季報 エネルギー総合工学 Vol24 No.3(2001. 10) > 講演

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icon 季報 エネルギー総合工学 Vol24 No.3(2001. 10)

定方 正毅 氏 〔講演〕

発展途上国における環境問題と化石燃料関連技術

  定方 正毅
   (東京大学大学院 工学系研究科教授)
〔略歴〕
 1967年東京大学工学部化学工学科卒業。1973年東京大学で工学博士取得。同大学で助手,講師経験後,1981年群馬大学助教授,1988年同大教授を歴任,1990年より現職。
 専門は化学工学,燃焼工学,環境工学。最近では,開発途上国を対象とした技術開発に携わる。


はじめに

 今日は,主にアジアの途上国の環境問題と化石燃料関連技術に関してお話しします。
 21世紀における我々人類最大の課題は,やはり南北問題,いわゆる発展途上国の問題と環境問題であろうと考えています。
 図1は,先進国の人と途上国の人が同じ船に乗っていて,嵐がきた時に先進国だけでこれを防ごうとしても結局は,途上国共々一蓮托生で沈んでしまうことを示した絵です。今や地球環境問題1つを考えても,発展途上国の環境問題を無視して地球環境問題の解決は図れないということは明確に言えるのではないかと思います。

ある風刺画家の見た南北問題

図1 ある風刺画家の見た南北問題

 図2は通産省による二酸化炭素(CO2)排出の将来予測です。要するに,途上国からのCO2排出量が2050年には全世界の総発生量の50%を占めるだろうということです。これが最近少し早まりまして,2020年ぐらいにはそうなるだろうと予測されています。発展途上国の環境問題を解決しなければ地球の環境問題は解決不可能であるということがこのグラフからも明らかです。

CO2排出の将来予測

図2 CO2排出の将来予測


途上国の環境問題の現状

酸性雨,水質汚濁,森林破壊,ゴミ問題,砂漠化

 途上国の環境問題の実態について,主に写真でお見せしたいと思います。
 図3は中国の大気汚染です。中国の峨眉山で,酸性雨によってどんどん木が枯れてしまっている状態を示しています。
 図4は,タイのバンコックを流れているメナム川支流です。これは私の友人が撮ったものですが水質汚濁が急速に進んでいます。
 図5は,伐採されてしまったタイのマングローブです。森林破壊が進んでいる状況がうかがえます。
 図6は,フィリピンのスモーキーマウンテンというゴミの山です。この周辺に5,000人近くの人たちが住んでいて,ゴミを拾って生計を立てているということです。
 図7は,アフリカで砂漠化がどんどん進んで,薪を集めるために1日数十キロ歩かなければならないという状況を示しています。村の周りの木をほとんど燃料として使ってしまった結果として,こういう悲劇的な状況が起きているわけです。
 図8は私が撮った写真ですけれども,内モンゴルの砂漠化が進んでいる状況です。境界に植えてあった木が次々と枯れて砂漠が進入してきている様子を示しています。中国では大体1年間に東京都と同じぐらいの面積の砂漠化が進行しているというデータもあります。

中国の酸性雨被害 バンコックの水質汚濁
図3 中国の酸性雨被害 図4 バンコックの水質汚濁
伐採されるマングローブ フィリピンのゴミの山
図5 伐採されるマングローブ 図6 フィリピンのゴミの山
アフリカの砂漠化進行 内モンゴルの砂漠化
図7 アフリカの砂漠化進行 図8 内モンゴルの砂漠化


途上国環境問題の構造

全体像を捉えて究極の解決へ

 発展途上国の環境問題は,やはり構造として理解する必要があるのではないかと思います。大気汚染,水質汚濁の問題を個別にとらえてもなかなか全体像が見えませんし,個別に解決しても環境問題の究極的な解決にはつながらないだろうということで,発展途上国の環境汚染の構造を私なりに考えてみました。
 図9に示しましたが,まず,急速な経済発展によって大気汚染,固体廃棄物汚染,水質汚染が進む。しかし,例えば固体廃棄物の汚染は大気汚染を引き起こし,水汚染も引き起こす。この3つの汚染が実は土壌の汚染を引き起こし,その結果,森林が消失し砂漠化が進行するというふうにとらえることができるのではないかと思うわけです。
 この中でやはり一番大きな問題は土壌汚染だと思います。なぜかと言いますと,土壌は,一旦汚染されますと元に戻すことが非常に難しい。それに比べて大気汚染や固体廃棄物,あるいは水汚染は,発生源で元を断てば,時の経過によって,やがて問題が解決されます。本質的に土壌汚染と大気,水汚染は異なるのではないかと思うわけです。

