季報 エネルギー総合工学 Vol25 No.3(2002. 10) > 原子力の水素生産への利用

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堀 雅夫 氏〔講演〕
原子力の水素生産への利用

  堀 雅夫
    (原子力システム研究懇話会/原子力水素研究会・代表)
〔略歴〕
 1955年慶応義塾大学工学部卒業。1957年東京大学大学院化学工学修士課程修了。1957年日本原子力研究所。ブルックヘブン研究所。1969年動力炉核燃料開発事業団(現核燃料サイクル開発事業団),大洗工学センター所長,理事。1998年から原子力システム研究懇話会。2001年原子力水素研究会を設立・代表。


はじめに

復活した原子力による水素生産研究 

 原子力の水素生産への利用について最近の状況をお話しいたします。

 原子力による水素生産が考えられたのは大分前のことです。最初,1970年頃に1次エネルギーとして主に原子力と再生可能エネルギーを使った水素生産が考えられていました。その頃の原子力利用のプロジェクトとして,1973年から80年に日本では原子力製鉄のプロジェクトがあり,この中で原子力で水素を作るプロセスが検討されました。また,西ドイツでは,原子力で天然ガスを水蒸気改質して原子力を化学エネルギーに変え,それを輸送するNFEプロジェクトがありました。その後,日本では日本原子力研究所(原研)の高温ガス炉利用の現在のプロジェクトへとつながっていますし,ドイツもしばらくの間はこの関係の研究を続けていました。

 1999年5月に,国際原子力機関(IAEA)がそれまでの原子力による水素生産のいろいろな研究をまとめた調査報告書“Hydrogen as an energy carrier and its production by nuclear power”を作りました。このころから別な意味で,原子力による水素生産が考えられるようになりました。それまでどちらかというと技術,シード面から見た水素製造だったのですが,今度はニーズ面から水素生産の必要性,原子力による生産の必要性が出てきました。特に地球環境問題との関係で,この頃からまた世界各国で研究が盛んになりました。

 2000年10月に経済開発協力機構/原子力局(OECD/NEA)が初めて原子力による水素生産“Nuclear Production of Hydrogen”の情報交換会議を開催しました。この会議には,10カ国から40人が集まり,原子力水素生産の関係のいろんな側面について検討しています。

 日本では原研が高温ガス炉利用の水素製造研究開発を継続しており,現在では実績的にも世界のナンバー1です。1年半ほど前に,私が代表を務めている原子力水素研究会ができ技術検討を始めました。

 アメリカでもその頃からいろいろ研究が行われています。今年1月には“FreedomCAR”というプロジェクトが始まりました。これは,アメリカ政府と三大自動車メーカー(ゼネラルモーターズ,フォード,ダイムラー・クライスラー)との共同プロジェクトで,2010年までに水素の燃料電池車の技術開発を積極的に行っていこうというプロジェクトです。

 これらの水素利用の進展もあって,3月には「エネルギーセキュリティ法案」の中に,高温原子炉による水素生産研究を国立研究所で実施するという文面が追加されております。

 また,アメリカの民間研究所もいろいろ研究しています。例えば,今年5月,核融合と高温ガス炉の両方を研究しているゼネラルアトミックス社が原子力水素のワークショップを1カ月ぐらいの予告期間で開きましたが,60人ぐらいが集まって討議するほどまでに盛り上がってきております。

 フランスでは,水素製造として高温ガス炉での熱化学法に関心を示しています。特に原子力庁(CEA)がこれに積極的に取り組んでいます。CEA自身は原子力と関係なしに燃料電池のプロジェクトをもっていますので,技術的素地ができているわけです。

 国際的には,第4世代原子炉開発のロードマップを作成中でその中に各炉型を串刺ししたようなクロスカットグループというのがあります。その中にエナジー製品クロスカットというのがあります。エネルギー製品とは電力以外の,海水脱塩と熱,それから水素です。今ちょうどR&D計画を審議しているところで,7月中にまとめるという段階にきています。この中で一番のターゲットは,高温ガス炉を使った熱化学法水素生産です。これが今の主流になっています。

