放射線と放射能(2009.10.30)
「原子力発電」の話が出たので、その不安の元となっている「放射線と放射能」の話をしてみよう。
なんとなく怖そうな感じがします。
そうじゃろう。おそらく大方の者はそう感じておると思う。しかし、怖い相手の事を知っているのと知らないのでは天地の差じゃ。孫子の兵法にも「敵を知り己を知らば百戦危うからず」という有名な言葉があるように「正しく怖がる」ことが大事なのじゃよ。
なるほど、それでは早速教えて下さい。
よしよし、それでは「放射線」の話からしてみようかの。「放射線」とは、広い意味では、全ての電磁波(光、ガンマ線、レントゲン線など)および粒子線(アルファ線、ベータ線、中性子線など)のことじゃ。
もっとも、原子力基本法では、「「放射線」とは、電磁波又は粒子線のうち、直接又は間接に空気を電離する能力をもつもので、政令で定めるものをいう。」と定義されており、一般的にはこちらのような定義での使われ方が多いかのう。
それでなくても、分かりにくいのに、定義がいくつもあったら、混乱しますよ。
いや、まったく。そのとうりじゃのう。
で、この放射線の存在が確認されたのは今から約100年前(1895年)のレントゲンによる「X線」の発見が最初なのじゃ。レントゲンは、放電管に数千ボルトの電圧をかけて陰極線の実験を行っていた際、偶然に放電管を厚い紙で覆っているにもかかわらず近くにおいてあった蛍光物質が発光している現象を発見し、放電管から目に見えないが物質に対する透過力をもった「何か」が発していると結論づけ、これを「X線」と名づけたのがその最初じゃ。今ではX線は医療分野などの多くの分野で利用されておる。
健康診断で「レントゲン検査」をしますよね。
そうそう、そのレントゲンじゃ。放射線が人類に貢献しているもっとも顕著な例といえるのう。その他にも物質を通り抜ける性質を利用した非破壊検査や放射線の持つエネルギーを利用したガン治療などさまざまな分野で利用されておる。
怖いだけでなく、利用もされているのですね。ところで、放射線にはX線しかないのですか?
いやいや、代表的な放射線としては、X線(レントゲン線)の他にアルファ線(α線)、ベータ線(β線)、ガンマ線(γ線)、中性子線などがある。X線やガンマ線は「電磁波」、アルファ線、ベータ線、中性子線などは「粒子線」じゃ。
これらの放射線の「物質を通過する能力」には違いがあって、「中性子線>ガンマ線>X線>ベータ線>アルファ線」の順になっておる。

注:図中の(〜)は電磁波を、(○)は粒子線であることを表す。
図1 放射線の種類と透過力
意外に水の力は凄いのですね。
本当じゃのう。それでは今度は「放射能」の話をしよう。レントゲンがX線を発見した後、あの有名なマリー・キュリー(キュリー夫人)がウラン鉱石から放射線を出しているのはウラン原子であることを見出し、その「放射線を出す性質(能力)」を「放射能」と名づけたのじゃ。「能力」じゃから放射「能」じゃ。
放射性物質が崩壊して放射線を出すので、時間と共に放射能(放射線を出す能力)は減少する。この放射能(放射線を出す能力)が半分になるまでの時間を「半減期」といっておる。ウラン238などは半減期が45億年じゃから長いのう。
ようやく「放射線と放射能」の話が揃いましたね。
そこでじゃ、「放射線と放射能」の違いを整理してみよう。
「放射線」とは「電磁波や粒子線」のことで、「放射能」とはこの「放射線を出す性質(能力)」のことなのじゃ。
ここで懐中電灯に例えると、「懐中電灯」は「光」を出す「発光能力」を持ったものであり、「放射性物質」は「放射線」を出す「放射能」を持ったものということになる。
つまり、「懐中電灯→放射性物質」「光→放射線」「発光能力→放射能」に相当するといえるのう。
「光」を出すと「懐中電灯」の電池がなくなり「発光能力」が弱くなっていくように、「放射線」を出すと「放射性物質」の「放射能」が弱くなる。また、「懐中電灯」から離れると「光」が弱くなるように、「放射性物質」から離れると「放射線」も弱くなるのじゃよ。

図2 放射線と放射能の違い
参考:(財)日本原子力文化振興財団:「原子力」図面集-2002-2003年版-(2002)(同CD−ROM)
ところで、放射線は実験室とか原子力発電所とか病院といった特別な場所にしかないのですか?
