季報 エネルギー総合工学Vol28 No.2(2005. 7) > 寄稿

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icon 季報 エネルギー総合工学Vol28 No.2(2005. 7)

〔寄稿〕

ピークオイル説を検証する

     本村 真澄
    (独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構)
     石油・天然ガス調査グループ調査チーム
     主席研究員)
本村 真澄氏

1.石油の楽観論と悲観論

 石油資源の供給予測について,最近では対照的な2つの見解が公表され,大きな論争が展開されている。
 一般に多く引用される国際エネルギー機関(IEA)の予測(1),米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)の予測(2)は,2000年に発表された米国地質調査所(USGS)によるP50値である3兆バレルという究極可採埋蔵量評価を前提(3)としており,当面供給危機は起こらないと結論している。
  一方,最近話題になることの多いキャンベルらの「ピークオイル説」は,1.8兆バレルという究極可採埋蔵量に基づいた予測で,2010年までには石油生産のピークを迎えるというものである。但し,彼の予測する生産ピークは,最初に発表された時は90年代後半であり,最近は2000年代後半まで後へとずれ込んでいる。キャンベルの議論を初めて聞いた人は鮮烈な印象を受けるだろうが,当時からの議論を知るものには狼少年的な言説に見える。詰まるところ,この議論の分かれ道は,地球における石油の究極資源量をどの程度に見積もるかに尽きると言えよう。以下,石油埋蔵量の予測の方法論に遡って双方の見解を比較してみたい。
 

2. 石油の悲観論とは?

(1)最近の石油悲観論について

 2000年代後半に石油生産量がピークを打つという予想は,キャンベルとラエレールという2人の地質学者による『安い石油がなくなる(The End of Cheap Oil)』(Campbell & Laherrere, 1998)という論文の中で述べられているもので,サイエンティフィック・アメリカン誌に掲載され,大いに話題を呼んだ。論文の図では,2004年がピークとなっている。
  但し,2005年第1四半期の世界の石油生産量は,IEAの統計によれば日量8,384万バレル,対前年比2.4%増で,2005年に入っても増産基調は維持している。勿論,これをもってピークオイル説が否定されたと言うつもりはない。世界の石油需要は,その時の経済状況に大きな影響を受けるし,油価の動向によっても需要水準は変動する。四半期毎では季節的な要因も入る。ピークといってもそれは短期的な変動を含んだ,なだらか高原状を呈する生産動向であろう。よって近い将来,石油生産量が対前年を割ったとしても,それによって直ちにピークオイルが来たと断言することもできない。歴史的な石油生産のピークを認定するには,何年かの生産量の動向を追跡して初めて可能と思われる。
  最近のキャンベルは,ピークの時期を2010年までと修正して来ている(
図1参照)。

図1 キャンベルらによる原油生産予測
図1 キャンベルらによる原油生産予測
(出所:http://www.asponews.org/)
(図をクリックすると拡大します)
ピークオイルは徐々に「逃げ水」のように遠ざかっている印象である。彼らは,「今度こそ本当に狼はやって来る」と言いたげだが,「ただ,ちょっと遅れ気味で」と一言付け加える必要があるかも知れない。
 勿論,石油資源は有限なのだし,いずれピークオイルは必ず来る。楽観論に近いEIAは,ピークの時期を標準ケースで2030年代と言っている。問題は,石油の次を担い得る新しいエネルギーが,その頃までに市場の占有率や安定的な供給体制においてエネルギーの太宗となっているかであろう。勿論,それまでの時間が十分でないと,エネルギー市場での混乱は避けられない。