 原子力による水素生産には,熱化学法以外にいろんな方法があります。水素製造プロセスには,原子力だけでなく,化学,石油,ガスなどかなり広い範囲の技術分野が関係してきますので,原子力水素研究会ではそういう機関の方から技術評価をして頂いて,6月に「原子力による水素エネルギー」と題する展望・解説書を作りました。

水素に対する需要の高まり −燃料電池車用と石油精製用

 水素に対する需要が今後どうなるのか,最近の状況を申し上げます。

 まず1つは燃料電池車用です。日本でもこの7月にトヨタが1年早めて水素の燃料電池車を市販すると発表しています。世界的には,特に2010年以降にかなり増えると見込まれています。

 もう1つは石油精製用です。水素は石油精製の原料として使われてきました。ところが,特にアメリカで中東からの軽質油の輸入を減らすために,アメリカ大陸の重質油を使う必要が出てくると予想されています。重質油は炭素分がより多いので,そこに水素を添加して軽質化したり,また脱硫する必要が出てきます。そのための水素の需要が,2010年までに約4倍に増加するという予想で,アメリカでは燃料電池用需要よりもむしろ石油精製用の需要が先に出てくると思われています。

[燃料電池車用]

 燃料電池の実用化戦略研究会の報告(表1)によりますと,日本では,移動用の燃料電池用,定置用の燃料電池用,水素発電,あるいはパソコン用電源など小さいものも含めて2010年で73.4億Nm3/年の容量規模が見込まれ,それが2020年に391億Nm3/年と想定されます。燃料電池車も5万台から500万台に増えまして,さらに2030年には1,000万台という予測が出ています。水素需要はこのように増えてくる。供給サイドを見てみますと,再生可能エネルギー起源の水素は非常に少ないです。2010年に0.4億Nm3/年,2020年になっても4.5億Nm3/年です。この辺に炭酸ガスを出さない特徴を持つ原子力が入り得る余地があるわけです。

表1 日本における水素エネルギー需要の予測

単位:億Nm3
  2010年 2020年
燃料電池自動車 0.4(5万台) 37.5(500万台)
定置用燃料電池 72.7 350
水素発電、その他 0.4 4.6
合計 73.4 391
(再生可能起源水素) (0.4) (4.5)
資源エネルギー庁燃料電池実用化戦略研究会報告(2001.8より)
参考:現在の日本の工業用水素生産量=170億Nm3/年
(この内、市場取引量=2億Nm3/年)

[石油精製用]

 石油精製プロセスの今後の変化を米国の例で見てみます(図1)。過去は軽質油を使って,そのままガソリンにしている。今はこれが重質油に代わりつつあるわけで,そうすると,これに水素を添加してガソリンにしていかなければなりませんから,どうしても水素が必要になってきます。真ん中の近未来フローに見られるように水素は,天然ガス改質で作った水素を加えます。将来はこれを化石燃料起源ではない水素に変えていって,できるだけクリーンにしていく必要があります。ガソリンは使いたいけれども炭素起源以外の水素で展開していきたい。ここで原子力が出てくるわけです。

石油精製用の水素需要
図1 石油精製用の水素需要

[世界の水素生産量]

 IAEA資料によりますと,現在の世界の水素生産量は約500GNm3です。この全部を熱量に換算しますと,最終エネルギー全体の2%ぐらいになります。今はそのぐらいですが,全体のエネルギー消費量が増えていくにつれ,水素の割合も2%ぐらいが20%とかの1桁以上大きい割合になると想定されるわけです。



原子力による水素生産

持続的大量供給とエネルギーセキュリティが可能

 原子力で水素を生産するメリットは何か。1つは持続的大量供給が可能ということです。原子力そのものの大量供給性は,特に再生可能エネルギーに比べると大きな特徴です。

 もう1つは炭酸ガス排出の抑制が可能ということで,ほとんどゼロにできます。

 もう1つ,これはエネルギーセキュリティが可能ということです。日本の場合,60%近くを占めている非電力エネルギーを原子力が供給することによってエネルギーセキュリティに貢献できます。