いつでもどこでもあるのじゃよ。地球はその誕生の時から放射性元素が存在しており、大地や食物から、さらに宇宙からも放射線を浴びておる。表1に示すように、世界平均では、天然の放射線を人間が1年間に浴びる量は2.4mSv(ミリシーベルト)程度じゃ。
日本では、一般公衆の人工放射線量の限度を1年間に1mSv(ミリシーベルト)、軽水炉からの射線量は年間0.05ミリシーベルトを目標値としておるので、ニュースなどで放射線量の話があったらこの値を参考にすると良いのう。
表1 日常生活における自然放射線と人工放射線
放射線の量
(ミリシーベルト)
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影響等
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7000〜10000
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全身被ばく:100%の人が死亡
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1000
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全身被ばく:10%の人が悪心、嘔吐
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500
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全身被ばく:末梢血中のリンパ球の減少
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200
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全身被ばく:これより低い線量では臨床症状が確認されていない
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10
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ガラパリ地方(ブラジル)の自然放射線(年間)
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6.9
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CTスキャン(1回)
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2.4
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一人当たりの自然放射線の世界平均(年間)
(宇宙から0.39/大地から0.48/食物から0.29/空気中のラドンから1.26)
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1
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一般公衆の線量限度(年間)(医療は除く)
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0.6
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胃のX線集団検診(1回)
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0.2
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東京−ニューヨーク航空機旅行による宇宙線の増加(往復)
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0.05
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胸のX線集団検診(1回)
原子力発電所(軽水炉)周辺の線量目標値(年間)
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参考:資源エネルギー庁>経済産業省、エネルギー白書 2007年版(2007年)
いつでもどこでも放射線を浴び続けているのですか。何だか怖いですね。
要は「量」じゃ。1年間に1mSv(ミリシーベルト)くらいの量では特に気にする必要もない。問題が生じるのは大量の放射線を受けた場合じゃのう。その場合の人体への影響には、表2の様にさまざまなものがある。
表2 放射線の量と急性の放射線影響
放射線の量
(ミリシーベルト)
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全身被ばくの影響
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局所被ばくの影響
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10000以上
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皮膚:急性潰瘍
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7000〜10000
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100%の人が死亡
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5000
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水晶体:白内障
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2500〜6000
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生殖腺:永久不妊
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3000〜5000
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100%の人が死亡
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3000
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皮膚:脱毛
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500〜2000
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水晶体:水晶体混濁
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1000
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10%の人が悪心、嘔吐
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500
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末梢血中のリンパ球の減少
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200
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これより低い線量では臨床症状が確認されていない
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参考値)1ミリシーベルト:一般公衆の線量限度(年間)(医療は除く)
参考:緊急被ばく医療REMnet>9
放射線とその影響
何だかまた怖い話になってきましたね。
だから、要は「量」じゃ。大量に浴びると大変じゃが、逆に僅かな量では特に気にする必要はない。
そこで、将来何かの事で放射線に出会った場合に身体を守る基本を教えておこう。要は「量」じゃからして、できるだけ浴びる放射線の量を少なくすれば良いのじゃ。
放射線から身体を守る基本は「距離」「時間」「遮蔽(しゃへい)」といわれておる。放射線の影響は距離の2乗に比例して弱くなり、時間に比例して放射線量が増えるので、放射線が強い場合は「素早く」「避難」することが有効じゃ。例えば、放射性物質から100m離れた所の人は10m離れた人に比べ放射線量は1/100になるのじゃから効果大じゃのう。一方、放射線が弱ければ「屋内待避」するだけでも透過力の低い放射線を遮ることができてこれも有効じゃ。特にコンクリートの建物はその効果は大きいのう。
でも...まだ怖いです。
まあ、大量に浴びると本当に怖いのじゃから、怖く思うのは当然かのう。世界平均では、天然の放射線を人間が1年間に浴びる量は2.4mSv(ミリシーベルト)程度、日本の一般公衆の人工放射線量の限度が1年間に1ミリシーベルト、ということを参考に「正しく怖がって」欲しいのう。
次回はいよいよ「化石エネルギー」の話じゃ。
関連ページ:
●放射線発見の歴史
●放射線と放射能の違い
●放射線とは
●放射能とは
●自然界の放射線
●放射線の利用
●放射線の人体への影響
●放射線から身を守る方法
関連サイト:
●(独)放射線医学総合研究所>放射線Q&A
●日本原燃株式会社>放射線について
●緊急被ばく医療REMnet
●原子力・放射線の安全の確保ホームページ
●(社)日本アイソトープ協会
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