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持続的大量供給とエネルギーセキュリティが可能
原子力で水素を生産するメリットは何か。1つは持続的大量供給が可能ということです。原子力そのものの大量供給性は,特に再生可能エネルギーに比べると大きな特徴です。
もう1つは炭酸ガス排出の抑制が可能ということで,ほとんどゼロにできます。
もう1つ,これはエネルギーセキュリティが可能ということです。日本の場合,60%近くを占めている非電力エネルギーを原子力が供給することによってエネルギーセキュリティに貢献できます。
図2はIAEAの人が描いた絵ですが,20世紀と21世紀と原子力がどういうふうに使われていくか,電気と水素を天秤にかけています。20世紀はほとんど発電だけに使われていた。21世紀はもっとバランスした需要がある。図2ではバスケットの大きさが水素の方が電気よりもずっと大きい,潜在需要としては水素の需要は電力と同程度か,あるいは多くなると見ている人もいます。

図2 発電と水素生産がバランスする21世紀の原子力利用
世界全体の1次エネルギー利用の状況を見ますと,電力に使っている1次エネルギーの割合は30%。残りは輸送が15%で,熱が55%です。つまり,輸送と熱の分野に原子力が水素を介してエネルギーを供給していくことによって地球環境や資源の保存に貢献できるわけです。
水素生産の方法
水素を作るのにどんな方法が実際にあるか。現在は,天然ガス,石油,石炭などからの直接生産(60%),他の化学プロセスの副産物(36%),水の電気分解(4%)であります。原子力を用いる方法としては,以下の方法があります(図3)(表2)。

図3 原子力と電気・水素
表2 原子力による水素生産の方法
| エネルギー形態 |
使用原料 |
水素製造方法 |
原子炉型(例) |
| 電気 |
水 |
電気分解 |
軽水炉 |
| 電気+熱(高温) |
水 |
高温電気分解 |
高温ガス炉 |
| 熱(高温) |
水 |
熱化学分解 |
高温ガス炉
高温液体金属炉 |
| 熱(高温) |
化石燃料+水 |
水蒸気改質 |
高温ガス炉 |
| 熱(中温) |
化石燃料+水 |
水蒸気改質 |
ナトリウム冷却炉 |
| 熱(高温) |
化石燃料 |
熱分解 |
高温液体金属炉 |
| 放射線 |
水 |
放射線分解 |
放射性廃棄物 |
(1) 水の電気分解
原子力で発電して水を電気分解し水素を得るのが一番簡単な方法です。当面は軽水炉(LWR)を使っていく。将来もっと効率のいい炉があれば,それを使えばよい。この場合は,軽水炉の発電効率の32〜33%,水の一番簡単なアルカリ水電解の効率80%を合わせると,原子炉発熱量に対する水素の熱量は25%ぐらいになります。
(2) 水の高温電気分解
電気分解の時に一部高温の熱を加えることによって,少し効率を上げることができます。これを高温電気分解,ホット・エレクトロシスと言っています。
(3) 水の熱化学分解
水を熱化学分解して水素を作る方法です。この方法については後で説明しますが,高温ガス炉,あるいは高温液体金属炉(鉛ビスマス)で行うことが考えられています。
(4) 水蒸気改質(共生法)
化石燃料に水蒸気をかけて水蒸気改質反応を行わせて水素を作る方法です。現在,その熱は化石燃料を燃やして得ているのですが,これを原子力で与えることで30%程度の化石燃料が節約でき,その分だけ二酸化炭素(CO2)の発生が少なくなります。原研は熱化学法とこの方法の両方の研究開発を行っています。
最近,中温の400℃〜600℃の熱で水蒸気改質を行わせる方法が幾つか考えられています。これが実用化されると大体600℃ぐらいまでのナトリウム冷却材温度の熱が使えるようになります。
(5) 燃料電池と組み合わせる
水素と電気は一緒にしてハイドロシティ“Hydrocity”と言われます。電気分解と燃料電池を使えば,両者の変換効率が非常に高いので,電力負荷平準化が可能になります。一旦電気にしたものをまた水素にして,実際に使う時に燃料電池で電気にするのはもったいない気がしますが,現実的にはかなり楽で手っ取り早い方法だと思います。
(6) 化石燃料の熱分解
その他では,例えば化石燃料,天然ガスを完全に炭素と水素に分けてしまう方法があります。要するに単純な熱分解です。この場合は,そこにある水素しか使えませんので,水素の発生量としては水蒸気改質による方法の半分になりますが,出てきた炭素は固体ですので処理の点などで楽な方法です。これには,高温液体金属を使う方法が考えられています。
(7) 放射線による水の分解
放射線による水の分解があります。例えば,電力中央研究所では放射線の機能触媒を使い,ちょうど光で水を分解して水素をつくると同じように,水素を作ることに取り組んでいます。この場合,原子炉の中の放射線量はエネルギー的に限られているので,当面は放射性廃棄物を使っていくことが考えられます。
電気分解水素生産−コストと効率
水の電気分解は,値段的にかなり高いことが課題です。例えば,米エネルギー省(DOE)の評価ですと,5.5円/kWhの電気を使うと,熱量当りでガソリンの4倍ぐらいのコストになります。もし安い原子力発電の電気があれば,化石燃料起源の水素より安くなる可能性はあります。少し古いデータですが,例えばフランス電力公社(EDF)による解析(図4)では,化石燃料起源の水素に対して,原子力発電起源の水素は同じ程度かやや安めとなっています。しかし,一般的にまだコストが高いと言えます。