途上国環境汚染の構造

図9 途上国環境汚染の構造

 図10は有名な足尾銅山の写真です。これも私が実際に撮った写真ですが,長い間の塩害によって周辺が完全にはげ山になってしまっています。現在,ボランティアの人たちが毎年雑草の種をヘリコプターで播いていますが,一向に雑草すら生えてこない状況です。一旦土壌が汚染されるとほとんど回復不可能ということを端的に示しているのではないかと思います。
 これがさらに進みますと,かつて4大文明の地が砂漠化によって文明が亡びてしまったことからもわかるように,現在,地球全体の砂漠化の進行によって,地球文明がやがて亡びる危機にさらされていると言えるのではないかと思います。

雑草も生えない足尾銅山周辺の山

図10 雑草も生えない足尾銅山周辺の山

途上国環境破壊の原因は 貧困,急激な人口増加,共生関係の崩壊

 こういった途上国の環境問題をいろいろ調査することで,発展途上国の環境破壊の原因は何かということがだんだん見えてきます。横断的に途上国の環境破壊の実態,原因を個別に調べると,共通の要因が浮かび上がってくるわけです。
 1番目は貧困,2番目は人口の急激な増加,3番目は共生関係の崩壊です。共生関係とは,この場合,都市と農村と森林の共生関係の崩壊ということです。この3つが環境破壊の原因と見ることができるのではないかと思います。
 1番目の貧困が原因である例として,インド,パキスタンでは化石燃料が高くて買えないため,牛糞,稲藁を燃料として使うわけですが,これが大変な室内汚染を引き起こす。先ほどのアフリカの例にもありますように,貧しい農村で非常に環境汚染が進むわけです。
 2番目の人口増が原因である例として農村で人口増があると燃料として周辺の森林の木をどんどん切る。その結果,森林破壊,砂漠化が急速に進むことになる。あるいはマニラ,バンコックのような大都会のスラム化も急速な人口増が原因であるというふうに見ることができると思います。
 3番目の共生関係の崩壊も環境破壊の大きな原因です。本来なら,都市と農村と森林で共生関係が保たれているわけですが,例えば農村で耕地が貧困化して生産量が低下しますと,当然,人口が都市に集中する。その結果として都市がスラム化して,大量の汚染物質を排出するようになる。それによって周辺の農村が汚染され,ますます耕地の貧困化が進む。こういった1つの汚染サイクルがあります。一方,農村の貧困化によって当然生産量を増やすために耕地を拡大しようとしますから,森林が消失していく。森林が消失すると大雨が降った時に鉄砲水によって農業で非常に重要な表土が流出し,ますます耕地が貧困化するというサイクルがあります。要するに農村と森林,農村と都市の貧困と環境汚染へのサイクル,この2つのサイクルがリンクして環境破壊が進んでいくというメカニズムがあるのではないかと思います。
 図11でもわかるように,共生関係の崩れは農村あるいは農業の貧困化,あるいは農村における人口増が1つのきっかけになって起こります。やはり,農村における環境破壊をいかに防止していくか。あるいは,農村の貧困化をいかに防いで,農村を豊かにしていくかということが,共生関係を復活させる1つの鍵ではないかと思うわけです。

貧困―環境汚染

図11 貧困―環境汚染

豊かになれば解決するか人口問題

 先ほど環境破壊の原因は貧困と人口増ということを言いましが,両者は完全にリンクしています。図12は,横軸が1人当たりの年収,縦軸が女性の妊娠回数ですけれども,1人当たりの年収が増えると妊娠回数が減っていって,やがて2以下になるというのが過去のいろいろな国のデータを集めて平均化した結果です。従って,人口増が原因だと言いましたけれども,1人当たりの年収が増えれば,つまり貧困から脱却していけば,もちろんリードタイムはありますが,人口問題は解決の方向に向くということで,やはり途上国における環境問題を解決するための一番のポイントは,貧困からの脱却といいますか,途上国が経済的に発展することであろうと私は考えるわけです。

