラックが0.44ppmですから,数字を見る限り,酸化ジルコニウムの方が安定的です。しかし,実際に触媒能を比較すると,図19に示すようにジルコニアは,まだPtには勝てません。

図19 ジルコニアの酸素還元触媒能(酸素雰囲気)
図19 ジルコニアの酸素還元触媒能(酸素雰囲気)
(図をクリックすると拡大します)

しかし,資源量は白金に比べると問題ありません。ひょっとすると,ジルコニアを使うことで,「脱白金」が実現するかも知れません。かなり近づいていますが,取りあえず電位0.85を達成したいところです。
 タンタルオキシナイトライド,ジルコニア以外にも,Ptブラックよりも安定的なものとして,チタン酸化物などがあります。ですから,安定性と触媒能をうまくバランスさせれば,「脱白金」の有力候補が出てくるかも知れません。これが我々が8年間「脱白金」を目指して研究してきた成果です。
 やはり水素エネルギーシステムを実現したい。燃料電池の技術をきちんと確立することによって,水素の力が最大限に出てくると思っています。ご静聴ありがとうございました。(拍手)


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