図4 水素のコスト比較

図5 水素生産効率と蒸気温度
電気分解の効率ですが,高温水蒸気電解(SOSE)では固体酸化物の電解質を使うので高温化が可能で効率が上がります(図5)。例えば,900℃の場合,電気分解だけですと40数%ですが,高温水蒸気電解では50%以上になります。熱化学法の当面の目標を55%に設定して研究開発を行っていますので,高温水蒸気電気分解は効率的にはかなりいい方法と言えます。

図6 高温水蒸気電気分解のプロセス例
図6はアメリカのアイダホ国立研究所で検討されているものです。高温ガス炉により,ガスタービンで発電します。原子炉熱の一部を使って蒸気発生器で高温水蒸気を作り,SOSEに電気と水蒸気を送って水素を製造する方法です。この場合の温度は850℃です。これくらいの温度から,この方法のメリットが出てきます。
熱化学法による水素生産
本命の熱化学法は,原子炉の熱を直接使って水素を生産するので,理想的であり,究極的な方法と言えます。効率は55%ぐらいを狙っています。効率は原子炉の発熱量に対してできた水素が持っている熱量の比率です。
理論的に,2,500℃以上では水は水素と酸素に分かれます。実用的には幾つかの化学反応と組み合わせたサイクルで,1,000℃以下の温度で水を分解します。今有力視されている方法は,UT-3法とIS法です。これは750℃?800℃以上の温度で可能になります。現在,原研が高温ガス炉と組み合わせるIS法を開発中です。アメリカでは高温液体金属炉と熱化学法を組み合わせる研究などが原子力エネルギー研究イニシアチブ(NERI)プロジェクトの一環として2000年から開発が行われています。
熱化学法プロセスに関する研究は,第1次石油危機の頃をピークに多く行われました。その後,エネルギー,石油の供給安定化とともに下火になりましたが,今また多くなってきています。これまで,熱化学法プロセスについて100以上のサイクルが提案され,その中から本当に使えそうなものとして,UT-3法とIS法が選ばれ,その改良が行われています。
[IS法]
原研が一番進んでおり,世界的に最も本命視されているプロセスです。単純化して説明しますと,図7のように,硫酸の分解サイクルとヨウ化水素の分解サイクルがあります。硫酸の分解のときに800℃〜1,000℃の高熱を与えて,酸素を発生させます。2つのサイクルが一緒になったブンゼン反応で100℃くらいの熱を放出します。そしてヨウ化水素(Hl)のサイクルで,ヨウ化水素の分解させて水素を出すという仕組みです。
実際には材料などいろいろな課題があって,このプロセスはまだ開発途上です。

図7 IS法プロセスの例
[UT-3法]
これは東京大学工学部の吉田邦夫教授が開発したもので“University of Tokyo,Number3”というプロセスです(表3)。カルシウム(Ca)と鉄(Fe)と臭素(Br)の加合物で,4つの反応を行わせるという構成です。これは固体とガスの反応です。
表3 UT-3 プロセス

この4つの反応を行わせることによって水から水素を作っていくわけです。
UT-3プロセスを原子炉と組み合わせたのは図8です。UT-3の固体と気体の反応は4つの固体床をバルブの切り換えで行わせます。この場合は,入口温度が760℃ですから,IS法の850?900℃よりも100℃ぐらい低い温度でプロセスが成立します。その点で魅力があるものと考えられます。この方法についても現在改良案が出ています。例えば,アルゴンヌ国立研究所は,HBrの分解にプラズマを使う方法を提案しています。

図8 UT-3法の設計イメージ
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