平均妊娠回数と1人当り年収

図12 平均妊娠回数と1人当り年収

豊かになれば発生する新たな問題 ―GDP増加で増えるCO2排出量

 それならば,豊かになればすべて解決するかというと,そう単純ではありません。図13は,1975年から95年までのいろいろな国々の1人当たりGDPの伸びと,1人当たりCO2排出量の伸びをベクトルで表したもので,国連統計から私が作成したものです。途上国は一斉にGDPの増加に伴ってCO2及び環境破壊が進んでいくわけです。それと対照的に,ヨーロッパの環境先進国といわれる国々は,1人当たりGDPが1万ドルを超えると一様に減り始めるわけです。そこまで行けばもう環境浄化と経済発展が両立するわけです。
 しかし,インドや中国,バングラデシュがそこまで行くと,1人当たりのCO2排出量が現在の5倍から10倍になります。当然,エネルギー使用量も同じぐらいになります。地球の容量から見てそれは不可能なわけです。先ほど豊かになればいいということを簡単に言いましたが,先進国型の経済発展というのはもう許されないし,不可能ということがこれでわかります。
 従って,唯一途上国が豊かになるには,直接的に豊かな側に行く道しかないだろうというのが私の前々からの主張です。ピークを経ずに直接豊かさの側に行くということで,私はこれを「トンネルルート」と呼んでいます。

GDP変化量とCO2変化量

図13 GDP変化量とCO2変化量

表1 トンネルルート実現の技術と産業

技術 産業
生産型環境技術 環境産業
自然エネルギー利用技術 農業

生産型環境技術と農業技術等でトンネルルートの実現を

 では,このトンネルルートを実現するテクノロジーは何かということになるわけですが,1つは生産型環境技術であろうと思います。なぜわざわざ生産という名前をつけたかといいますと,要するにプロダクティブな環境技術のことです。普通,環境技術というと非常にマイナスの投資になってしまうわけですが,例えば環境汚染の防止装置をつけることによって非常に利益が上がるとか,非常に有効な副生成物が得られるとか,ということになれば経済発展と環境浄化が両立することになるわけです。まさにトンネルルートを実現できる技術になるだろうと思います。
 2番目は,太陽エネルギーを始めとした自然エネルギー,それからCO2を利用する産業技術です。これが望ましいわけです。こういう産業として典型的なのが農業です。ただ,今までのように農村で米や麦を作っているのではだめで,いわゆる天然物を原料とした,付加価値の高いものを生産することができる農村工業という方向が求められていると思います。
 今,日本で構造改革が叫ばれていますけれども,途上国でもやはり従来の重厚長大型,先進国型産業での経済発展は許されません。途上国に適合したトンネルルートを実現する産業というものがあると思います。アジア経済の状況を調べていきますと,結局,農業が経済発展の足を引っ張っているということがよくわかるわけです。そういう意味で農業の新しい形での発展が重要だと思います。
 3番目は環境産業だと思います。環境産業が例えば中国とか,あるいはインドで発展すれば当然それらの国の環境浄化が進みますし,さらにそれが輸出産業になれば当然経済発展にもつながるということで,農業と並んで環境産業の育成が非常に強く求められているのではないかと思います。


事例―中国での環境問題解決への取組み

食糧問題に関連する大気汚染と砂漠化の解決が最重要

 もう少し具体的に途上国の代表格である中国に焦点を絞ってこの問題を考えてみたいと思います。
 中国の環境問題には,大気汚染,水汚染,森林消失,砂漠化などがあります。中でも一番重要な汚染問題は,恐らく大気汚染と砂漠化だと思います。食糧問題に非常に関連しているからです。したがって,私どもの研究室では,大気汚染と砂漠化を重点的に取り上げて研究を進めているわけです。
 中国における砂漠化問題は深刻なのですが,実はその一歩手前であるアルカリ土壌化が砂漠化につながる問題として重要視されています。

