季報 エネルギー総合工学Vol28 No.3(2005.10) >調査研究報告

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〔調査研究報告〕

ディーゼルエンジンの排出ガス規制と対応技術について-ディーゼル車の復権なるか-

     横山 昌宏
     ((財)エネルギー総合工学研究所 主管研究員)
    
横山 昌宏氏

1.はじめに

 ディーゼルエンジンはその熱効率の高さ,優れた耐久性および信頼性の点から,船舶,乗用車などの輸送機関の動力源として,また建築土木用機械や発電用のパワーユニットとして幅広く活用され,社会・経済的に重要な役割を担っている。わが国においてはこれまで,ディーゼル車には「汚い,うるさい,臭い」のレッテルが貼られ,また大気汚染の元凶であると見なされ,ディーゼル排出ガスに対する規制が行われてきた。本年10月には世界で最も厳しい「新長期規制」がスタートする。しかし,これまでの規制をバネに様々な環境対応技術が開発されており,今後の厳しい規制にも充分対応可能な,クリーンなディーゼル車が台頭しつつある。
 今回オフロードディーゼルエンジンに関する調査(平成16年度経済産業省委託調査「オフロードエンジンから排出される未規制物質測定法の標準化に関する調査研究」)の一環でディーゼル車の排出ガス規制動向とその対応技術に関して調査したので,ディーゼル車の現状と将来について考えてみたい。

2.ディーゼル車の普及状況

(1)EUの普及状況とその背景

 欧州連合(EU)では,ディーゼル車がガソリン車を超える威勢で増加している。図1は新車販売に占めるディーゼル車比率を示したものであるが,1997年を境に急拡大し,2004年には5割近くを占めるに至っている。

図1 EUの新車発売に占めるディーゼル車比率
図1 EUの新車発売に占めるディーゼル車比率
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これは勿論,欧州自動車工業会(ACEA,the European Automobile Manufacturers Association)がコミットしている自主規制(参加企業の販売乗用車について,2008年時点で,平均CO2排出量を140g/km以下に抑える)を達成するために,エネルギー効率が高く,CO2削減効果の大きいディーゼル車の導入に積極的にならざるを得ないという事情もあるが,1997年のコモンレール式燃料噴射システム等の導入によりディーゼルエンジンが技術革新されたということが背景になっている。
 図2は最新のディーゼル車に導入されている主な技術群であるが,高性能ターボチャージャとの組合せによる高出力化や,コモンレール式燃料噴射システムとの組合せによる低騒音化が図られた。

図2 最新のディーゼル車に導入されている技術
図2 最新のディーゼル車に導入されている技術(1)
その結果,低出力と騒音の問題はほぼ解決されつつあり,ディーゼル車の性能がガソリン車並みに向上している。加えて,ディーゼル車は低速トルクが大きいためエンストはほとんど起こらず,走り出しは極めてスムーズで加速性に優れ,また人が歩くスピードに減速してもシフトダウンせずに再加速が可能であるなど,ドライバーにとってディーゼル車の乗り心地が魅力的なものになっている。

(2)日本の普及阻害要因

 わが国においても1980年代後半からのRV車のブームとともに燃費の良いディーゼル車に対する需要は旺盛であったが,新車販売におけるディーゼル車比率はピーク時の5%強を境に減少に転じ,2002年には0.1%までに低下している。これは,この間にディーゼル車にとられた種々のアクション,

1) わが国のNOx重視の規制体系と燃費悪化
2) 自動車税改正による購入メリットの減少
3) 特石法廃止等によるガソリンと軽油の価格差縮小
4) 平均走行距離の短さ(EUの平均約14,000km/年に対し,日本は平均約10,000km/年)による低経済性
5) 排出ガス規制の段階的な強化
6) 東京都によるディーゼル車NO作戦

などに起因すると想定されている。

3.ディーゼル車に対する排出ガス規制

(1)ディーゼルエンジンの燃焼と排出ガス

 ディーゼルエンジンは圧縮した空気中へ燃料を噴射して燃焼させる方式(拡散燃焼と呼ばれる)で,一般的に空気過剰状態での燃焼反応となるため,ガソリンエンジンに比べて排出ガス中の炭化水素(HC)および一酸化炭素(CO)の濃度は低くなる。しかし一方では,局所的に空気不足の燃焼域も存在し,不均一燃焼が生じるため,窒素酸化物(NOx)と煤などの粒子状物質(PM,Paticulate Matter)の濃度はある程度高くなる。
 図3はディーゼルエンジンの燃焼特性を模式的に示したものであるが,図に見られるように,ディーゼルエンジンの燃焼域はNOx生成域とPM生成域とにまたがっている。