 図2はIAEAの人が描いた絵ですが,20世紀と21世紀と原子力がどういうふうに使われていくか,電気と水素を天秤にかけています。20世紀はほとんど発電だけに使われていた。21世紀はもっとバランスした需要がある。図2ではバスケットの大きさが水素の方が電気よりもずっと大きい,潜在需要としては水素の需要は電力と同程度か,あるいは多くなると見ている人もいます。

発電と水素生産がバランスする21世紀の原子力利用
図2 発電と水素生産がバランスする21世紀の原子力利用

 世界全体の1次エネルギー利用の状況を見ますと,電力に使っている1次エネルギーの割合は30%。残りは輸送が15%で,熱が55%です。つまり,輸送と熱の分野に原子力が水素を介してエネルギーを供給していくことによって地球環境や資源の保存に貢献できるわけです。

水素生産の方法

 水素を作るのにどんな方法が実際にあるか。現在は,天然ガス,石油,石炭などからの直接生産(60%),他の化学プロセスの副産物(36%),水の電気分解(4%)であります。原子力を用いる方法としては,以下の方法があります(図3)(表2)。

原子力と電気・水素

図3 原子力と電気・水素

表2 原子力による水素生産の方法

エネルギー形態 使用原料 水素製造方法 原子炉型(例)
電気 電気分解 軽水炉
電気+熱(高温) 高温電気分解 高温ガス炉
熱(高温) 熱化学分解 高温ガス炉
高温液体金属炉
熱(高温) 化石燃料+水 水蒸気改質 高温ガス炉
熱(中温) 化石燃料+水 水蒸気改質 ナトリウム冷却炉
熱(高温) 化石燃料 熱分解 高温液体金属炉
放射線 放射線分解 放射性廃棄物

(1) 水の電気分解

 原子力で発電して水を電気分解し水素を得るのが一番簡単な方法です。当面は軽水炉(LWR)を使っていく。将来もっと効率のいい炉があれば,それを使えばよい。この場合は,軽水炉の発電効率の32〜33%,水の一番簡単なアルカリ水電解の効率80%を合わせると,原子炉発熱量に対する水素の熱量は25%ぐらいになります。

(2) 水の高温電気分解

 電気分解の時に一部高温の熱を加えることによって,少し効率を上げることができます。これを高温電気分解,ホット・エレクトロシスと言っています。

(3) 水の熱化学分解

 水を熱化学分解して水素を作る方法です。この方法については後で説明しますが,高温ガス炉,あるいは高温液体金属炉(鉛ビスマス)で行うことが考えられています。

(4) 水蒸気改質(共生法)

 化石燃料に水蒸気をかけて水蒸気改質反応を行わせて水素を作る方法です。現在,その熱は化石燃料を燃やして得ているのですが,これを原子力で与えることで30%程度の化石燃料が節約でき,その分だけ二酸化炭素(CO2)の発生が少なくなります。原研は熱化学法とこの方法の両方の研究開発を行っています。

 最近,中温の400℃〜600℃の熱で水蒸気改質を行わせる方法が幾つか考えられています。これが実用化されると大体600℃ぐらいまでのナトリウム冷却材温度の熱が使えるようになります。

(5) 燃料電池と組み合わせる

 水素と電気は一緒にしてハイドロシティ“Hydrocity”と言われます。電気分解と燃料電池を使えば,両者の変換効率が非常に高いので,電力負荷平準化が可能になります。一旦電気にしたものをまた水素にして,実際に使う時に燃料電池で電気にするのはもったいない気がしますが,現実的にはかなり楽で手っ取り早い方法だと思います。

(6) 化石燃料の熱分解

 その他では,例えば化石燃料,天然ガスを完全に炭素と水素に分けてしまう方法があります。要するに単純な熱分解です。この場合は,そこにある水素しか使えませんので,水素の発生量としては水蒸気改質による方法の半分になりますが,出てきた炭素は固体ですので処理の点などで楽な方法です。これには,高温液体金属を使う方法が考えられています。