砂漠化の手前―アルカリ土壌化問題を脱硫石膏で解決する

 その研究の一環として,脱硫石膏を使った中国ナトリウム土壌(アルカリ土壌)の研究を紹介させていただきたいと思います。これはまさに砂漠化防止と酸性雨対策を同時にやってしまおうというアイデアで始めた仕事です。

内モンゴルのアルカリ土壌

図14 内モンゴルのアルカリ土壌

 図14は内モンゴルで撮ったアルカリ化した土地の写真です。塩類が吹き出して土地が白っぽくなってしまっています。これが典型的なアルカリ土壌です。農学の分野では,アルカリ土壌をナトリウムが地表に集積している土地で,つるはしで叩いても割れないくらい,非常に堅く,水も空気も通らないような土地と定義しています。
 図15は中国全体でどれぐらいのアルカリ土壌があるかを示しています。一応,pH8.5以上をアルカリ土壌とした時に,約140万km2ということですから,日本の面積の大体4倍以上という非常に広大な面積がアルカリ化しているということです。図16は以上述べたアルカリ土壌の構造を示したものです。

中国のアルカリ土壌分布

図15 中国のアルカリ土壌分布

アルカリ土壌の構造

図16 アルカリ土壌の構造

石膏がアルカリ土壌対策に有効

 アルカリ土壌化問題を解決する1つの方法として,カルシウムを表層土壌に混ぜるのが有効であるということは農学分野で前から知られています。カルシウムの中でも特に硫酸カルシウム,つまり石膏が一番有効です。
 石膏を撒きますと,図17に示すように,カルシウムイオンがナトリウムイオンとイオン交換を行い,再びアルカリ土壌のあちこちに亀裂が入り,団粒構造が復活します。

石膏効果のメカニズム

図17 石膏効果のメカニズム

脱硫プロセスからの石膏利用 大気汚染とアルカリ土壌問題の同時解決を

 それでは天然石膏を掘り出して撒けばいいだろうという話になるわけですが,中国では天然石膏がたくさん採れますが,非常に偏在しています。大体,西部の方が多くて,アルカリ土壌が深刻化している東北地方や北京周辺は余りありません。天然石膏を使おうとしますと非常に輸送コストがかかってしまいます。これが原因で石膏がいいことはわかっていたのですが,これまでほとんど使われていませんでした。私たちは石膏が脱硫プロセスから副生成物として排出されることは知っていましたから,脱硫石膏を使うことで,副生成物の有効利用にもなるし,砂漠化の防止にもなるのではないかと考えたわけです。

アルカリ土壌地域周辺の発電所

図18 アルカリ土壌地域周辺の発電所

 図18は中国の発電所の場所を示しています。幸いなことにアルカリ化が非常に深刻化している土地と大略オーバーラップしています。今はほとんど脱硫装置を付けていませんが,そういうところに付けて得られる石膏をアルカリ土壌改良に使えるのではないか。つまり,脱硫石膏を使うことによって大気汚染の問題と砂漠化,つまりアルカリ土壌化の問題を同時に解決できる可能性があるのではないかと考えたわけです。
 早速,小麦の種をまいて実験しました。図19の一番上の結果で明らかなように,一番左側のまったく石膏を混ぜない場合には,発芽すら無いわけです。それに対して,0.5%混ぜただけでアルカリ土壌が改良され小麦がすくすくと育ちました。

脱硫石膏の効果実験

図19 脱硫石膏の効果実験

 次に,実験室の実験では余り説得力がありませんので,中国の実際のアルカリ土壌の所で土壌改良のフィールドテストを試みました。図20は瀋陽から北へ約150kmぐらい行った内モンゴルに近い康平県の実験場です。6年前にテストを始めました。

康平県の試験場

図20 康平県の試験場

 図21は2年前の結果ですが,最初,100m2の実験でやってうまくいきまして,最終的には2haまでスケールアップしました。右側がまったく石膏を撒かない場合,左側が石膏を撒いた場合で,見事に差が出ています。これはトウモロコシですが,周辺のアルカリ化されていない土壌でのトウモロコシと同じぐらいに育っています。

