| 季報 エネルギー総合工学Vol29 No.1(2006. 4) >寄稿 |
発電能力と効率燃料電池は,図3に示すように,水1モル当たり286kJのエネルギー(ΔH)を取り出すことができます。
図3 水生成反応のエネルギー変化(25℃)このエネルギーは,仕事(ΔG)と熱(TΔS)に分けられます(熱力学の第一法則)が,ΔGは237kJです。もし,ΔGが機械的な仕事をせず専ら電気だけを取り出すとΔGが全て電気エネルギー(237kJ)となり,全エネルギーに対する比率は0.83になります。25℃で効率83%で電気が取れるシステムは燃料電池以外にはありません。 一方,内燃機関の効率が温度の上昇とともに上がることになります。カルノー効率(εC )は,25℃ではゼロですが,温度が1,000K(約700℃)でちょうど理論効率とクロスします。ですから,700℃以上の温度で燃料電池を動かす時には,カルノー効率の方が高いのです。 燃料電池の種類燃料電池には,表3のように使う電解質によって色々な種類があります。リン酸形でかなり成績の良いものが出ています。 表3 燃料電池の種類
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溶融炭酸塩形は私が非常に注目しているものです。固体酸化物形は動作温度1,000℃と書いてありますが,最近は800℃かも知れません。アルカリ形はスペースシャトルに使われている燃料電池です。残念ながら,空気中には炭酸ガスがあるので,アルカリ形では純水素と純酸素の組み合わせでないと使えません。直接形メタノールは,これは一時期は自動車用も考えられましたが,現在は,「マイクロ燃料電池」という形で主にパソコン用が考えられています。ヒドラジン燃料電池は,燃料にヒドラジンという活性燃料と酸素を使います。特殊用途で,民生用には向いてないという気がします。
表4で4つの燃料電池を比較して見ました。
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常温から高温まで作動温度の順に並べてあります。理論効率は低温で高いのですが,化学反応による発電なので,反応速度は高温のほうが速くなります。反応速度を高めるために,温度が低いところでは白金(Pt)触媒を使います。500℃を境にしてPtは使わなくて済むだろうと思います。
燃料電池の大きな課題は耐久性です。特に酸性である固体高分子形(PEFC),リン酸形(PAFC)では,金属系の材料は酸化されますから非常に使いにくいので,構造材として炭素系材料を使うことになります。それを耐久性の高い金属系にするための技術開発が行われていますが,やはり難しいです。
基本的には,低温の方が耐久性の向上を図り易いということから,500℃〜600℃で作動する燃料電池が良いと思われます。500℃を超えないと反応速度が上がらないし,600℃以下なら鉄系の安い材料が使える可能性が高いからです。ところが,今度はいい電解質がないのです。私はこれに近い溶融炭酸塩形(MCFC)が有望だと思っています。
現在,コージェネレーションで使われているように,「燃料電池は発電装置だ」という位置づけで,電気をいかに多く取るかという工夫を徹底的にやっていかなければいけません。複合ガスタービンの51%くらいよりも高い効率が望めるはずです。このガスタービンももちろん発展もします。
図6で示しますが,我々の研究室のターゲットはセル電圧0.85Vの燃料電池の開発です。
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0.85Vは,今のいい燃料電池よりも0.15Vぐらい上げることに相当します。勿論,Ptを大量に使えば達成できますが,純水素でもできます。セル電圧が0.85V以上のものが出てくるとCO2削減に大きく寄与できると思っています。
図7では各種発電装置の容量と発電効率を示しています。
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1MW当りまでの発電出力なら,燃料電池はマイクロガスタービンとかなり良い勝負ができます。溶融炭酸塩形,固体酸化物形は,温度が変わってもガスタービンなどに結びつけることで効率が50%を超える可能性が十分あります。
MCFCでは,電解質に溶融炭酸塩を使います。図8のように,リチウムやナトリウムが基本仕様ですが,塩ですから500℃ぐらいで融け出します。
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融点以上でこの燃料電池を作動させると,電解質相の中で炭酸イオンが動きます。そうすると,カソード側からアノード側にCO2が移動することになります。これをリサイクルしなければいけないというのが溶融炭酸塩形の欠点でもあるのですが,うまく使うとCO2の濃縮ができます。こういうシステムを使うと,セル電圧0.85Vという理想に近い燃料電池になると考えています。
図9は10kWの燃料電池の運転試験結果です。
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1990年では2,000時間の手前で寿命が尽きていましたが,リチウム,カリウム系で95年までには6,000時間の手前まで,98年になるとリチウム,ナトリウム系でセル電圧0.9Vを実現し,寿命も1万時間以上を達成しています。10kWですが,実用条件でセル電圧0.9Vが出る電池が既にあることを認識しておいて下さい。