(2)最近の油価の高騰の理由と資源枯渇の言説

 2004年から5年にかけての油価の高騰は,石油の需給が十分バランスしているにもかかわらず進行している。石油輸出国機構(OPEC)も大方の石油関係者も,市場に供給は足りていると表明しているにもかかわらず高騰は止んでいない。一般には,昨年は以下のような理由が,石油市場のリスクを高め,プレミアムとして本来の適正な価格に上乗せされたと言われている。即ち,イラク戦争による中東の政治リスク,ロシアのユコス問題,ナイジェリアの治安悪化,ベネズエラの政状不安,米国メキシコ湾のハリケーン「アイバン」による生産設備被害,米国の州毎に異なるガソリン品質基準による製品の流通阻害,米国における恒常的な製品在庫不足などである。そして,これらを不安材料とした投機資金の流入,即ち石油市場のカジノ化がより本質的な高騰の原因と思われる。投機資金は,価格の動きをいち早く読み解くのが勝負で,市場心理は勢い石油供給の懸念の生むリスクに着目する。そして,この懸念は市場関係者の間で増幅されがちである。投機資金が大量に流れ込むことにより,必然的に石油価格は乱高下する傾向が続く。この流れの中で,ピークオイルの議論も不安の材料と見なされるようになった。  

3.キャンベルらによるピークオイル説


 図1は,ASPO(The Association for the Study of Peak Oil and Gas)のニュースサイトに掲げられているもので,ここでは世界の石油生産のピークは2006年頃を想定している。この図で見ると,米国(アラスカ,ハワイを除く48州)や欧州の減退は現実の傾向を示していると言えるが,ロシアも,大水深域も,更には中東までもが2000年代後半には一斉に石油生産の減退期に入るとされている。
 これを逐一検証して行く作業は大変だが,例えば,ロシアについて見ると,キャンベルは,既にソ連時代に経験した1987年の生産ピークがロシア全体の生産ピークに他ならず,2010年までに一時的に生産量が回復しても,今後は大きな減退に見舞われるとしている。実際,90年代初めのソビエト連邦の崩壊前後から石油生産量は急落したのだが,10年の低迷を経て2000年からは力強い回復基調にある。
 キャンベルの推定の根拠とは,ロシアの可採埋蔵量が660億バレル,今後追加発見される量が130億バレルというもので,これを前提に生産予測カーブを描いている。しかしこれは,USGSが2000年に推定している可採埋蔵量1,375億バレル,未発見埋蔵量774億バレルに比較して遥かに低い。多くの専門家は埋蔵量の試算プロセスの内容から米国地質調査所の推定を支持している。キャンベルの手法の問題点は,まず前提としている石油埋蔵量(Reserves)が,不当に低く評価されている点にある。次に,究極資源量(Resources,内容は後述)についても,現在の価格と現在の技術で回収可能な資源総量として,あくまで静的なものと定義しており,後述するように埋蔵量の評価というものが,「埋蔵量成長」を含む動的なものであることを無視している点である。
 次に将来の生産量であるが,2003年にロシアの産業エネルギー省が発表した予測によれば,中庸ケースで2005年は840万バレル/日,2010年には890万バレル/日,2020年に900万バレル/日と徐々に横ばいになるとの見通しだが,これまでの生産実績はこれを上回って推移しており,将来的にも同省の予測を上回って推移すると見られている。これに対して,キャンベルは2010年は670万バレル/日,2020年は430万バレル/日に急落するという予測を立てている。これは,これまでの主要油田の生産履歴に照らして説得力のある予測とは言えない。当初設定した埋蔵量があまりに過少評価であり,当然の結果と言えよう。
 中東も,2000年代半ばをピークに緩やかに減退してゆくと予想されている。しかし,サウジアラビアは,昨年,Qatif油田,Abu Safah油田の開発を行い生産能力を日量1,100万バレルまで引き上げたところである。更に,今年からはShaybah, Khurais等の4油田の開発工事に着手し,アブドラ皇太子はブッシュ大統領に対して2008年までに生産能力を1,250万バレルまで嵩上げする計画を表明した。ヌアイミ大臣は,最終的には生産能力を1,500万バレルとする方針を述べている。イラクは,いずれ治安の安定化を待って,石油開発が軌道に乗るであろうし,イランも増産計画を有している。クウェートは,昨年240万バレル/日の生産能力を270万バレル/日まで上げたところであるが,将来的には400万バレル/日を目指している。こうして見ると,中東地域が近い将来減産に転ずるという見通しは,個々の国の投資実績や見通しからは懸け離れたものと言える。
 こうして,国,地域を個別に検討してゆくと,近々ピークオイルが来るという説は,各国が取り組んでいる増産計画と大きく乖離した予測を根拠としていることが分かる。
勿論,継続的な投資努力や,技術の進歩がなければ,このカーブの様に,近いうちに石油生産は減退に向かう。しかし,各国政府,石油各社の取り組む姿勢がある限り,2006年にピークが来るという予測カーブは杞憂に終わると言える。