試験場で育つトウモロコシ

図21 試験場で育つトウモロコシ

 図22は中国で実験を手伝って下さっている瀋陽農業大学出身の農業技術者が自主的に行った水田の実験です。アルカリ土壌の所で水田というのはちょっと考えられないのですが,彼は水田を作るために,自分でまず地下水をポンプで汲み上げ,石膏を使って土壌を改良し,田植えをして稲を育てようとしたわけです。その結果,図22のようなすばらしい水田ができたわけです。当然,とうもろこしより米の方が高く売れますので,その方は年収が約4倍になったということです。

アルカリ土壌地域の中の水田

図22 アルカリ土壌地域の中の水田

 脱硫石膏ででどれぐらい土壌改良ができるか。例えば先ほどの北部から東北部にかけての全発電所につけた場合,表2で示すように,そこから出てくる脱硫石膏を使って土壌改良し復活する農地が年間70万ha。これは農民630万人分の農地に匹敵します。ちなみに,中国の耕地の消失速度が同じく70万haと言われていまして,これともバランスするわけです。もし,土壌改良を脱硫石膏で行えるならば,中国の耕地の消失を抑えることが可能になるということをこの数字は示しているのではないかと思います。

表2 脱硫石膏で得られる耕地(試算)

モデル地域:中国北部ナトリウム土壌

仮定:中国北部の全ての発電所に脱硫装置を設置

農地化面積:70万ha /年
       =0.7km2/年
       =630万人分/年

日本の水田:220万ha
       =2.2万km2

中国の耕地消失速度:70万ha /年
          (静岡県の面積に相当)

普及していない脱硫装置 ―途上国に適合する脱硫技術の開発が必要

 中国では脱硫装置は全く普及していません。通産省のグリーンエイド計画などで積極的に技術移転が試みられましたし,また,日本のプラント会社なども随分努力してきたわけですが,なかなか普及にまで至りません。
 その最大の原因は,途上国が受け入れるために必要な条件が満たされていないということではないかと思います。その条件とは,(1)乾式であること,(2) コストが日本の3分の1〜4分の1であること,(3) 有用な副生成物が得られることの3つです。これがなかなか満たされません。特にコスト4分の1というのはほとんど不可能に近いと思われていますし,乾式の脱硫プロセスというのは,これまで日本でもほとんど開発されていません。わずかに電子ビーム法と活性炭法があるだけです。乾式で低コストというのは世界でもまだほとんど実用化例がありません。
 何とか途上国の条件に適合する脱硫プロセスを開発したいということで,私たちは4年ほど前に科学技術振興事業団(JST)から研究費をいただき研究を開始しました。

連鎖反応脱硫プロセスの開発

 清華大学の先生方と一緒に研究を始め,何種類かの脱硫プロセスを開発したのですが,最終的には図23のような連鎖反応脱硫プロセスの実現を目指しています。こういう脱硫プロセスは今まで全くなかったわけですが,要するに連鎖反応を使ってSO2を酸化し硫酸にまでもっていこうということです。ラジカルを吹き込んでやるだけで,もし連鎖反応が起これば,簡単に有用な副生成物の硫酸が得られるということになります。連鎖反応脱硫プロセスの開発について,いろいろな方から難しいのではないかと言われたのですが,何とか実現可能性が出てきました。

連鎖反応脱硫プロセス

図23 連鎖反応脱硫プロセス

 表3の反応がまさに二酸化硫黄(SO2)が酸化する連鎖反応です。OHラジカルあるいはHO2ラジカルが媒体となって,SO2が三酸化硫黄(SO3)に,一酸化窒素(NO)が二酸化窒素(NO2)になるという反応です。コンピューターシミュレーションでは,これが実現できるわけですが,実際にどうかということで,1年ほど前から実験を行っています。少なくとも減圧条件下ではこの反応が進むということがほぼ確認されています。もしこれが常圧で最終的に起これば,連鎖反応脱硫プロセス実現の可能性がある程度出てくるのではないかと思っています。