MCFCは,日本の技術の結晶として愛知万博(2005年3月25日〜9月25日)に出されました。日本政府館の電源に使われたのです。特に,この時は,木材チップをガス化した燃料と食堂の残渣でメタン発酵をした燃料で電池を動かしましたが,そういう燃料を使って開催期間中無事に動いたということは画期的なことだったと思っています。
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もう1つの成果は,マイクロガスタービンをつなげて発電したことです。これは史上初だと思います。300kWで推定効率が51%ぐらいになっていますが,今の技術で既にそこまで達成しているのは素晴らしいことだと思います。
(2)固体高分子形(PEFC)の研究開発 固体高分子形は一番注目されていると言っていい燃料電池です。他の燃料電池と違い,電解質にビニールみたいな固体高分子電解質を使います。PEFCの特徴の1つは出力密度の高さです。かさばるMCFCと違って,自動車の床下に積めます。室温で作動し,電解質がビニール状の高分子なため電池の形状を自由に変えることができます。こうなれば,他の燃料電池と違って縦置きにできます。これは液体の燃料電池では絶対できないことですから面白いと思います。
主な用途として,
| 1) | 携帯用電源(パソコン用,携帯電話用,移動用小型電源) |
| 2) | 家庭用のコージェネレーション(家庭用,分散型発電) |
| 3) | 自動車用(乗用車,バス) |
が考えられています。
1)携帯用電源としてのPEFC開発動向 メタノールを燃料にする直接形メタノール(DMFC)燃料電池ということで開発されています。非常に小さな燃料電池で,メタノールの替りに水素系燃料を使うという話も出ています。
燃料の電気エネルギー密度を見ると,表5に示すように,メタノール(CH3OH)系はリチウム(Li)系に比べて密度が高くありません。
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ですから,メタノールにしたからといってコンパクトになるわけではありません。ただ,リチウム系と違い,メタノール系では充電の必要がなく,カートリッジ交換だけで使えるという利点があります。
小型化に向けた問題点としては,まず,燃料や空気の送りこみ方があります。普通の燃料電池だと,ポンプで強制的に送り込むのですが,20Wぐらいの発電に,ブロアで5〜10Wの電力を消費しては意味がありません。効率的な燃料や空気の供給方式に,機器を使わない方式(パッシブ型)と使う方式(アクティブ型)とがありますが,今のところ,パッシブ方式での開発が進んでいます。
効率が非常に悪いため,熱が出てくるのでうまく冷却する必要もあります。そして,メタノールには毒性があるので,できればエタノールにした方が面白いと思います。例えば,図11のように,焼酎を燃料にしても発電可能であることが分かっています。
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ガス,灯油,LPGの3種類の燃料を使って、国が平成17年度から「定置用燃料電池大規模実証事業」を行っています。図12のように燃料電池を据え付けて,熱と電気と両方を使うシステムです。
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技術課題としては,コストダウン,耐久性の向上,電池効率の向上を挙げることができます。コストダウンは大量生産で解決すると思います。自動車と違って,例えば,システムとして30万〜50万円という値段であればかなり普及してくるでしょう。耐久性については,家電製品と同じように10年を目標に開発を行っています。最終的には,もっと発電効率を上げなければいけないと思います。
図13は,家庭用燃料電池の仕様です。
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発電効率は31〜33%ですが,ここを平均的な火力発電の効率を超えるレベル(37%)まで上げて,熱は余禄だというスタンスで開発できればというところです。
図14は,私の家の庭に据え付けて運転している燃料電池の写真と運転データです。
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日中は燃料電池で発電していますが,夜中は発電していません。熱のデータが出ていませんが,この日でも使ったお湯の90%は燃料電池のお湯です。1日に必ず1回ストップしてスタートするし,窒素パージもせず,ちゃんと動いています。燃料電池はほとんど問題ないということです。
3)自動車用PEFCの開発動向世界で有名な自動車会社で燃料電池の研究開発を行っていないところはまずないと思います。自動車用燃料電池を開発するきっかけを作ったのも1990年頃のトヨタ自動車とメルセデスベンツ社(現ダイムラー・クライスラー社)でした。当時,トヨタがハイブリッド車を出し,それに対抗する技術として,メルセデスベンツ社が燃料電池自動車という旗を挙げました。我々もびっくりしたのですが,素晴らしい発想だったと思います。メルセデスベンツ社が当時設計した試作車には,既に燃料電池を入れるスペースが入っていました。