4.資源悲観論の根拠とは

(1)新マルサス主義の系譜

 地球の資源が有限であるという議論は,昔から繰り返しなされている。
 1972年,ローマクラブの発表した報告書『成長の限界』では,「人口増加と経済成長が空前のレベルに達した現在 (と言っても30年以上も前のことだが) ,人類は地球の大きさの有限性とその上での人間の生存と活動の限界を考慮しなければならない」と警鐘を発し,資源の有限性を指摘した上で,「成長の継続」のみに拠らない代替策を求めている。
 しかし,これすらも初めて現れた見解ではない。この種の議論の始祖は,イギリスの経済学者トーマス・ロバート・マルサス(1766〜1834年)が発表した『人口論』(1798年)まで遡る。これは,人口が等比級数的に増加するのに対して,食料は等差級数的にしか増加しえず,人類社会は将来的に破綻に瀕するというものである。
 このことから,資源の有限性を強調するグループを「新マルサス主義者(Neo-Marthusians)」と呼ぶことがある。
 石油における新マルサス主義の議論では,石油の埋蔵量に関しては既に知られた固定的な量として把握可能であり,ハバート曲線に基いて過去の生産履歴から生産量のピーク時期を求めることが可能となると主張がなされている。
 現在の地球は,マルサスの言うように破綻していない。この理由として,その後米国等の新大陸に渡った人が多かったなどと説明されることがあるが,当時の推論の前提であった農業技術がその後長足の進歩を遂げ,耕地整備,灌漑技術の進展,更に今世紀「緑の革命」が実現したことが大きいと思われる。問題の解決を「市場と技術」に求める態度は,ローマクラブのメンバーからも批判されているが,一方でこれを無視した議論は単なる暴論でしかない。技術革新の齎す変革力,それの受け皿となる市場の力を軽視するべきではない。「市場と技術」が有効な範囲と,その限界を見極める作業が必要である。
 昨今の資源悲観論は,流石に資源がすぐ無くなるとは言えないのが分かって,生産のピークが来ることによる需給逼迫という考えで世に警鐘を鳴らしているという点が多少目新しいと切り口と言えるであろう。

(2)ハバート(Hubbert)曲線とは

 悲観論者の殆どがその根拠としているハバート曲線というのは,シェル社の地質学者キング・ハバート(Marion King Hubbert,1903-89)が1956年に発表したものである。地質学者としての彼は,シカゴ大学で7年間講師を勤めた後,シェル社に25年奉職し,退職後は米国地質調査所に在籍しつつ,時にスタンフォード大学で教鞭を採った。
 ハバートの考えを要約すると
表1の通りである。
表1 ハバートの考えの要約
(出所:井上, 2004)
表1 ハバートの考えの要約

(3)ハバートによる米国の石油生産予測

 この考えに基づきハバートは,遅くとも1970年頃に米国本土48州(Lower 48)の生産量がピークを示すと予言した。この議論は当初,殆ど注目を集めることはなかったが,実際に,米国本土の生産量が1970年にピークを示したことから俄かに注目を集めることとなった。
 本来ならば,対象となる国,或いは堆積盆地の究極可採埋蔵量が与えられれば,当然ベルカーブを描くことが可能になるが,もしも途中までの生産履歴から,かなりの確度で生産量ピークが予測できるのであれば,社会的にも重要な情報を与える手法となりうる。但し,ハバート自身による予測も,米国の埋蔵量について1,500億〜2,000億バレルとある程度幅のあるものとなっている。