図3 燃焼有害物質の生成領域(NO<sub>x</sub>とPMのトレードオフ)
図3 燃焼有害物質の生成領域(NOxとPMのトレードオフ)(2)
このように,NOxとPMはトレードオフの関係にあり,一方を下げると他方が増えるなど,同時に低減することは極めて難しいとされている。

(2)排出ガス規制の動向

 現在ディーゼル排出ガス中の規制対象物質はCO,HC,NOx,PMの4種であるが,COとHCは既に低いレベルにありそれほど問題ではない。残された問題はNOxとPMであり,世界的にNOxとPMの低減を目的とした排出ガス規制が強化されている。図4図5は日本とEUにおけるディーゼル車の排出ガス規制の推移をNOxとPMの場合につき示したものである。

図4 ディーゼル車排出ガス規制の推移(NO<sub>x</sub>)
図4 ディーゼル車排出ガス規制の推移(NOx
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図5 ディーゼル車排出ガス規制の推移(PM)
図5 ディーゼル車排出ガス規制の推移(PM)
(図をクリックすると拡大します)
 日本のディーゼル排出ガス規制は1974年にスタートしているが,当初は光化学スモッグ発生の抑制に重点が置かれたため,NOxのみが規制対象とされ,PMは1994年までの20年間規制されることはなかった。しかし,2005年10月より実施される「新長期規制」では,PMは0.013g/kmレベルに低減され,現時点では世界で最も厳しいものになる。さらに,2009年には「ポスト新長期規制」が導入される予定で,NOxおよびPMの双方がより厳しいレベルに低減される。
 一方,EU委員会はEuro4と呼ばれる現行の自動車排出ガス規制を強化したEuro5を年内にまとめ,2008年半ばまでに実施する方針を発表(3)している。これによると,ディーゼル車のPM排出量は現行より80%,NOxは20%削減されることになる。Euro5には業界など利害関係者の意見を反映させるとしているが,素案通り施行されれば,図6に示すように,ディーゼル車にはディーゼル微粒子除去装置(DPF,Diesel Particulate Filter)等の後処理装置の装着が必須になる。

図6 EUのディーゼル車排出ガス規制への対応技術
図6 EUのディーゼル車排出ガス規制への対応技術

4.ディーゼルエンジンの環境対応技術

 ディーゼルエンジンの環境対応技術を大別すると,
図7に示すように,「燃焼技術」,「後処理技術」,「制御技術」および「燃料品質」の4分野にまとめることができる。

図7 ディーゼルエンジンの環境対応技術
図7 ディーゼルエンジンの環境対応技術
目的に応じてそれらが単独あるいは複数で関与しており,また,その関与の程度はエンジンの種類あるいは用途等によって異なる。
 特に制御技術は,今後,燃料噴射,排出ガス後処理,エンジンと他システムとの融合を更に進化させるために重要な役割を担っており,その高度な発展が期待されている。

(1)燃焼技術

 燃焼技術はディーゼルエンジンの基本要素であり,燃料噴射も含めて燃料と空気との不均一混合気形成を適切に制御することが重要課題である。この技術として,長年に亘り多様な対応技術が開発・集積されてきたが,昨今では特にNOx,PMの低減のために高圧噴射,電子制御による燃料の多段噴射,排出ガス再循環(EGR,Exhaust Gas Recirculation)等の技術は必須になっている。
 一方では,前掲した
図3に見られるように,将来に向けて新燃焼方式の開発も積極的に取り組まれている。中でも予混合圧縮着火方式(HCCI,Homogeneous Charge Compression Ignition)は非常に期待されている燃焼方式で,比較的低い温度でかつ燃料の希薄なクリーンな燃焼域にあるため,NOxとPMの生成を同時に回避することが可能であるとされている。

[コモンレール式燃料噴射システム]

 コモンレールとは,高圧化した燃料を蓄え,各インジェクターへ均一に供給するシステムである。図8に示すように,全気筒分の燃料を高圧ポンプで噴射圧力まで加圧し,コモンレールへ圧送する。

図8 コモンレール式燃料噴射システム
図8 コモンレール式燃料噴射システム(4)
コモンレールには燃料を噴射するインジェクターが接続されており,電子制御システムから開閉信号が発信されると,インジェクターが作動し,決められた時間に,決められた量の燃料を噴射する。
 コモンレール式燃料噴射システムはエンジン回転数に依存せず,噴射の重要な特性である噴射圧力,噴射量,噴射タイミング,噴射率をそれぞれ独立に制御することが可能である。そのため従来は不可能であった1燃焼サイクルにおける複数回噴射が可能となり,現在では図9に示すように,5回の多段噴射が実用化されている。