(7) 放射線による水の分解

 放射線による水の分解があります。例えば,電力中央研究所では放射線の機能触媒を使い,ちょうど光で水を分解して水素をつくると同じように,水素を作ることに取り組んでいます。この場合,原子炉の中の放射線量はエネルギー的に限られているので,当面は放射性廃棄物を使っていくことが考えられます。

電気分解水素生産−コストと効率

 水の電気分解は,値段的にかなり高いことが課題です。例えば,米エネルギー省(DOE)の評価ですと,5.5円/kWhの電気を使うと,熱量当りでガソリンの4倍ぐらいのコストになります。もし安い原子力発電の電気があれば,化石燃料起源の水素より安くなる可能性はあります。少し古いデータですが,例えばフランス電力公社(EDF)による解析(図4)では,化石燃料起源の水素に対して,原子力発電起源の水素は同じ程度かやや安めとなっています。しかし,一般的にまだコストが高いと言えます。

水素のコスト比較
図4 水素のコスト比較

水素生産効率と蒸気温度
図5 水素生産効率と蒸気温度

 電気分解の効率ですが,高温水蒸気電解(SOSE)では固体酸化物の電解質を使うので高温化が可能で効率が上がります(図5)。例えば,900℃の場合,電気分解だけですと40数%ですが,高温水蒸気電解では50%以上になります。熱化学法の当面の目標を55%に設定して研究開発を行っていますので,高温水蒸気電気分解は効率的にはかなりいい方法と言えます。


(出所:米アイダホ国立研究所)

図6 高温水蒸気電気分解のプロセス例

 図6はアメリカのアイダホ国立研究所で検討されているものです。高温ガス炉により,ガスタービンで発電します。原子炉熱の一部を使って蒸気発生器で高温水蒸気を作り,SOSEに電気と水蒸気を送って水素を製造する方法です。この場合の温度は850℃です。これくらいの温度から,この方法のメリットが出てきます。

熱化学法による水素生産

 本命の熱化学法は,原子炉の熱を直接使って水素を生産するので,理想的であり,究極的な方法と言えます。効率は55%ぐらいを狙っています。効率は原子炉の発熱量に対してできた水素が持っている熱量の比率です。

 理論的に,2,500℃以上では水は水素と酸素に分かれます。実用的には幾つかの化学反応と組み合わせたサイクルで,1,000℃以下の温度で水を分解します。今有力視されている方法は,UT-3法とIS法です。これは750℃?800℃以上の温度で可能になります。現在,原研が高温ガス炉と組み合わせるIS法を開発中です。アメリカでは高温液体金属炉と熱化学法を組み合わせる研究などが原子力エネルギー研究イニシアチブ(NERI)プロジェクトの一環として2000年から開発が行われています。

 熱化学法プロセスに関する研究は,第1次石油危機の頃をピークに多く行われました。その後,エネルギー,石油の供給安定化とともに下火になりましたが,今また多くなってきています。これまで,熱化学法プロセスについて100以上のサイクルが提案され,その中から本当に使えそうなものとして,UT-3法とIS法が選ばれ,その改良が行われています。

[IS法]

 原研が一番進んでおり,世界的に最も本命視されているプロセスです。単純化して説明しますと,図7のように,硫酸の分解サイクルとヨウ化水素の分解サイクルがあります。硫酸の分解のときに800℃〜1,000℃の高熱を与えて,酸素を発生させます。2つのサイクルが一緒になったブンゼン反応で100℃くらいの熱を放出します。そしてヨウ化水素(Hl)のサイクルで,ヨウ化水素の分解させて水素を出すという仕組みです。

 実際には材料などいろいろな課題があって,このプロセスはまだ開発途上です。

IS法プロセスの例

(出所:オークリッジ国立研究所)

図7 IS法プロセスの例

[UT-3法]

 これは東京大学工学部の吉田邦夫教授が開発したもので“University of Tokyo,Number3”というプロセスです(表3)。カルシウム(Ca)と鉄(Fe)と臭素(Br)の加合物で,4つの反応を行わせるという構成です。これは固体とガスの反応です。