(4)ハバート曲線理論の問題点

 しかしこの考えについては,厳密な議論で組み立てられたものではなく,一種のカーブフィッティングに過ぎない(井上,2004)という批判がある(9)。さらに,生産量の伸びに伴い,増加率が直線的に減少するという仮定は,探鉱密度が高く,政治・経済面で安定しており需要と開発投資の伸びに関して隘路が生じない北米のような地域ではじめて有意であると思われる。世界の他の地域は,アクセス,インフラ,市場までの距離から,探鉱密度は米国よりも遥かに低く,契約条件や,政治的な影響から開発投資の推移は著しく不安定であり,生産量推移は地質ポテンシャル以外のさまざまな投資環境の変動を反映したものとなり,北米のような解析を直ちに行える訳ではない。
 キャンベルらは,1998年の論文で世界の石油生産を予測する際に,生産履歴から埋蔵量を求めるのではなく,別途の手法で既存油田の残存埋蔵量と堆積盆地における未発見資源量を求め,地球の石油資源量を1.8兆バレルとした。そして,そこから生産ピークの時期を予想している。その意味では,代表的なピークオイル論者であるにも関わらず,既にハバート理論の「修正主義」となっている。

5.資源楽観論

(1)資源量をピラミッド・モデルで表現する

 新マルサス主義などの悲観論と対照的な資源楽観論を唱えるグループを“Cornucopian”と言っている。「コルヌコピア」とは,ゼウスが幼少の砌,乳を飲んだとされる山羊の角のことで,幼いゼウスが吸うと乳が止め処もなく湧き出たという伝説に基づき,資源を基本的に楽観的に捉えるグループに対して名付けられたものである。ギリシャ神話では「豊穣の角」と言っているが,ここでは取り敢えず「資源長期有望論」と意訳して置く。
 この元になる考えは,
図2の資源ピラミッド・モデルで良く表現できる。

図2 資源ピラミッドモデル
図2 資源ピラミッドモデル
ここでは資源量とは固定的なものではなく,埋蔵量成長,技術革新,インフラ整備,政策的誘導,その時の経済性などで上乗せされるという前提に立っている。なかでも,埋蔵量成長の役割は特に大きい。実務サイドや多くの研究機関は基本的にこの立場を採っていると言って良い。
 図2の最上の部分は既生産量で,人類は既に0.7兆バレルの石油を消費した。特に頂部付近は高品位の鉱床であり,アクセスが良く,鉱床が浅部にあり,貯留岩性状が良好で採取の容易な,バクーやペンシルバニアのような歴史的に初期から産業化した部分である。下位に行くほど,鉱床としては品位は低下し,生産して行くには,より高い技術,より大きな投資が必要となるが,在来型の技術で対応可能である。

(2)埋蔵量あるいは確認可採埋蔵量(Reserves)