図9 多段噴射による燃焼の制御
図9 多段噴射による燃焼の制御(5)
 パイロット噴射,プレ噴射はメイン噴射に先駆けて少量の燃料を噴射するもので,PMの低減と騒音の抑制に効果がある。これはパイロット,プレ燃焼によりシリンダー内ガス温度を上昇させてメイン噴射燃料の着火遅れを短縮することで,メイン燃焼初期の急激な予混合燃焼を回避できるためである。アフター噴射は,メイン単独噴射と比較してPMの抑制に効果がある。これはメイン噴射によりPMが発生したところへ微量の燃料を噴射し,再び拡散燃焼を発生させ,残ったPMを完全に燃焼させる。さらにメイン噴射から大きく離れたポスト噴射は,排気ガスの温度上昇や排気中のHCを増加させる効果があるため,脱NOx触媒やDPFなどの後処理装置の制御に利用される。
 噴射圧が高圧になればなるほど燃料は微粒化し,PM等の排出ガスのエミッションは減少する。そのため,さらなる高圧化と高度制御技術の開発が行われており,現在,第4世代コモンレールシステムが開発されている。噴射圧は2500気圧に高められ,また,インジェクターのアクチュエーターにピエゾ素子*を用いて開閉速度の高速化(従来タイプに比べ約2倍)が図られ,9回の多段噴射も実現されている。
*ピエゾアクチュエータとはピエゾ圧電効果を応用したセラミック素子で,従来のソレノイド型アクチュエーターに比べて開閉動作速度が速く,よりきめ細かな燃料噴射と制御が可能になる。

(2)後処理技術

 前述したようにNOxとPMにはトレードオフの関係があり,燃焼改善のみでNOxとPMを同時に低減するには限界があることから,今後の厳しい排出ガス規制をクリアーするためには後処理装置の導入が必要である。
 表1に示すように,NOxの後処理技術としてはNOx吸蔵還元触媒(NSR,NOx Storage Reduction),尿素選択還元触媒(SCR,Selective Catalytic Reduction)等があり,PMの後処理技術としては酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst),DPF等がある。また,NOxとPMを同時に連続浄化可能なDPNR(Diesel Particulate NOx Reduction system)も実用化されている。
表1 後処理装置と特徴
(表をクリックすると拡大します)
表1 後処理装置と特徴

 しかし,後処理では加熱のために燃料の一部を用いる場合や還元剤等が必要になる場合も多く,燃費悪化あるいは運転コストの増大などの課題が残されている。ディーゼルエンジンにとって最も大切な燃費を犠牲にしない後処理技術が望まれる。また,特に触媒を用いる場合は,燃料中の硫黄分によって被毒されることから,その本来の機能を発揮させるためには燃料の低硫黄化が欠かせない。

[SCRについて]

 SCRは尿素を加水分解して得られるアンモニアによって,酸素過剰雰囲気中でも選択的にNOxだけを還元する。この方法は既に工業プラント等で行われている方法で技術的には確立されているものである。また,後述の燃料を還元剤として用いるDPNR法等に比べると,尿素噴射量の制御は比較的容易で,燃費の悪化も抑えられるというメリットがある。しかし,尿素の供給インフラをどのように構築するのか,毒性が強いアンモニアの大気中への漏洩をどのように防ぐかという課題が残されている。このような課題を抱えてはいるが,特にEUは大型トラックへの導入を進めており,わが国でも一部のトラックメーカーが導入を準備している。

[DPNRについて]

 DPNRはNOx吸蔵触媒とDPFを一体化した,すなわち,DPFの表面に三元触媒としてのPtとNOx吸蔵材の2種類を担持させたものである。通常のディーゼルエンジンでは排ガス中には酸素が多く,この状態では排ガス中のNOはPtによって酸化されてNO2となり,吸蔵材に吸蔵される。NO2が吸蔵材にある程度吸蔵されると,エンジン側で燃料の噴射量をわざと過剰にすることにより排ガス中の酸素を低減させ,CO,HCが存在するようにする。このCOやHCを還元剤として三元触媒が吸蔵材に吸蔵したNO2を還元し,N2に変える。同時にCOとHCも酸化され,H2OとCO2に変わる。また,排ガス中のNOがPtで酸化される過程で発生する活性酸素によってPMの酸化を促進し,比較的低い温度域でもPM中の煤が酸化される。
 このように,DPNRはこれまでディーゼルでは難しいとされてきた後処理装置でのNOxとPMの同時低減を達成することが可能であるが,燃料を還元剤として使用するため燃費が若干悪化するというデメリットがある。