表3 UT-3 プロセス

UT-3 プロセス

 この4つの反応を行わせることによって水から水素を作っていくわけです。

 UT-3プロセスを原子炉と組み合わせたのは図8です。UT-3の固体と気体の反応は4つの固体床をバルブの切り換えで行わせます。この場合は,入口温度が760℃ですから,IS法の850?900℃よりも100℃ぐらい低い温度でプロセスが成立します。その点で魅力があるものと考えられます。この方法についても現在改良案が出ています。例えば,アルゴンヌ国立研究所は,HBrの分解にプラズマを使う方法を提案しています。


(出所:ジェネラル・アトミックス)

図8 UT-3法の設計イメージ


化石燃料 & 原子力による水素水蒸気改質法

 化石燃料の水蒸気改質反応に原子炉から熱を与える方法です(表4)。改質反応はこの場合,メタンに水を加えてCOと3倍の水素が出てくる。そしてシフト反応でCOに水を加えて水素と炭酸ガスにする。この2つの反応を行わせると1モルのメタンから4モルの水素が出てくる。この反応では,合計165KJ/molの吸熱反応になる。この熱を原子炉から供給するわけです。

表4 共生法の反応式

共生法の反応式

 表4の反応の吸熱量をメタンの燃焼で供給すると,メタンの必要量は理論的には18%,実際は30%程度増加します。その分の熱を原子力で与えるわけですから,化石燃料の節減量は30%ぐらいだと思います。それだけCO2の発生も少なくなるということです。この方法は普通,750℃〜900℃の高温で行いますけれども,ナトリウム冷却炉の温度である400℃〜600℃ぐらいが使える方法の開発が進められています。

水蒸気改質法における化学反応の平衡組成
図9 水蒸気改質法における化学反応の平衡組成

 図9は今の反応の平衡組成です。750℃以上になると反応が水素生成の方へ動きます。もっと低い温度では水素の組成が小さくなります。低い温度で水素発生へ進ませるには,できてくる反応生成物を取ってしまえばいいのです。COとCO2を吸収してしまう。あるいは,反応域で水素を吸収する。そうすれば反応は低い温度でも水素生成の方へ動くことになります。その原理を使うのが中温の水蒸気改質法です。

[中温の水素水蒸気改質プラント]


図10 エアロプロダクツ社のSER実験ユニット

 図10はSER法による中温の水蒸気改質プラントです。これは,DOEの委託でエア・プロダクツ・アンド・ケミカルズという水蒸気改質の大手プラントメーカーが開発しています。反応域に炭酸ガスを吸収するハイドロタルサイトを置き,できてくる炭酸ガスを吸収します。それはまた脱着する必要があるので2つの塔を切り換える操作が必要です。この方法は400℃?500℃ぐらいでできます。

[合金膜分離による水素分離方法]

 図11は三菱重工業(株)と東京ガス(株)が,町中の水素ステーション用に開発した方法です。これは,成形触媒が詰まった反応域にメタンと水が入り,CO2は透過せず水素を良く透過するパラジウム合金膜で水素を分離します。これによって,低い温度でも反応が進みます。今行っている試験では熱は都市ガスで供給しています。この熱を原子炉から供給すればどうかという話です。


火炉直径 470mm
外筒高さ 970mm
外筒直径 630mm
成形触媒形状 40×5×470mm
成形触媒枚数 96枚
Pb合金膜厚さ 20μm
平板型水素分離膜形状 40×11×470mm
平板型水素分離膜本数 96本

(b) メンブレンリアクタ各部の寸法

図11 メンブレンリアクタ構造概念と試験中ユニットの外観

 図11右下には東京ガス(株)でテストしている水素ステーション用のメンブレン型水素製造ユニットの外観も示しましたが,非常にコンパクトです。今までの水蒸気改質法は改質器,シフト反応器,さらにプレッシャースイング(PSA)という水素を脱着させるところがありましたが,それをパラジウムのメンブレンリフォーマー1本でできるのでコンパクトになったのです。既に数千時間テストしていまして,膜を通して水素を得るので非常に純度の高いファイブ・ナイン(99.999%)の水素ができ,そのまま燃料電池車に供給できるというタイプです。