 既生産から1つ下の層が,確認可採埋蔵量(Reserves)として各石油企業において「在庫」扱いになっている量で,現在このカテゴリーから石油生産が行われている。この量が0.9兆バレルあるが一部により多い試算もある。石油は,毎年約300億バレルが生産され,石油企業による生産活動により既生産量と可採埋蔵量との境界面は徐々に下に押し下げられる。石油の可採年数(R/P)が30年から40年というのは,全可採埋蔵量を毎年の生産量で割った値であるが,後述するように,埋蔵量と資源量の境界も下がって行くので,可採年数自体の変動は急激ではない。
 石油会社では,この埋蔵量カテゴリーから生産し出荷した原油を,次に述べる資源量から,新規埋蔵量の発見という形で「置き換え(Replacement)」,在庫の維持を図る。つまり,通常100%を超えていなくてはならない訳だが,年によって新規発見が少なく100%を大きく割り込むこともある。この「置き換え値」がある意味で,石油会社の成績表である。
 学生時代,「石油はあと30年」と聞いていたが,30年経ってみたら,何とあと40年と言っている,増えているじゃないか,一体どうなっているのか,とはよく受ける質問である。これは石油の可採埋蔵量をその年の生産量で割った年数が30年〜40年なのを,究極可採埋蔵量から割った年数と取り違えたものであるが,可採年数というのは「在庫」が維持される期間ですよ,と説明すると疑問は氷解する。
 但しこれは,現在の知識,知見で回収可能とみられるものに限定された量であり,油田開発の進展による可採埋蔵量の積み上げ,技術革新によるコストダウン,インフラ整備の効果等によるアップサイドの影響は除外されている。これらは広義の埋蔵量成長といわれるが,往々にしてこれが等閑視されたまま議論されることがある。

(3)資源量あるいは究極可採埋蔵量(Resources)

 更に下位が資源量(Resources)で,今後発見されると期待される量を示している(厳密には,資源量は既生産量と確認可採埋蔵量までを含む)。これは,探鉱活動と周辺環境の変化,即ち4つの稜線で示す各要素(探鉱投資,インフラ整備,価格/財務条件の改善,技術革新等による回収率の増大)により,可採埋蔵量へと転化して行くもので,可採埋蔵量と資源量の境界は徐々に下に押し下げられて行く。この量は,新規発見と既往油田における「埋蔵量成長」で,現在は生産量にほぼ等しく,年間約300億バレルである。同時に,資源量の裾野の部分もより下位へと拡大して行く。これから発見されるであろう未発見埋蔵量は0.7兆バレル,埋蔵量成長分が0.7兆バレルと推定されている。即ち,資源量という豊富な予備軍が控えており,埋蔵量は生産して減量する一方,資源量から供給される。

(5)実際の究極資源量評価は増加傾向

 図3は,1942年以来の世界の究極可採資源量評価の変遷をプロットしたものである。

図3 世界の資源量評価値の推移
図3 世界の資源量評価値の推移
2000年時点で最も高い評価を与えたのが米国地質調査所(USGS)の3兆バレル,直近の悲観的な評価として,資源悲観論に立つキャンベルら(1998)が,2000年代後半にもピークオイルが来ることの根拠にした1.8兆バレルという埋蔵量推定がある。
 しかし,全体の傾向は増加基調にあり,実際の産業の動向を反映したものと言える。キャンベルら(1998) の推定した1.8兆バレルという究極資源量の評価は,近年では最も低い値であり,全体の傾向に比べると非常に悲観的なものと言える(CGES, 2001) 。

6.埋蔵量3兆バレルでの生産予測(EIA)

 図4は,米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA, Energy Information Administration)のJay Hakesが,2000年4月のAAPGで行った講演 “Long Term World Oil Supply”において示した将来の石油の生産予測である。

図4 3兆バレルを前提とした生産予測
図4 3兆バレルを前提とした生産予測
この前提となる究極可採資源量は,同年米国地質調査所(USGS)が発表した3兆バレルである。
 これはあくまで毎年2%で需要が伸び,且つ円滑な供給がなされた場合を想定した生産予測で,世界の石油可採年数(R/P)が10年を切る2037年で,世界的な危機意識が高まり,R/P=10年を維持するために,消費量の制限が行われ,需要の急速な減退を見せるというシナリオである。今ひとつの円滑化されたカーブは,ほぼ類似のシナリオながら,2030年にピークを打ち,それ以降は年率5%で減退するというものである。
 世界の石油資源量を3兆バレルとした米国地質調査所(USGS)の評価は,いわゆる資源楽観論の代表的なもので,IEA,EIAはじめ多くの公的機関が採用している見解であり,各国政府もこれをほぼ前提とした政策を立案しているものと解されている。
 しかし,このような楽観論をもってしても,ピークオイルは高々30年程度延期されるに過ぎない。そして,この30年は,人類にとって持続的なエネルギー源を確保するための猶予期間と認識しておくべきであろう。
 