[DPFについて]

 DPFはPMの80%以上を補足することができる。フィルターはこれまで,捕集したPMを電気ヒーターやバーナーを用いた強制着火により間欠的に再生されていたが,最近はNO2の強い酸化力を利用してPMを酸化する触媒付DPF(CDPF,catalyzed DPF)が注目されている。このCDPFでは酸化触媒をDPFの前段に配置するかDPF内に担持して,排気中のNOをNO2とし,これによって捕集したPMを連続的に酸化除去することができる。しかし,このシステムでは燃料中の硫黄分により触媒が劣化するため,定期的な燃料噴射によって触媒温度を一時的に上昇させる(300℃以上)ことが必要で,燃費悪化につながる。これを回避するため,燃料中の硫黄分を限りなくゼロレベルに下げることが求められている。

 以上の後処理装置を例えば 図10のようにシリーズに組み合わせることによって,ディーゼル排出ガスは規制レベルまで浄化される。

図10 排気管に装着した後処理装置
図10 排気管に装着した後処理装置
(図をクリックすると拡大します)
すなわち,エンジン出口でのエミッション量を可能な限り低減した後,先ず酸化触媒によりPMに含まれる可溶性有機成分(SOF,Soluble Organic Fraction)が酸化除去され,次いでCDPFによりPMの煤成分(図11参照)が除去される。

図11 PMの形状と構造
図11 PMの形状と構造(6)
最後に,SCR装置によりNOxが還元除去され,排出ガスはクリーンに浄化されて大気中に放出される。

5.燃料品質について

 エンジン燃焼技術や排出ガス後処理技術は燃料品質と密接な関係があり,これらの技術を最適にするためには,燃料品質を適切なものにする必要がある。軽油についてはこれまで燃焼改善のためにセタン価,沸点等の適正化が行われてきたが,後処理装置等の性能を長期間にわたり保証するために,軽油中の硫黄分の大幅な低減が図られてきた。特に,石油業界は大気環境の改善を目指した自動車業界との共同研究(JCAP,Japan Clean Air Program)の成果に基づき,図12に示すように規制を前倒しして,世界に先駆けて2005年1月からサルファーフリー軽油の全国供給を開始している。

図12 低硫黄軽油への取組
図12 低硫黄軽油への取組(7)
したがって,これまで後処理技術の開発に際して大きな障害となっていた燃料品質面の制約が解消され,今後はサルファーフリー軽油を前提にした高性能排出ガス浄化システムの開発が促進される見込みである。

6.さいごに

 ローカルな環境問題(大気環境改善)のためにディーゼル車への排出ガス規制が一段と厳しさを増しているが,それを上回る威勢でディーゼル関連技術の革新が起きている。いずれ,ディーゼル車の排出ガスレベルはガソリン車と同等レベルに低減される,あるいは環境上の懸念事項が解消される時がくると想定される。その時は,ディーゼル車のグローバルな環境問題(地球温暖化対策)に対するメリットが改めて見直されることになると思われる。
 また,将来は化石資源制約がクローズアップされ新たな代替資源への取組みが求められるが,軽油代替燃料としてはGTL(Gas to Liquid),BTL(Bio to Liquid),DME(ディメチルエーテル),バイオディーゼルなどの多様な燃料が期待できることから,ディーゼル車は資源制約面でも大きなフレキシビリティーを保有している。
 以上のように,ディーゼル車は今後とも持続的な技術革新によりさらなるクリーン化が期待でき,また超長期的な燃料供給面で比較的制約の少ない輸送機関であると考えられる。このような意味で,わが国においても今後,ディーゼル車が普及することを期待したい。

7.謝辞

 本稿は平成16年度に経済産業省の委託により実施した「オフロードエンジンから排出される未規制物質測定法の標準化に関する調査研究」を参考にしている。ここに謝意を表する。


参考文献
(1) 経済産業省「クリーンディーゼル車の普及・将来見通しに関する検討会」資料(2004)
(2) ディーゼルエンジンの排出ガス低減技術展望,堀政彦,自動車研究,26(2004)
(3) 新聞情報(ブリュッセル2005.07.16)
(4) Boschホームページ
(5) ディーゼルエンジンの最新情報と今後の動向,西村輝一,シンポジウム資料(2003)
(6) 産総研ホームページ
(7) 石油産業における低硫黄化への取組みと技術動向,石油連盟・自動車用燃料専門委員会(2004.10.26)

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