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自動車用燃料電池の技術開発で最も進歩したのは,体積密度や出力密度です。固体高分子形燃料電池が格段に進み,「マイクロ燃料電池」と言われるところまで見通しが立ってきたというのは,自動車メーカーの開発競争が大きく寄与していると思っています。例えば,ダイムラー・クライスラー社の新しいタイプの燃料電池は非常にコンパクトです。5人乗りの燃料電池車が出てきました。バスにしてもそこそこの人数が乗れるということです。
技術課題として残っているのは,まず,コストの格段の削減です。米エネルギー省(DOE)のターゲットは30ドル/kWと言われています。2005年夏の会議では,15ドル/kWが可能かどうか真剣な議論も始まっています。ゼネラルモータース(GM)社は100ドル/kWは完全に見えていると言っています。実際に,どの程度の車ができるか私もよく分かりませんが,当初は1台1000万円ぐらいの車になるでしょう。そこで使える燃料電池が200万〜300万円となると目標を達成できるかも知れません。
次の課題は耐久性です。自動車の耐久性は5,000時間と言われていますから,走行距離は10万kmになります。燃料電池の耐久性向上では,燃料電池本体の中で触媒を支えるためのカーボンが使われていますが,自動車の運転モードでは,そのカーボンが酸化消耗しますし,条件によってはPt触媒が大量に溶解することも分かってきました。さらに,Ptは埋蔵量(2001年時点で2万8,000トン)の問題もあります。Ptを燃料電池車用(100g/台)に使うとして,3億台分だと言われています。今,自動車は世界で8億台あるわけですから決して燃料電池車は主流になれないということになります。そこで,自動車用は,Ptに代わる材料の開発が必要です。
それから,効率の向上も課題として残っています。化石燃料をベースにすると2004年までの燃料電池車では,まだディーゼルベースの効率には勝てません。技術が進めば,勝負できる余地が大分あるだろうと思いますが,現状ではまだ難しいかも知れません。
私どもは,Ptやカーボンを使わずにうまく発電できるPEFCの研究を続けています。
PEFCの基本構造を図16に示しますが,カーボンの上に触媒としてPtブラック(細かくしたPt)が乗っています。
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問題は,触媒のPtが乗る辺りのカーボンが非常に腐食しやすく減耗することです。温度を上げると問題が悪化します。さらに,Ptも安定でなく溶け出すことが分かってきました。
(1)カーボンに変わるPt触媒のベース材料そこで,まず,カーボンに替わってPtのベースになる材料として,酸化錫(SnO2),酸化エルビウム(Er2O3),タンタルオキサイド(Ta2O5),酸化セリウム(CeO2)を比較検討してみました。
図17にカソード側でのPt/Vulcan(カーボン),Pt/SnO2,Pt/Er2O3,Pt/Ta2O5,Pt/CeO2の比活性と質量活性を示しました。
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比活性というのは実面積当たり,質量活性とは質量当たりの活性を意味します。右上に行けば行くほど,また,右下がりの傾きが緩やかであるほど,活性が良いということになります。
Ta2O5は,比活性では他の検討対象材料と遜色がなく,質量活性ではPt/Vulcan(カーボン)よりも活性が高いです。つまり,Pt触媒のベースとしてカーボンの替わりになるということです。ただ,安定性が問題になるので,硫酸に溶かして飽和溶解度を比較して見ました。まず,Er2O3は溶けて駄目ですが,セリア,タンタル,錫はより安定的で,導電性も少しあるのでPt触媒のベース材料として使えそうです。
Pt/カーボンに替わる材料として,タンタルオキシナイトライド(TaOxNy)の特性を見てみると,図18のように,組み合わせる窒素量によって酸素還元触媒能が大きく変わります。
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適正な組成を見つければ触媒能が上がる可能性もあります。溶解度が小さい,安定的であることは強みです。
酸化ジルコニウム(ZrO2)は,タンタルオキシナイトライドよりもポピュラーな材料ですが,表6に見るように,硫酸に対する溶解度が0.32ppmです。
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Ptブラックが0.44ppmですから,数字を見る限り,酸化ジルコニウムの方が安定的です。しかし,実際に触媒能を比較すると,図19に示すようにジルコニアは,まだPtには勝てません。
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しかし,資源量は白金に比べると問題ありません。ひょっとすると,ジルコニアを使うことで,「脱白金」が実現するかも知れません。かなり近づいていますが,取りあえず電位0.85を達成したいところです。
タンタルオキシナイトライド,ジルコニア以外にも,Ptブラックよりも安定的なものとして,チタン酸化物などがあります。ですから,安定性と触媒能をうまくバランスさせれば,「脱白金」の有力候補が出てくるかも知れません。これが我々が8年間「脱白金」を目指して研究してきた成果です。
やはり水素エネルギーシステムを実現したい。燃料電池の技術をきちんと確立することによって,水素の力が最大限に出てくると思っています。ご静聴ありがとうございました。(拍手)
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