7.石油のあるうちに石油投資と新エネルギー開発の推進を

 人類は火を使用するようになって以来,再生可能なエネルギー資源を細々と使い続けて生きて来た。つまり,その消費するエネルギーの量は,年々降り注ぐ太陽エネルギーの範囲内に限定されていた訳である。ところが,18世紀後半の産業革命以来,まずは石炭から化石燃料を使い始め,19世紀後半からは更に便利な石油も加わった。そして20世紀半ばに中東で豊富な石油の埋蔵量が見つかると,世界的に石油の大量消費の時代に入った。エネルギー的に見ると,その年の太陽エネルギーから人類が使える総量を遥かに超えた,長期間の太陽エネルギーが蓄積された化石燃料というものを一時に使用できる状況が生まれた訳で,まるで月々の収入の範囲内でつつましく生活を送って来たサラリーマンが,ある時宝くじに当たって急に派手な生活を始めたようなものである。
 宝くじに当たればさぞラッキーであろう。そして21世紀の私たちも,古代や中世の人々よりも遥かに幸福な生活を送っているのだという事実を認識せねばなるまい。この分不相応な幸福は,エネルギー収支から言っていつまでも続けられる筈がない。化石燃料は量に限界があり,再生不可能な資源である。いつまでも浮かれていないで,そろそろ自分の貯金通帳とにらめっこする時期が来ているようだ(この道徳的なご宣託については,ピークオイル論者の意見は正しい)。
 当面着手すべきは,燃料の天然ガス転換を進め,特に天然ガス発電を推進すること,省エネ技術を普及させ,エネルギー消費の無駄を省き,将来的な石油需要の伸びを抑えることであろう。特に後者の指標である「原油原単位」(=原油消費量/実質国内総生産)は,1990年の米国を100としたもので,当時既に日本は42,2003年時点で米国が81と改善しているが,日本は更に改善が進み35となった。中国に至っては,2003年時点で174と石油ガブ飲み経済である。日本発の省エネ技術が世界的に普及する日が期待される。
 太陽電池,風力発電などは,その時受け取る太陽エネルギーの範囲の量なのだから,化石燃料の持つ効率には遥かに及ばない。今後は,原子力を含めた新規のエネルギー開発に努力を傾注する必要がある。石油はすぐにはなくならない。時間が十分にあるとは言えないが,石油が安定的に消費できる間に,今まで以上に石油の探鉱・開発への投資と技術開発の努力を傾注するとともに,省エネルギーの推進と新エネルギーの技術開発へ向けて,更なる努力を振り向ける必要がある。


参考文献

(1)EIA(2004), International Energy Outlook 2004, 244p.Hubbert, King M. (1956): "Nuclear energy and the fossil  fuels", Shell Development Company Publication 95, 40 p.

(2)IEA (2004), World Energy Outlook 2004.

(3)USGS (2000):" U.S. Geological Survey World Petroleum assessment 2000-Description and Results" USGS Digital Data Series DDS-60, Multi Disc Set Version 1.0 2000.

(4)BP (2004), BP Statistical Review of World Energy 2004

(5)Campbell & Laherrere (1998): "The End of Cheap Oil", Scientific American, March 1998, p.78-83.

(6)Campbell(2005):http://www.asponews.org/

(7)CGES(2001):“Global Oil Report”, CGES v.12, n.1, Jan.-Feb.2001.

(8)EIA(2003), Long Term World Oil Supply, AAPG Presentation.

(9)井上正澄(2004),「 石油資源の将来」,石油技術協会誌,2004,v.6

(10)McCabe, Peter J. (1998): "Energy Resources - Cornucopia or Empty Barrel?", AAPG Bull. v. 82, n.11, p.2110-2134.

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