高速炉とメンブレンリフォーマー(FR-MR)を組み合わせたシステム
図12 高速炉とメンブレンリフォーマー(FR-MR)を組み合わせたシステム

 図12は,この原理を応用したプラントです。三菱重工業と東京ガスが共同で設計し,昨年11月のANS(American Nuclear Society)冬季会合で発表したものです。この場合は,ナトリウム冷却の高速炉を使い,最高565℃の温度のメンブレンリフォーマーに天然ガス(メタン),水蒸気を入れ,メンブレンから水素を採っていく方法です。

 この方法のもう1つの鍵は,普通はワンススルーで捨ててしまう反応生成物の炭酸ガスなどをリサイクルしているところです。メンブレンリフォーマーの出口で必ずしも100%の水素を採る必要がなくなってくるので,リフォーマーの管の拡散に必要な面積が小さくできること。それから,窒素が混じった燃焼後の状態からのCO2分離ではないので,分離プロセスがより楽になるわけです。また,将来必要があれば分離後のCO2を処分できます。

 例えば,熱量240MWtという非常に小さなプラントでも,1基で燃料電池車180万台分の燃料が供給できます。要するに,原子炉は脇役で熱だけを供給します。その熱量は天然ガスの熱量の20%程度ですが,それによって炭酸ガスの排出を抑制する特徴を持ちます。原子力プラントと化学プラントが複合したプラントになりますので,原子力を地下立地で地上に水素プラントを置くという図も描けます。

FR-MRシステムの経済性評価
図13 FR-MRシステムの経済性評価

 このプラントでのコストを推定したものが図13です。横軸に天然ガスの値段を取り,縦軸に水素の値段を取りますと,濃い斜線の部分(C.SMR)が従来の化石燃料水蒸気改質法による値段で,薄い網掛けの部分(FR-MR)が高速炉を使用した水蒸気改質法の値段です。下の線(▲?▲)は,さらに将来の技術改良によるコストダウン(20%)を考えた値段です。いずれも多数機導入ケース(NOAK)で計算しています。この図では天然ガスの値段が30円近辺でクロスしており,天然ガスの値段が高ければ高いほど原子力を使用する方法が有利になってくることを示しています。

 以上の原子力による水素生産方法を総括すると,原料は水か化石燃料,原子力のエネルギーは電気か熱(高温または中温),方法は電気分解か熱化学分解か水蒸気改質となり,これらの方法の技術の現状,生産効率,コストなどを表5にまとめました。

表5 主な原子力水素生産方法

使用原料 供給原子力エネルギー 水素製造方法 組み合わせ
技術の現状
効率(コスト*4
エネルギー 発電効率
温度レベル*1
電気 30%〜50%
[発電効率]
電気分解法 アルカリ水 実用 25〜45%*2
(2.5)
固体高分子 実証
固体酸化物 研究
高温
(高温ガス炉)
(高温LM炉)
熱化学法 I-S法 研究 約50%*2
(1.5)
UT-3法 研究
化石燃料水 水蒸気改質法 高温法 開発 17%*3
(0.9)
中温
(Na高速炉)
SER法 開発
膜分離法 開発
*1 高温=800-1000℃、中温=450-600℃
*2 原子炉の発熱量に対する生成した水素の熱量の割合
*3 生成水素熱量の中に占める原子力熱の割合
*4 コストは化石燃料燃焼水蒸気改質法に対する比価格(原研試算)


原子力による水素生産実現への課題

 原子力の水素生産の実用化までにまだかなりの課題があります。以下,いくつかの課題についてお話しします。

(1) 経済性

今一般に使われていて最も安いといわれる化石燃料燃焼水蒸気改質法(天然ガスベース)を1として,高温ガス炉を利用した場合のコストを原研が試算しています。それによりますと,原子力を利用した場合,改質法だけが0.9で競合できますが,熱化学法が1.5,電気分解だと2.5倍のコストになっています。ただ,化石燃料燃焼水蒸気改質法は炭酸ガスが出てくるので,将来の環境影響を考慮して炭酸ガスの処理費用をベースのコストに上乗せしますと,熱化学法が0.7,改質法が0.8,電気分解法が1.1となり,競合できるところに近づいてきます。