表3 可能な連鎖反応系

OH + SO2 + M = HOSO2 + M
HOSO2 + O2 = SO3 + HO2
HO2 + NO = NO2 + OH

  SO2 + NO + O2 = SO3 + NO2
       SO2とNOの同時酸化…可能か
     課題:ラジカル発生法、副反応の影響

工場,一般家庭からのSOx対策には燃料改質で対応―バイオブリケット

 中国では全体の3分の1ぐらいの硫黄酸化物(SOx)が工場,あるいは家庭から出ています。大規模な発電所の脱硫には,先ほどのような脱硫プロセスが有効ですが,そういった小さな燃焼装置に一々脱硫プロセスを付けるわけにはいきません。こうなるともう燃料の改質で対応するしかないということで,私たちはブリケット,あるいはバイオブリケットが有効ではないかと考えています。ブリケットとは,いわゆる成型炭です。粉砕した石炭にカルシウムを混ぜますのでSO2の排出量が大体60〜70%減少します。さらに麦藁などのバイオマスを入れたのがバイオブリケットです。
 図25はブリケットがこういったローラーを使って生成されている様子を示しています。
 図26がブリケット製造マシンです。もちろん規模によりますけれども通常1億円以上はします。

バイオブリケット

図24 バイオブリケット

バイオブリケットの生成

図25 バイオブリケットの生成

ブリケットマシン

図26 ブリケットマシン

バイオブリケットのメリット

 バイオブリケットのメリットは,(1) CO2およびSO2が削減できる,(2) 石炭使用量を減らせる,(3) ノースモーク,ノーバインダーで着火性が非常にいい,(4) 非常にクリーンな燃焼になりますから,農家の先ほどの室内汚染が防げる,(5) 工場で使いますとエネルギー利用効率が10%から20%上がり省エネにもつながる,ということです。まさに生産型技術の範疇に入るのではないかと思います。

バイオブリケットの課題と対策案

 問題は値段です。脱硫コストで計算しますと,排ガス1m3当たり0.1円かかってしまう。中国でのSO2排出に対する最近の課徴金は0.01円ですから10倍してしまうわけです。これではなかなかバイブリを使ってもらえないということになるわけです。ただ,幸いなことに最近,地域によっては課徴金が4倍から5倍になりまして,0.04円になってきた。そうしますと,バイブリのコストを3分の1にすれば完全にペイすることになります。
 コストを下げる方法として,(1) ブリケットマシンを中国で製作する,(2) 廃棄物に近い石炭を使う,(3) 副生成物の付加価値を高めるという方法があります。
 バイオブリケットにはわざわざ粉砕した石炭を使うわけですから,山元で廃棄物である粉炭をただでもらって作れば,原価構成で60%以上が石炭の値段ですから,一気に半分以下へコストを下げることができるわけです。
 バイオブリケットには酸化カルシウム(CaO)が含まれており,最終的には石膏(CaSO4)になるわけですから,当然,これを土壌改良剤としても,肥料としても使うことができます。

ホワイトコールで解決図る低い脱硫率

 ただバイオブリケットには脱硫率が70%ぐらいまでしかいかないという欠点があります。何とかこれを90%とか95%まで引き上げたいということで研究を進めましたところ,豊橋技術科学大学の金博士が「ホワイトコール」(図27右側)を発明しました。
 ホワイトコールは,ただ刷毛で,通常のバイオブリケット(図27左側)の表面に石灰乳を塗っただけなのですが,表面に拡散してきたSO2がここでさらに生石灰と反応して硫酸カルシウム(CaSO4)になりますので,70%の脱硫率が一気に95%に上昇します。
 「ホワイトコール」にはもう1つ,ダーティーな石炭をビューティフルにするという意味もあります。特に途上国では,これからますます石炭を使わざるを得ない状況にあります。ただ,石炭は中国でも,黒くて,触ると手が汚れてしまうということで嫌われています。やはり石炭を非常にビューティフルな燃料に変える必要があるのではないかということを常々考えていました。黒い石炭を「ホワイトコール」にすれば人々から好かれるのではないかと考えているわけです。

バイオブリケットとホワイトコール

図27 バイオブリケットとホワイトコール

 以上,駆け足で申し訳ありませんでしたが,私の話を終わりにさせて頂きたいと思います。ご静聴ありがとうございました。(拍手)


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