(2) 生産規模

 燃料電池戦略研究会が計算した車の燃費のデータをもとに計算すると,100万kWeの原子力発電所で電気分解で水素生産した場合,1基で200万台の燃料電池車に水素を供給できます。2020年に500万台ですので,100万kWeの原子力発電所2.5基で2020年の需要は賄えます。さらにもっと効率のいい熱化学法,あるいは水蒸気改質法を使いますともっと小さな炉でできる。逆に言うと,水素を配るインフラができていない場合は小型炉の方が有利ということです。

(3) 持続的大量供給の条件

 今の電力需要を満たすだけでも,世界規模で考えますと高速増殖炉(FBR)による増殖・リサイクルが必要です。今のままのワンススルーでは2070年ぐらいには陸上ウランを使い切る計算になります。世界的なリサイクルへの移行は,熱中性子炉からFBRへのタイムリーな移行によって可能になります。実際にLWRとFBRの核分裂物質のインベントリーが大分違いますので,FBRをどんどん導入する時は燃料である核分裂物質が不足することが考えられます。このつなぎを考えて移行すれば,電力と水素生産のエネルギーの原子力による供給は量的には十分足りることになります。

(4) 生産プラントの安全性

 電気分解法だと需要先,例えば水素ステーションで電気分解すればいいわけです。その場合,それぞれのプラントの安全性の確保ですから既存技術で足ります。問題は,原子炉と化学プラントの複合プラントの場合です。これもプロセスによっていろいろ違いますが,基本的には中間系統を設ける,両系統の直接的な相互作用を回避する,あるいは場所的に配管を長くして離すとかの設計対応が考えられます。この場合も,連結部分を通してエネルギー的,機械的,物質的な相互作用の安全性に与える影響について検討しておく必要があるでしょう。例えば,原子炉でできるトリチウムは配管を通して移行するので,この量について確認しておかなければなりません。

(5) 社会的な受容性

 2001年10月8日のフィナンシャル・タイムス社発行の“Power in Europe”誌で“Nuclear and hydrogen - 21st century dream team or PR disaster?”(「原子力と水素は夢の取り合わせか,それともPRで大失敗か?」)というタイトルで,原子力と水素が結合した場合,ベネフィット,リスク,コストという点では,21世紀のドリームチームだと言っています。しかし,一般大衆にどう受け入れてもらうか,社会的な受容性をこれからどうやっていくかということが重要だと指摘しています。

 元アメリカ原子力学会長アラン・ウォルター氏がまとめた論文にありますが,水素が移動用や定置用の燃料電池の燃料(エネルギーキャリア)として受け入れられるとしても,原子力も受け入れてもらうというと,やはりベネフィット,リスク,コストをきちんと社会に示して理解を得るということ,全関係者による討論決定のプロセスをかなり早い時期からとっていく必要があるということです。

(6) 開発パートナーとなる業界

 開発パートナーとしてはどういう業界が実際に考えられるか。今,研究会にも化学プラントの方,石油の方,ガス会社の方が入っています。こういう複合プラントの場合には,そういう関連業界の方が参加して,実際に協働的,あるいは共生的な取り組みが必要だと思います。また,ユーザー等からのいろんな要望もどんどん受け入れていく必要があると考えます。



おわりに

 最後に,実用化の見通しについてです。我々の研究会でいろいろ議論していること,あるいは実際に研究開発している原研など,他の人からのお話も聞いてまとめたものです。

 現段階では,軽水炉による電解法が技術的に実用レベルにありますので,オフピークの電力が安いとか,原子力発電比率が非常に高いという場合は,実用化が現在でも可能だと思います。

 2010年代までの中期では,高温ガス炉の実用化によって水蒸気改質法と高温水蒸気電解が可能になると思います。もし中温の水蒸気改質反応が実用化できれば,ナトリウム冷却炉の利用も可能になってきます。

 2020年代までの長期では,高温ガス炉と熱化学法の組み合わせが実用化すると期待されます。以上です。(拍手)


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